教室は校舎の3階だった。教室にはまだ半分ほどしか来ていない。大体は僕と同じ学校の人だったが、一般の人もいた。大学生かな。一番後ろの席には黒タイツを履いた、けっこう美人な長いつややかな髪の女の人。スリッパはなく、冷たそうに、爪先を床にちびっとつけていた。足裏は後ろから丸見えで、白く埃や砂がついていた。踵から透けて見える肌色が、なんともたまらない。

 僕の席の右前にはこちらも大学生とおぼしき女の人。ショートヘアを赤く染めている。履いているのは今流行りの、タトゥータイツ。細いふくらはぎからすねにかけて、チョウの模様が入っている。こちらもスリッパは履いて居なかった。椅子の下で組まれた足。足裏は僕の席からは丸見え。肌色に足形に黒く汚れがつき、踵部分は伝線していた。大学生になって校内を上履きなしで歩くはめになるなんて、誰が予想しただろう。冷たいだろうな。
 ふっと我に帰る。いけない、また現実を忘れてしまった。フミは…?ああ、すぐ後ろの席だ。早速英検のテキストを読んでいる。僕もやらないと。最終確認だ。
 しかし、それからは全く集中出来なかった。タトゥータイツの人の足元も気になるし、続々入ってくる同じ学校の女子生徒の足元に目が奪われる。残念ながら、みんな上履きは履いていたが。集合時間まで後10分という時、フミがトイレに誘った。いいよ、と着いていく。教室で退屈そうにたたずんでいる試験監督の人にトイレの場所を聞き、廊下を進む。もうフミは慣れたのか、靴下の足全体を床につけていた。汚れの度合いは見えないが、けっこう汚れているだろう。トイレには特にスリッパはなかった。はいってから気づいたが、フミとは別れていたため、フミがどうしたかはわからない。
 用を足して外に出ると、そこにフミは居なかった。靴下のまま入ったのか?学校生活ではよくあることだ。
 2分ほどそこで待っていると、フミが出てきた。
「あ、ユウ君、待っててくれたの?うれしー。」
「いえいえ。トイレにスリッパはあったの?」
「ううん、だから、そのまま入っちゃった。ほら、少し濡れたし。つめたあい。」わざわざ足裏を見せてくれた。それほどでもないが、やはり黒く足のかたちが着いている。
「すごいね。じゃ、戻ろうか。もうすぐ始まる。」
「うん」
 教室に着くと、大体の座席が埋まっていた。何故か僕の右隣の席が空いている。誰が来るはずだけど…。
 集合時間1分前、教室内の緊張が高まるころ、ドアが勢いよく開いた。息を切らして髪のボサボサな女の人が立っていた。

つづく