「おうい、よかったら、近くで見ないか?興味があるんだろう。」
びっくりしたが、いかないわけにはいかない。お辞儀して土手を降り、その人の元へ向かう。アリサさんは驚いたように目を見張っていた。忘れてはいなかったようである。
「さ、あそこに座って。好きなだけ見てていいからね。」
先生と分かる男の人は親切にも椅子を薦めてくれた。ちょうど木の陰になって、快適だ。涼しい風も吹き、汗が収まる。練習は再開された。
きびきびと動く生徒さん達を見ていると、みんな靴を履いておらず、白い靴下のみで演技をしていた。アリサさんを含む女の子5人もだ。時折見える足裏は、土で焦げ茶色に汚れていた。これも習慣のようで、みんな慣れた感じ。草の上を靴下のみで走り回る。そんなアリサさんの姿は、とてもたくましかった。
「よし、少し休憩しようか。しっかり水分補給しろよ!」
「はい!」
30分すると休憩時間に入った。うれしいことに、アリサさんが話しかけてきてくれた。足元は汚れた靴下のまま。
「あの、この前の…?」
「ええ、すごいですね、本格的に劇をしてるんですね。」
丁寧語なのはいつものことだ。友達同士でもこれ。女の子受けはよくない。
「ありがとうございます。今日も塾だったんですか?」
僕が丁寧語だから、相手もそうなる。なかなか親睦が深まらない。でもこれが癖だから困る。
「そうですね、ほとんど毎日。午前中だけですけど。」
「大変ですね。あ、飲みます?おばあちゃんが作った、麦茶です。」
水筒から、コップにお茶を注ぐアリサさん。それからコップを僕に差し出す。今まで彼女が飲んでいたコップで…。
「いいんですか?」
「ええ、ぜひ。」
にっこり微笑むアリサさん。鼓動が早まる。コップを受けとり、一口飲んでみる。すっと口の中に麦茶の香りが広がる。そのまま乾いた喉を潤す。おいしい。よくわからないが、確かにペットボトル入りの麦茶とは違う。おばあちゃんが作ってくれるお茶とも違う。お茶がおいしいと感じたのは初めてだ。こんなにも違うのか。すぐにすべて飲み干してしまった。
「ああ、おいしいです。すごいですね、あなたのおばあちゃん。」
「ありがとう。作り方にコツがあるんだそうです。私にはわからないんですけど。」
それからうふふと笑う。僕もつられて笑う。目が合う。大きく澄んだ瞳が僕を見つめる。
「ああ、あの、お茶、僕が飲んでしまって、よかったのでしょうか?」
「もちろん、大丈夫です。心配しないで下さい。あと2本、ありますから。」
そう言って指差す先に、大きな水筒が2本、並んでいた。
つづく
びっくりしたが、いかないわけにはいかない。お辞儀して土手を降り、その人の元へ向かう。アリサさんは驚いたように目を見張っていた。忘れてはいなかったようである。
「さ、あそこに座って。好きなだけ見てていいからね。」
先生と分かる男の人は親切にも椅子を薦めてくれた。ちょうど木の陰になって、快適だ。涼しい風も吹き、汗が収まる。練習は再開された。
きびきびと動く生徒さん達を見ていると、みんな靴を履いておらず、白い靴下のみで演技をしていた。アリサさんを含む女の子5人もだ。時折見える足裏は、土で焦げ茶色に汚れていた。これも習慣のようで、みんな慣れた感じ。草の上を靴下のみで走り回る。そんなアリサさんの姿は、とてもたくましかった。
「よし、少し休憩しようか。しっかり水分補給しろよ!」
「はい!」
30分すると休憩時間に入った。うれしいことに、アリサさんが話しかけてきてくれた。足元は汚れた靴下のまま。
「あの、この前の…?」
「ええ、すごいですね、本格的に劇をしてるんですね。」
丁寧語なのはいつものことだ。友達同士でもこれ。女の子受けはよくない。
「ありがとうございます。今日も塾だったんですか?」
僕が丁寧語だから、相手もそうなる。なかなか親睦が深まらない。でもこれが癖だから困る。
「そうですね、ほとんど毎日。午前中だけですけど。」
「大変ですね。あ、飲みます?おばあちゃんが作った、麦茶です。」
水筒から、コップにお茶を注ぐアリサさん。それからコップを僕に差し出す。今まで彼女が飲んでいたコップで…。
「いいんですか?」
「ええ、ぜひ。」
にっこり微笑むアリサさん。鼓動が早まる。コップを受けとり、一口飲んでみる。すっと口の中に麦茶の香りが広がる。そのまま乾いた喉を潤す。おいしい。よくわからないが、確かにペットボトル入りの麦茶とは違う。おばあちゃんが作ってくれるお茶とも違う。お茶がおいしいと感じたのは初めてだ。こんなにも違うのか。すぐにすべて飲み干してしまった。
「ああ、おいしいです。すごいですね、あなたのおばあちゃん。」
「ありがとう。作り方にコツがあるんだそうです。私にはわからないんですけど。」
それからうふふと笑う。僕もつられて笑う。目が合う。大きく澄んだ瞳が僕を見つめる。
「ああ、あの、お茶、僕が飲んでしまって、よかったのでしょうか?」
「もちろん、大丈夫です。心配しないで下さい。あと2本、ありますから。」
そう言って指差す先に、大きな水筒が2本、並んでいた。
つづく