子供の頃から臆病者で、損ばかりしている。幼稚園に通っていた時分、誰もが一度は遊んだことのある滑り台で、彼は一度も遊ばなかった。手すら触れなかった。高いところから滑り降りる、そんな恐怖体験、したくなかった。彼はいつも地面の上にいた。ただ抱っこされるときは別だ。
 小学校にいる時分、彼は友達が少なかった。嫌われるのが怖くて、迂闊に話しかけられなかった。人目も大分気にして、嫌われないよう努めた。人とおんなじことを、ただ真似してやっていた。
 そんな彼だから、自分からなにかをするなど、もってのほかだった。現在彼は小学3年生。今も彼は一人孤独に過ごしている。
 

 そんな彼だが、興奮する事はいくつかある。まず電車。ホームに立つと、電車が来るまでじいっと遠くを見ている。東京駅にいった日には、一日中新幹線やその他たくさんの電車を飽きることなく見ていた。
そしてもうひとつ、裸足の異性。靴下でも、完全な裸足でも、靴を履くべき場所でそれを履いていない異性にキュンとくる。なぜかは本人にも今のところわからない。ただ、彼は小さい頃から、アルプスの少女ハイジを見てきた…。あの感動のシーンは忘れない。彼もあどけないながら号泣した。
 そんなわけで、彼の目は時々下を向く。人と目があったときはもちろんだが、裸足の異性を発見したとき、彼は瞬時にそれを捉える。そして見えなくなるまで観察する。決して自分から近づかない。怖いから。
そんなだから、いつも後で後悔する。何であの時もっと近づかなかったんだ、自分の、ばか。
 また、靴を脱ぐしぐさにもキュンとくる。家に上がるとき、履き替えるとき、靴の試着のとき…、はたまた何でもないところで椅子に座った異性がさりげなく靴から足を浮かせているとき。つまり、靴脱ぎをしているとき。教室で、異性が授業中上履きを脱いでいるとき。それらが裸足だったらなおさら。そんなとき彼はその靴を持ち去ってその子を裸足にしたい、そんな夢を見ている。まあ、子どもの思っていることだ、大目に見て欲しい。もちろん、そんなことできっこないのだから。彼はただ傍観者であり続ける。

つづく