船は、メイの島と近くの島(これも沖縄本島ではない)とを1日1往復する定期便。定員20人の小さな船で、揺れも激しい。少しでも波が高くなったら欠航となる。昨年の夏は特に天気が荒れやすく、半分の日数くらいしか運航できなかった。メイは生まれてから数回乗ったことがあるけれど、毎回のように船酔いをしていた。
そんな小さな船から、多くの物資とともに、島に数人が降り立った。多くは買い出しに出た島のおばあさんおじいさんたちだったが、中に一人異彩をはなつ男の人がいた。白い半袖シャツにサングラス、ベージュのスラックスに先のとがった若者風のビジネスシューズ。島は年中暖かく、夏は30℃を越え、冬は20℃前後という気温。一年中半袖でも過ごせる。メイも、中学校の制服は長袖もあるが、着たのはここ2年間で2、3度くらいである。ハルナも長袖を着たところを見たことがない。
船を降りた男の人は、サングラスをはずし辺りを見回していた。顔はイケメンの部類に入るだろう、筋肉はついているが、痩せてすっきりとして見える。伸長は170くらいだろうか、腰の曲がったおじいちゃんおばあちゃんの中ではひときわ高い。メイはすぐに心臓がドキドキ高鳴るのを感じた。思わず、
「かっこいい…。」
と呟き、ハルナに茶化されてしまった。しばらく辺りを見ていたその人は、急に苦しみ出した。船酔いをしていたようである。
見るに耐えない状況になったため、メイはハルナとi一旦家路についていた。この靴下のままでは、登校できない。港から島の裏手へ回った地域にある集落の一つがメイの、その2軒前がハルナの家である。坂に沿って段々に建てられた家々は、集落だけで20。あとは港の近くに30ある。島には32世帯、111人が住んでいる。ほとんどが高齢者で、漁師さんが多い。メイやハルナのお父さんも、その仕事に精を出している。
島の周囲は3キロほどで、30分も歩くと誰でも1周できる。島には小さな学校が1つと商店が2つ、郵便局が1つある。あとはなにもない。診療所も交番も。ドラマやマンガみたいに、いい駐在さんやお医者さんが来てくれたらいいのにな、といつもメイは夢見ていた…。
学校は小学校、中学校が一緒になっており、それぞれ先生が1人、校長先生が1人、教頭先生が1人、用務員のおじさんが1人。小学校には1、2、3年生が1人ずつ、5年生が2人。島の子どもはその他に、2歳と5歳の子がおり、来年度は新しく1年生が入ってくるのだ。
校舎は1階建てで横に長く、大きなグラウンドもある。初夏にはここで島の人みんなで運動会をひらく。子どもたちの大好きな行事だ。メイやハルナも参加し、毎年楽しんでいる。メイたちの環境はこのようになっていた。
つづく