その翌日からも、私は裸足での生活を続けた。最初少々感じていた、汚いなとか、恥ずかしいなとかいう感情は すっかり薄れ、裸足でいるのが楽しかった。クラスの生徒とも打ち解け合い、授業も滞りなく進んだ。そんな楽しい毎日が過ぎ、7月になった。


 それは暑い日だった。快晴で、空には雲ひとつない。私はいつものように、クラスの教室で算数の授業をしていた。学校内はとても静かで、窓の開いた教室内には、2台の扇風機と、私の裸足の足音のみが響いていた。それに私と生徒の会話が添えられる。校庭の緑が眩しい。

 授業が半分を過ぎたとき、突如階下で何かが割れる音がした。同時に叫び声、いや、雄叫びが聞こえる。ウオーと、校舎全体に、どすのきいた男の声が響き渡る。生徒の間に、怯えの色が窺えた。何かが起きたのは明らかだった。私が焦ってはいけない。冷静に、生徒の安全を守る。
「みんな、大丈夫よ。落ち着いて。窓を全部閉めて。鍵は後ろだけ、かけておいて。あと、窓の鍵もかけて。終わったら、席について、静かにしてて。」
がたがたと、窓が閉まってゆく。そしてまた静かになる。何があったんだろう。すると、突然緊急放送のチャイムが。同時に非常ベルも鳴り響く。
「ただいま、1階職員室前で、男が暴れています。生徒は速やかに、靴を履いてグラウンドへ避難してください。先生方は、避難経路Cを通ってください。繰り返します、生徒の皆さんは、速やかにグラウンドに避難してください。先生方は、避難経路Cを通ってください。」
 いきなりの避難。避難訓練は何度かやっていたから、大丈夫。経路はC。職員室で何かが起きたときの避難経路。中庭に一旦出て、校舎を回ってグラウンドに行く。生徒達に、廊下の靴箱にある自分達のサンダルを履かせたところで、気づいた。自分の靴は、外用も内用も、職員室のとなりにある。いまそこは危険…。裸足で行くしかない。迷ってはいられない。廊下に並んだ生徒を確認して、私は裸足のまま、廊下を端まで進む。走ってはいけない。階段を降りると、すぐ隣に出口がある。中庭だ。砂場にアスレチックが備え付けられている、人気の場所。もちろん、生徒は裸足で遊ぶ。
 そこを抜け、校舎の脇を通ると、グラウンドに出る。既に生徒が集まり始めている。直後にパトカーがサイレンを鳴らしながら玄関脇に止まった。警察官が飛び出し、校舎内に消えてゆく。

つづく