バス停についたのか、バスが止まる。前のグライドスライドドアが静かに開く。ハルカは席を立つ。とぼとぼと出口に向かい、運転手さんに定期券を見せて、偶然にも手に取っていた整理券を運賃箱に入れ、未だ湿った地面に降りる。運転手さん、驚いたような顔してたな。雨はすっかり上がり、月が見える。後から2人降りてきて、足早に住宅地の暗がりに消えていく。誰も手を貸してくれなかった。なんだか寂しい。靴下はじっとり濡れている。車内では乾いていたのに。でも5分歩けば家だ。なんだかとても疲れた。早く帰ろう。バスはいつの間にか行ってしまった。今はとても静かだった。
靴下が汚れるなんて、もうどうでもよかった。足裏全体をつけ、とぼとぼ歩を進める。冷たい、ゴツゴツしたアスファルトの道路。

 どれくらい歩いただろうか、足が痛くなってきた。体も思い。ほんの数分の道なのに。

 少しの間立ち止まっていると、後ろから走ってくる足音が。なんだろう…。変質者?!びくびくしながら振り替える。でも足は踏み出せない。
「ちょっと、そこの女の子、待って待って。」
おばさんの声だ。近づいてきて、私の前で止まった。激しく息が上がっている。
「あの、なんでしょうか…?」
「ああ、ごめんなさいね、ちょっと息があがっちゃって…。おほん、さっき夫から電話があったの。バスの運転中なんじゃないの?って怒ったんだけど、お客さんから電話借りたんだって。お客さんが、そう言ってきたんだけれど、夫も気になってたから電話してくれて。裸足の子がいたから、靴を貸してやって、って。いつもこの道を歩いていくから、今から出たら追いつくって。ああ、私のうち、あのバス停の目の前でね、まあ、靴を探すのに時間はかかったんだけど、いいの持ってきたよ。はい。」

差し出されたのは、まだきれいなローファーだった。


つづく