所定の位置につくと、生徒を座らせ、人員確認。よし、みんないる。すぐに学年主任の先生に伝え、生徒の元へ。皆混乱の表情。怖いだろうな。しっかり落ち着かせてあげないと。それから30分、私たちはグラウンドで待機していた。パトカーに男が乗せられ、去っていくまで、私は生徒たちに声をかけて回った。裸足であることを心配してくれた子もいた。でも私が弱味を見せてはいけない。大丈夫、そういい続けた。犯人は逮捕され、その場で生徒たちを家に帰すことになった。1階の窓ガラスが10枚、割られ、職員室の中も荒らされたらしい。幸い、先生に怪我をした人はいなかった。私の裸足の足も、大丈夫だった。
それから速やかに生徒を帰宅させる。先生たちも安全のために、通学路に立つことになった。私は皆が帰るとすぐに職員室方面へ向かった。靴はそこにしかない。既にガラスは片付けられており、いくつか窓枠だけの窓がはまっているのが見てとれる。廊下を足早に歩いていると、チクリと鋭い痛みが足の裏を襲った。職員玄関まで後数歩だった。足の裏を見てみると、埃で真っ黒になったかかとの部分から血が流れ出ている。ガラスの残り破片があったらしい。うかつだった。もっと用心して歩いていたら。いや、そもそも自分が裸足で歩いていなければ…。悔やんでも仕方ない。ともかく、これでは危険だ。迷ったが、保健室の先生に診てもらうことにした。一番的確だと思った。靴箱から上履きをとって裸足で履き、けんけんで進んだ。
保健室の先生は、私と同い年と50歳くらいの2人の先生。私が行ったとき、50歳くらいの方の先生がいた。若い方は不在。事情を長々話し、足の裏を拭いて、消毒し、包帯をまいてくれた。傷は浅いが、長いらしい。3センチくらい切れていたという。包帯をまいている間、50歳くらいの、松下先生は優しく語りかけてくれた。
「先生、皆と一緒に裸足で過ごすって、とてもいいことだなあって、私、思います。私もあなたくらいの時、もし同じ立場だったら、裸足で過ごしてたと思うもの。でも、やっぱり危ないと私は思う。こういう、避難の時なんか、生徒たちにはサンダルを準備してあったけど、先生なにもなかったんでしょ?今回は避難を無事終えられたけど、実はすごく危ないことだったのよ。分かるわよね?先生が機能しなくなったら、こどもたちまで危険にさらされる。裸足教育って、やっぱり難しい。私は反対よ。たとえ生徒たちが健康になるっていってもね。で、先生はこれからどうするの?校内で、靴は履く?よし、巻き終えた。じゃあね、がんばって。」
「…ありがとう、ございます…。」
私はすっかり気落ちしていた。先生はやはり、裸足じゃいけないのだろうか。生徒たちと一緒にいられないのか。生徒を見送り、会議を終え、家に戻り、包帯の巻き直しをしているときも、迷いは続いた。ちょうど明日はお休み。また2日後に、学校に行く。その時は、どうしよう。
つづく