○お屋敷内・居間(広間)
舞台中央より端寄りにイス1脚。客席に、斜め外に向けて置かれている。
エプロン姿で女装した家政婦が登場する。
「はい。お呼びでしょうか、(胸の谷間を強調する立ちポーズで)旦那様」
「わかりました。お洗濯ですね。けい子、お洗濯大ーぃ好きです。お洗濯(腕をかわいく上げて)がーんばります♪」
お洗濯に行こうとするが、一瞬ストップモーションになる。
「(ナレーション調に)私の名前は、三田けい子。職業は家政婦――」
動き出す。
「さぁて、お洗濯お洗濯っと」
部屋に洋服が散らばっている。
「旦那様、ここにあるお洋服もお洗濯してよろしいんですよね?」
部屋には、四方八方に洋服が散らばっている。
「(拾い集めながら)ここにも。あ、ここにも!・・・もう、どうして男の人って、こうやって洋服を脱ぎ散らかすのかしら」
※ここはけっこうオーバーに、とんでもない、ありえないところにも洋服が落ちている、という引き伸ばしもできる。
床に散らばった服を集め終わり、洗濯カゴを両手で持って、楽しそうに片足をピョン♪と後ろに上げてストップモーションになる。
「(ナレーション調で)私、三田けい子は輝いていた。この仕事が気に入っており、毎日が楽しかった」
動き出す。
「旦那様、お洗濯終わりましたー(胸の谷間を強調する立ちポーズ)」
「え、今度はお掃除ですか? わかりました。よーし♪ けい子、お掃除も(腕をかわいく上げて)がーんば・・・」
「え? その前に?・・・」
「こっちの部屋ですか? こっちのお部屋は、旦那様の書斎・・・」
「え? このお部屋には絶対に入っちゃダメなんですか? でも、どうして・・・」
「わかりました。絶対に入らないようにします!」
「(ナレーション調で)このとき、私は自分の名前が『三田(見た)』けい子だということを忘れていた」
「さぁて、お掃除お掃除っと」
「お掃除のときは、いい道具を使うと効率が上がるのよ」
「というわけで、何かいい道具がないか、テレビの通販番組をチェックしましょ♪」
イスに座って、ピッ♪とリモコンのスイッチを押す。
「何々? 今日はマジックミラクルの紹介だって」
「え? 嘘でしょ? そんなに水をこぼして・・・1Lも? 無理だわ。絶対にあんなのじゃ拭き取れっこないわよ。だって1Lも水をこぼしたんですもの」
予想通り、それを全部拭き取ってしまうマジックミラクル。
「え? 拭き取れちゃうの? ええー! 嘘でしょ? だって1Lも水をこぼしたのよ」
今度は販売員はマジックミラクルを絞っている。
「さらにそれを絞ると・・・え? 1.5Lも水が出てくるの? 何で?・・・空気中の湿気も吸い取ったのかしら。スゴイわ。さすがアメリカ。これは注文しなきゃ」
子機のボタンをピピピ♪と押す。
と、後ろのほうで物音がする。
「(コトッ♪)ん? いま何か物音しなかった?」
キョロキョロあたりを見回す。
「ねぇ、いま物音したわよね? (客席に)ねぇ、今『コトッ』て言ったわよね?」
物音を調査するべく、イスから立ち上がる。
「ゴトウさん? ゴトウさんなの?」
そのまま音のしたほうへと歩いていく。
○旦那様の書斎(ドア前)
物音を追ってたどり着いたのは、旦那様の書斎、の前のドア。
「この部屋は・・・旦那様が絶対に入っちゃダメだって言った書斎・・・」
つばを飲み込む。
「♪ゴクリ・・・」
おそるおそる、書斎のドアノブに右手をかける。
「(その右手を左手でつかんで)ダメ、絶対に開けないわ」
「(カメラ目線で)話の展開上、開ける必要があったとしても――」
両手をおろして、正面を向く。
「たとえ、私が家政婦で、名前が『三田(見た)』けい子だとしても――」
「私は開けないわ」
「そう、私はこの物語の主人公・・・」
「でも、絶対にドアは開けないわ」
1歩1歩横に歩き出す。
「(モノローグで)だいたい昔から、開けちゃいけないっていわれたモノを開けてロクな展開になった試しはないじゃない。鶴の恩返ししかり、浦島太郎の玉手箱しかり・・・だいたい昔からこの手のフリって卑怯よね、って思っていたのよ」
「(カメラ目線で)というわけで、私は絶対にドアを開けないわ」
「つづく――」
○次回予告
「(急にテンションが高くなり、セリフ調ではなく友達に話すみたいに)で、来週の第2話はねー。やっぱり、あの手この手で私にドアを開けさせようとするんだけど――私は絶対に開けないの。だって、この物語は正直者のお話なんですもの」
――どうもありがとうございました。