$「天使の弁護士 成瀬領」VS「天才鍵師 榎本径」


ブラインド越しに、かすかに朝日が差し込んできた

やがて、光のラインは明るさを増し彼の瞼に覚醒のサインを送り始める

清々しいはずの朝は、榎本開にとって憂鬱な時間だった

特に、彼にとって土曜の朝ほど怖いものはない

不安の中で彼は目を開ける ゆっくりと・・・

現実を受け止めるために、静かに瞼を開けていく・・

TRASHのソファーの上で・・・


しかし、ここは ソファーではなかった、TRASHでもなかった

ここは、いったいどこなんだろう?

いつか、こんな日が来ることがあろうかと恐れてはいたものの

最悪の事態が起こってしまったことに彼は気がついたのだ

まず、ここはTRASHのソファーではなくBEDだった!

しかも、自分は一糸纏わぬ姿である!なぜ?・・・


その横に女性が同じような姿で眠っている

僕は一体何をしたんだろう?いやRyoは何をしでかしてくれたんだろうか?

そして、次の瞬間、あまりの衝撃に一瞬我が目を疑った

彼を打ちのめした現実それは・・・

その女性が、未来だったことである

なぜ? 僕には記憶がないのに

彼女は、生まれたままの姿でここにいるのか?


頭の中を整理しても、何も思い出せない自分が もどかしくて、悔しくて

彼女ともうひとりの自分は一体どんな関係なのかと思いを巡らし

榎本開は頭を抱え込んでしまった

間もなく、未来も目を覚ました

彼女は、彼の狼狽ぶりに気がつき、彼はRyoではなく開だと悟った

そしてその瞬間、我が身をシーツにくるんだ

浮気をしていたわけではないのに

悪いところを見られてしまったかのような、罪悪感に苛まれた

「あの、あなたは?」

「開さん?Ryoさん?」

「君は、どっちといるつもりだったの?」

その言葉は刃のように未来の心に突き刺さり

彼女は答えることができなかった

「申し訳ないが・・・」

「僕には、昨夜の記憶がないんだ」

「では、あなたは、榎本さんなんですね」

「何があったのかわかりませんが・・・」

「やはり、もう会わないほうがいい」

「これ以上君を傷つけたくはない」

「済まない!」

榎本開はそれっきり未来と連絡を絶ってしまった



彼は、未来が開ではなくRyoを選んだ事がショックだった

物理的には同じ人間でありながら、精神的には許せないという想いが

榎本開の心を閉ざしてしまったのだ

熊田未来は、榎本開もRyoも全て理解することが開を救う唯一の方法と考えていたが

それは、決してそんな単純なものではなかった

彼らにとって別人格の相手は他人のようなものであり

むしろ、自分のアイデンティティを否定するライバルだった

未来とRyoの行為は開を打ちのめすには十分すぎたのだ

未来は何度も、開に連絡を入れてみたが返事はなく

ついに、彼は図書室にも姿を見せなくなってしまった

もう、彼の心を救うことはできないのだろうか?


榎本開の心の鍵を握る人物がいるとしたらそれは誰なのか?

TRASHのマスター サミーの二回目の助言によると

それは、意外な人物だった!