ある日のこと、彼が田園風景の広がる通学路を一人登校していると、急に風が強くなった。体が持っていかれそうなほど。音もすごい。思わず彼はしゃがんで目を閉じた。なかなか吹きやまない。数秒後、風は止み、彼は目を開けた。すると目の前になにかを認めた。黒い、布。どこかでみたことがある。ああ、アンパンマンが背中にくっつけているやつだ。彼はなんでアンパンマンが飛べるのか、不思議に思っている。でもアンパンマンは好きだ。
早速彼はそれを拾った。表も裏も真っ黒で、記事はなんだか触ったことのない感触。ツルツルでもなく、さらさらでもない。でもザラザラやフワフワではない。
辺りを見渡して、彼はそれを羽織った。不思議と彼はそうしてみたくなっていた。長さも丁度よく、着心地はいい。このまま学校へ行こう。なぜかその時の彼はそう思った。
学校までの道のりは、彼の足で40分。大分遠かった。マントを羽織って30分も歩くと学校は見えてくる。生徒も多くなる。彼は変な気分になった。まるで自分がいないかのように、周りの生徒は過ぎていく。元々影は薄かったからかもしれないけど。でも自分と親しい友人がなにも言わずに過ぎていくのを見て、いよいよ彼は不安になった。なんでだろう。まるでじぶんが見えていないような状況。このマントのせいなのか。彼は怖くなり、物陰でマントを脱いだ。そして道に躍り出た。ちょうどそこを通りかかったクラスの異性が驚いたように目を見開いた。彼は小さくなった。
教室に入ると、彼の親しい友人が話しかけてきた。なんで、今朝はいなかったんだ?いつもあの時間にあのあたりにいたのに。今日もいたよ、彼は反論するが、友人はいっこうに納得しない。しまいには彼が謝った。ランドセルの中のマントのことは秘密にしていた。
放課後、彼はトイレの個室に入り、マントを羽織った。ランドセルまでそれで覆った。それから個室から出て、鏡を見る。そこには誰もいなかった。しかしマントを脱ぐとたちまち彼の仏頂面が現れる。彼は歓喜した。なんでこうなるのかはおいといて、とにかく歓喜した。自分の姿が隠せる、夢に見たことが今、実現しようとしている。
つづく