もう元には戻らない。これでいい。僕は僕の物になって好きな夢を見てる。だけど何故だろう。この感覚は。無くしちゃいけない物なんてもう何もないはずなのに。

真夏日に炙られたボンネットが異常な熱気を放つ今日この頃、俺『明智世春』は近所の古本屋にいた。お気に入りの作家の本を購入したいんだがどうも見つからない。ここにはないのだろうか。地元の高校に進学した俺は中学の頃と変わらず、つまらない日常を過ごしていた。夏期休暇中だがやることもない。『お!ヨハルじゃん!』。背後から声を掛けられ振り返ると我が桜桃玉砕高等学校の問題児である『成宮末男』がいた。周りからはスエオ、スエッチと呼ばれているが俺だけはクソミヤと呼んでいた(心の中で)。『おー、成宮(クソミヤ)じゃん。どうした、こんな所で』俺は内心ほくそ笑みながら返答した。『いやいや本屋来たら目的は一つっしょ。言わせんなって!』クソミヤは何が楽しいのか分からないが常にニヤニヤしている。にやけ顔は滅茶苦茶ムカつくのだが容姿自体はハンサムで意外と女子人気も高い。しかし男子からは嫌われている。嫉妬心も少なからずあるとは思うが。いや嫉妬10割かも。男も女も嫉妬深いって本当なのかもな。そんな事を考えながら会話していた。『成宮も本を買いにきたのか。なに買うの?』俺が言うと間髪入れず『エロ本!』クソミヤが答えた。『は・・・?』と俺。『うんエロ本エロ本。あぁエロ本。エロ本だよねぇ』クソミヤが何か言ってる。これだからコイツは苦手なのだ。理論的に説明がつかない生き物。直感と本能だけで生きている。俺はこういう類の人間が苦手だった。クソミヤの事も正直好きではない。だがしかし直感と本能で生きる自由人の方が将来的に成功者になる可能性は大きいのかもしれなかった。今も人気者だし、彼は直感を信じるためフットワークも軽い。現時点でも様々なことに挑戦している。彼は陸上部とバスケ部を掛け持ちしつつ、それでいて優秀な成績を残している。近所のギター教室にも通っており、そのテクニックも中々のものである(この前、学校の昼休み時間に廊下で突然演奏し始めた。大きな人だかりができてフェスかと思った)。『おい?おい?聞いてるか、ヨハルぅ?ぼーっとすんなよ』気付くとクソミヤが俺の顔を覗き込んでいる。『あぁ、スマンスマン。ちょっと立ち眩みでな』俺は口から出任せをつく。『あちいからなぁー。熱中症には気をつけろよ!んじゃっ、あばよぉ!』そしてクソミヤは古本屋を後にした。結局何も買わなかったなぁ。一体何をしにきたのか。本当によくわからない人間だ。だが、少し羨ましくもある。自分は何事もきっちり準備して論理的に物事を進めなければ気が済まない。理由がない行動はしたくない。時には生きづらいと感じるが、これが俺の性格であり直せないであろうことも自覚していた。性格は自分の力では中々直せない。直すには他者の助けがいるかもしれない。あるいは・・・。『あれれ?ヨハルじゃーん!』またもや背後から声が。今日はよく同級生に会う日だ。面倒くさい。あんまりプライベートは見られたくないんだがなぁ。そんな事を考えながら俺は振り向いた。そこに立っていたのは