翌日も僕は塾を終え、土手の道を歩いていた。その日は朝から雨だった。時おりぬかるみに足をとられながら、道を進む。町は激しい雨に暗く沈んでいた。遠くに見えるはずの、やや標高のある山も、今はもやに隠れている。昨日彼女と別れた交差点に着いた。少し迷って、僕はそこを曲がった。彼女の家はどこなんだろう。純粋にそう思った。下心などあるはずもない。
 人通りもなく、車も全く走らない、細い路地。大小様々な家が並ぶ。時々真新しい家があり、どこか浮いていた。

 一軒一軒表札を見ていく。笹山さんは…。あった。築20年くらいだろうか、立派な2階建ての洋風の家。庭はしっかり手入れされ、季節の花が咲いている。向日葵だ。しかし今日はどこか元気がない。立ち止まっているのも怪しまれるので、そのまま進んだ。まっすぐいけば、町のメインストリートに出るはずだった。   

 笹山さんはあの家だけであった。間違いないだろう、アリサさんはあそこに住んでいる。裕福そうな家だった。彼女によく似合う。
僕が家に着いたのは、それから1時間後だった。恥ずかしながら、道に迷った。さして広くもなく、道も複雑でなかったのに、恥ずかしい。疲れていたので、その日はよく眠れた。明日は会えるかな。淡い期待を思いながら、意識は朦朧としていった…。

 翌日は快晴だった。ジリジリと太陽が照りつける。昨日の雨が嘘のようだ。僕は変わらず、土手の道を帰宅していた。すると、川沿いの芝生で、中学生くらいの人たちが遊んでいるようだ。土手からは5メートルほど下がった場所に、幅8メートルくらいの広場が整備されている。春に来たときはここで遊ぶ人をちらほら見かけたが、このじっとしていても汗を書くような暑さのなか遊ぶのは非常にきつい。いや、危険だ。なにをしているのだろうと、少し歩を緩め、そちらを注視する。女の子が5人、男の人が3人。みんな忙しそうに動き回っている。一人その動きを見ていた男の人がなにやら話す。みんなはそれをきき、また動き出す。遊んでいるのではない。立派な劇を演じていた。制服はアリサさんと同じもの。つまりアリサさんの学校の演劇部なのだ。ということは、アリサさんも…、いた。みんなの中に入って、大変そうだ。その時僕はすっかりそれに夢中になっていた。土手のうえから見る人に気づいたのか、監督さんと思われる、大柄な男の人が僕に話しかけてきた。


つづく