一瞬なにが起きたか分からなかった。体を起こす。黒いTシャツが砂まみれ。辺りを見渡すと、僕の前で、制服に身を包んだ中学生らしき女の子がいててと言いながら体を起こすところだった。
「あの、大丈夫ですか…?」
「え?あ、ああ!ごめんなさい、よそ見してて、ぶつかってしまって…。すぐ拾います。」
ながーい紺のスカート。上は一般的なセーラー服。汗で下着が透けて見える。チラチラと脇腹も覗く。スカートが、長すぎだ。残念。そしてなぜか、靴を片方しか履いておらず、片方は白い靴下のみで、うん、元は白い靴下だったのだろうが、今は土や砂で茶色かったり黄土色だったり、足の裏は砂がついて茶色く足形に汚れが浮かび上がっていた。ひざをついて僕の道具を拾ってくれるときに見えた。
「はい、砂がついてしまいましたけど…。」
「あ、ごめんなさい、なにもしないで…。」
「いえ、いいんです、私がぶつかったんだし。」
「なんでそんなにいそいでたのですか?」
足元に視線を向かわせながら聞く。女の子はその目線に気づいたのか、恥ずかしそうに靴下だけの足を、靴を履いた足に隠して答える。足の指がもにもに動く。
「恥ずかしいんですけど…、私、今学校帰りなんですけど、なんか知らないけど、靴飛ばししようかなあって思って、明日天気になあれって、靴を、この道の上で飛ばしちゃったんですよ。あたし、へたくそだったんです、靴飛ばし。真っ直ぐ飛ばしたつもりなのに、なんか右にそれちゃって、そのまま川にちゃぽんって。それから、流されるあたしの靴をひたすら追っかけて、かれこれ20分は経ちます。途中で止まったりしたんだけど、とろうとするとまた流れだしちって…。そのままぶつかってしまって…。おまけに靴はそのまま流されて…。高い靴だったのに、バカですね、あたし。」
なまりの入った言葉で一気にしゃべる女の子。困ったようなその子の顔は、髪は汗でぺちゃんこだったが、とても可愛らしく見えた。目はくりりとして、鼻は高く、唇はぷるんとして、ややいま話題のアヒル口。にきびやほくろもなく、きれいな顔。困り顔がなんともかわいい。

つづく