だがいきなりそんなことはできない。万が一見えたら大変なことになる。永久追放されるかもしれない。小3ながら、なかなか慎重な子どもだ。

 彼はまず母親で試してみることにした。マントを着て家に入る。ドアの開く音がしたから、母親は玄関に迎えに来る。彼は玄関に立っている。しかしその目の前に来た母親は、眉を潜めて帰っていった。彼がそのまま中に入り、母親の目の前に行っても、母親はいっこうに気づかない。肩を叩いても、何も反応なし。これは触っても相手に何も感じない代物なのだと、分かった。

 彼がマントを脱いで母親ほ前に現れると、母親はいつきたの?と不思議そうな顔をした。帰宅した父親の前にマントを着て出ていっても、父親は素通りした。彼とぶつかったのに、だ。

 いよいよ彼はこれが本物であると確信し出した。だがまだ信じられない。次は親しい友人で試そう、と思った。翌日、彼は昼休み、友人をトイレに誘った。初めての出来事に戸惑っていた友人だったが、彼のいつになくハキハキとした様子に、付き合ってみることにした。トイレに入ると、彼は個室に入り、マントを羽織った。友人は外で待たせている。しっかり身に付けると、彼は個室のドアを勢いよく開け、飛び出した。友人はその音に驚いていたが、何事もなかったかのように、また待つ素振りを見せている。彼の存在に気づいていないようだ。彼は再び個室に入り、マントを脱ぐと、そこから出た。友人はやっとか、というような顔で彼を見た。彼はようやく安心した。やはりこのマントを着ると、自分の姿は人に見えなくなる。それどころか、他人に触れても相手は何も感じない。彼はワクワクシ始めた。夢に見ていたこと、実行しよう。授業中に上履きを脱いでいる子から、それをちょっと拝借し、その子には裸足になってもらいたい。彼は本気だった。他の使い道など、ほとんど考え付かなかった。

つづく