セミが鳴く。眩しい太陽がぎらぎらと照りつける。身体中に汗を下記ながら、僕は川沿いの土手を歩いていた。

 今、僕は夏休みに入っている。学年は中学二年。中二病とか言われるけど、僕は断じてそんなのにはかかっていない。勉強に励んでいる。今も、塾の夏期講習を終えて家路についているのである。ここは僕の母方の祖父母の家がある、地方の田舎町。人口1万人足らずの小さな町で、高齢化が進んでいる。僕がいま母と妹と滞在している祖父母の家の近くも、お年寄りばかりだ。最高齢は98歳だという。僕も会ったことがあるが、とても優しいおばあさんだった。夫は10年以上前に亡くし、今は一人で住んでいる。病気もせず、100歳は越えたいと、力強く笑っていた。
 自転車はない。あればいいのだが、車で僕の自宅から2時間かけてやってきて、自転車など載せるスペースはない。おまけに帰りは新幹線だから持ち帰れないし。あきらめた。塾は長い休みの間だけ、小5のころからお世話になっている。友人もでき、僕の学校の話などを聞いてくれる。個人経営で生徒は男子がほとんどだが、授業も分かりやすく、楽しい空間だ。
 しかし暑い。ちょうど大きな木の下が日陰になっていた。少しそこで立ち止まる。川の方を見渡す。川がある。対岸には田んぼがある。後は家がぽつぽつあり、対向1車線の幹線道路を車がひっきりなしに行き交う。僕の住む町は地方の都市で、そこも中心部にはデパートも駅もあるが、少し車を走らせるとたちまち畑や田んぼが出現する。電車は単線を4両か2両かが走る、そんなくらいの街だ。

 しかしこの町はそれ以上にのどかだ。時がゆっくり流れる。電車は存在しない。1両編成のディーゼル車が町の中心部の駅に1時間に1本くるくらい。僕にとって、この町は田舎なのだ。
 しばしそんなことを考えていると、幅3メートルくらいの澄んだ川を、何か白いものが流れていった。なんだ?目を凝らしていると、どしん。体がはね飛ばされた。持っていた鞄から、塾の道具が飛び出し、乾いた砂の土手の道に散乱する。


つづく