俺には自慢の幼馴染がいる。
勉強ができて、放課後には毎日一緒にギャルゲーをプレイして、僕がいじめられた時はいつも助けてくれる。とてもいい奴なのに、メガネだからか、芋くさい印象を与えるせいで、全く目立たない変わった奴だ。
彼女は絵が上手く、ギャルゲーの絵を描くのが夢で、二人でゲームを作ろうと誓った。
夕暮れ時、そんな彼女と遊び疲れた時に食べる、異常に甘ったるいあずきバーが大好きだった。
ただ、そんな関係性は、あの日を境に変わっていった。
ある日、校内カースト上位の、いかにも金持ちそうな奴がなんとなく幼馴染をいじめはじめたのだ。
僕は止めようと思った。
しかし、ヘイトが彼女に移りゆくに連れて、次第に僕に対するいじめが弱まっていくではないか。
初めは、小さな加勢だった。
消しゴムをわざと落としたり、席を離してみたり。
それでも彼女は平然としていて、それどころか昔よりも話しかけてくれるようになった。
僕は理解した。
こいつはいじめてもいいやつだ、と。
だから当然のように、びしょ濡れになった彼女の左眼球にハサミを突き刺した。
勿論、彼女は失明した。
事の重大さに気がついた時には、僕の居場所は完全に無くなっていた。
学校に居場所のなくなった俺は高校中退、引きこもるように。
俺は大幅に体重を増やし、職にもありつけず、数年が経った頃、実家に電話が来る。
それは幼馴染からのものだった。
近所の公園に呼び出され向かってみると、そこにはあの頃と変わった幼馴染がいた。
髪は茶色くなり、メガネはもうない。
そういうのに疎いから良くは分からないが、身だしなみからはもう芋くささを微塵も感じさせないものだった。
左目は、分けられた前髪に覆われ見えなかったが、もう視力が無いことは確かだろう。
はじめは過去に目を傷つけてしまったことから、俺は会うのが申し訳なく、怖気付いてすらいたが、幼馴染はそんなことを気に留めてはいなかった。
むしろ俺のことを気にしていて、幼馴染をいじめなければどうしようもなかった俺を助けられなかったことに罪悪感を感じていた。
そんな彼女の優しさに、何もかもが許されたような気がした。
互いに胸に秘めた思いを明かせた事によって、昔話が思ったよりも広がった。
そんな中、幼馴染は自分の仕事の話をしだす。
幼馴染はエロゲの原画家として大成していて、近いうちに会社を設立して独立、俺と幼馴染二人の長年の夢だった共にゲームを作ることを実現するため、ディレクターにならないかと提案してきた。
もっとも、俺の方はそんな事、覚えているだろうとは微塵も思っていなかった。だからこそ覚えていてくれた事はとても嬉しかった。
しかし、それにまつわる経験も、努力もしてこなかった俺には何もないことを誰よりも理解していた。
それに幼馴染から多くを奪ったことはあれど、与えたことは何一つ無いのだ。
その話は飲めないと、幼馴染の誘いを断る。
家に帰り、何もしてこなかった自分や、幼馴染を傷つけてしまった過去の自分が許せなく、涙が止まらなくなった。
これ以上幼馴染から何も奪わないために、一つの決意をする。
その直後、あの頃のようにコンビニ袋を提げて家にやってきた幼馴染が、首を吊っている俺を目撃し、泣き崩れていた。
いや、もう視界が霞んで良く見えない。
机の上のぬるい缶コーヒーだけがやたら主張をする。
彼女は泣いていてくれたのだろうか。
蝉時雨がうるさい。
その中に紛れて、一つの声が脳の奥まで響いていた。
「たかしは夢を与えてくれた」
彼女から奪ったものは多過ぎた。
それでも、たったこれだけのことで誰かに必要とされる世の中だと理解してしまった。
この優しい世界に、もっと早く気がつくべきだった。
瞬間、身体はふわり宙を舞った。
蒸し暑い横浜の昼下がりだというのに、甘過ぎるあずきバーはなかなか溶けてくれなかった。
