「って、ちょっと、ハルさん、私の靴どこやったのよ!」

逃げ行くハルナを追おうと、防波堤から体を下すと、メイは靴を履いていないことに気づく。あたりに脱いでいたはずの靴もない。

「うふふ、ここだよ。ほら」

ハルナを見ると、なんとメイの靴をもっているではないか。

「あ、ちょっと、返しなさい!」

「なんで脱いでたの?」

「え?いや、なんとなく・・・」

「かわいいね、メイも!」

「もう、そんなこといいから、さ、返して!」

「ほら、ここまでおいで!」

ハルナは港から島の山へ続く坂道を上って行き、止まる様子もない。ふつうはどこかに靴を置いて逃げるはずだけど、小さい頃からの付き合いで、ハルナはそんな子ではないとメイはわかっている。だからメイはハルナを追いかけ白い靴下のまま駆け出した。オシャレにあまり気を使わず、活発なメイ。裸足で外をかけるなど、子供のころからよくやっていた。小学1年の時には裸足のまま山を散策し、泥だらけで家に帰ったこともある。堤防に座っていると、靴は落ちないかなとか考えて、白いスニーカーは脱いでおいた。靴下の足をぶらぶらさせていると海風に吹かれて心地いい。その傍らにおいていた靴をいま、ハルナにとられてしまった。昔からいたずら好きな子だ。先生にまでいたずらを施し、よく怒られていたのを目にする。

 しばらく靴下のまま舗装されていない土の地面を追いかけて、山の山頂に着いたとき、ようやくハルナを捕まえた。山頂といっても、海抜50M位である。山頂広場の芝の上に2人で寝っころがる。

「もう、逃げ足早いんだから、ハルさんは」

「メイも、けっこう速いね。小学校ではいつも私が負けてたもんね」

「そうだっけ・・・?まあ、いいか。それより靴下泥だらけじゃん。どうしてくれよう」

メイは起き上がって胡坐をかくと、足の裏が泥だらけになってしまった白ソックスを見つめる。ぱんぱんとはたいてみたが、土はこびりついてしまって、家でごしごし洗わないととれそうにない。

「ごめんなさい!」

ハルナはおどけて、土下座をして謝る。いつもの流れだ。

「まあ、ゆるす」

その後、靴は履けそうもないので手に持って、茶色くなった靴下のまま山を下り、港まで戻ってくるとちょうど船がついていた。噂の、新しい先生が乗っているはずの、船だった。

 

つづく