小学校5年生のマサミたちにとって、初めて家庭から離れた場所に、親や親戚がいない状況下で3泊もする。期待と不安が入り交じった、複雑な気持ち。マサミもそうで、2 週間前から準備を始め、前日は8時に寝た。それほど一大イベントだった。
部屋に入ると、まずはその綺麗さに驚き感動した。みんなが歓声を上げた。7畳の部屋には畳が敷かれ、テーブルと棚。棚の上には電話。何かあったらこれですぐ事務所につながる。また、窓からは街灯に照された森とグラウンド。畳は最近変えられたようで、まだ新品の匂いと色を呈していた。押し入れには布団が5人分。ふかふかだ。またトイレは別に集まってある。用を足すにはそこまでいかなくてはならない。部屋は以上。まるで旅行にきた気分になる。でもこれからが大変だ。
荷物を片付けると、外靴を置きにいく。ああ、忘れていた。館内は上履きがいる。学校と同じくらい、ろうかは汚れるそうだ。また、部屋に入るときは、入口脇の靴箱に上履きを入れておく。みんながたくさんの荷物が入った旅行かばんから上履きを出すのをみて、あわててマサミも上履きを出そうとする。たしか、ここに…、あれ?あれ?あれ?どうして?あれ?
「どうしたの?マサミちゃん…。」
「さ、早く行こうよ、部屋長さん!」
マサミは部屋長になっていた。単純に、じゃんけんに負けた。
「ちょ、ちょっと待って、上履きが…。」
「え?ちょっと、ウソでしょ?」
「上履き忘れたの?」
「………、ああ…、うん、そうみたい…。入れ忘れたんだ…。も~!ばか!」
「どうしよう…、上履き、いるよね?」
「先生に聞きにいこ!」
「さ、マサミちゃん、元気出して!大丈夫だよ!」
「うん…。」
そうなだめてくれるものの、マサミといっしょに上履きなしで館内を歩こうという子はいなかった。マサミ以外の4人はきっちり上履きを履いていた。ふだん学校で履く、普通の上履き、バレーシューズ。洗ったのだろうか、まだ汚れているのもあった。みんな、青色。
つづく