あ、そうだ、なにか声をかけないと。
「それは大変でしたね…。僕が探してきましょうか?」
「いえ、もういいんです。この川、流れ早いし、もう海に着いてます。諦めます。ああ、お母さんに何て言おう。」
とても靴飛ばしするようなやんちゃな子には見えない。むしろ、編み物だったり、図書館で本を読んでいたり…。
「あ、長々と話してしまって、ごめんなさい。では、さようなら。」
ほんとに落ち込んでいるようで、体全体でしょんぼりとしている。細く、華奢な体つき。足も細い。このスカート丈がもったいない。
「あの、一緒に歩きませんか?ちょうど僕もそっちなので。靴はどうしようもないですけど…。」
僕にとって初めての、プロポーズだった。

 彼女は笹山アリサというらしい。見た目にぴったりの名前だ。話していると時折見せる笑顔がなんとも眩しい。今まで一度も出会ったことのないような女の子だった。この町ただ一つの中学校に通う2年生ということだ。驚くことに、同い年。もっと大人っぽくみえる。けれども仕草は幼い感じがする。声も幼く、声優が務まりそうな、ハキハキとした話し方。部活は演劇部だそう。うん、ヒロインにはぴったりだ。ハキハキとしたしゃべり方にも納得がいく。相当練習したんだろうな。でもいきなり靴飛ばしなんて、するかな?

 その日は惜しくも、土手沿いのみちから逸れて、少し住宅街の道を歩いたら、わかれることになってしまった。さようならと声を交わし、手を振りながら、アリサさんは去っていった。片足色んな汚れがついて、灰色になった靴下だけの彼女の後ろ姿は、どこか寂しげであった。遠くの空を、カラスが3羽、哀しく鳴きながら飛んでいた。

つづく