$「天使の弁護士 成瀬領」VS「天才鍵師 榎本径」

その朝、気が重い仕事へ向かう前に、彼流の儀式は始まっていた。

愛用の超高性能イヤホンを耳穴にねじ込み、

同じく愛用のメガネ、レイバンを鼻の上で右手人差し指のみで引き上げる。

そして、そんな日はあらかじめ、ほのかにアルマーニの香りも漂っていた。

周りの同僚は、彼の一連の所作から出動の気配を感じ取っていた。



検視官として、大学病院へ赴く日は、慣れていても気が滅入る。

なぜなら、死体解剖の対象は、変死体であることが多いからだ。

彼、榎本悟は刑事部捜査第1課に所属している。いわばエリートと言われる階級に属する人物である。

しかしながら、彼の得意とする洞察力、推理、知識の応用とは裏腹に

死という結果だけを見据え、確認するこの業務は、明らかにミスマッチだった。

*解説
日本における検視官は原則として、一定以上の刑事経験を持ち、警察大学校において法医学を修了した警部または警視以上の階級を有する者が刑事部長によって指名される。という規定がある。


榎本悟は、イヤホンから流れる音楽でテンションを保ち、本日の出先、K大学付属病院へ向かうことにした。

途中、櫻井警部の言葉を思い出した。

「あの病院の解剖担当医は極上の美人らしい」とのこと

解剖医が美人だなんて・・・

「ありえない」

フッ と息を吐いて 彼は足早に目的地のK大学病院地下病棟へ向かった。


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今回の検体である若い女性は明らかに犯罪の被害者であると思われた。

解剖を担当した監察医 中野由紀は解剖結果を榎本に伝えた。

「体内に致死量を超えた薬物と男性のDNAが発見されました」

榎本は犯人の手がかりとなるかもしれない男性のDNAに着眼し、思わず・・


「体内にですか?」と問い正した。

「そうです、精液ですから」


中野由紀は身じろぎもせず銀縁のメガネの奥から視線を外さずに答えた。

彼女は、慣れた手つきで冷酷とも思えるほど冷静かつ迅速に仕事を完了し

必要最低限の会話で業務を遂行しその場を去って行った。

噂によると、彼女は死体とは対話するが生きた人間には興味が無く、ジムへ通うのが唯一の趣味だとか

「ありえない・・」

そして、さらにありえないのは、彼女の美貌だった。

漆黒の黒髪に雪の様に白い肌、メガネの奥の印象的な瞳にも惹き付けられた。

いったい、どんな男が彼女を陥落させることができるのだろう?

いや、その前に、何故 生きている人間とは対話を避けるのか?

彼の好奇心は類稀なるターゲットに照準を合わせ始めていた。


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