朝、神代真理子(じんだい まりこ)が目を覚ますと、ベッドのうえに一枚の羽

毛が落ちていた。常識で考えればすぐに羽毛と気づくはずなのだが…。


「わー、天使の羽根だ!」


 神代真理子は羽毛を天使の羽根と勘違いし、狂喜乱舞(きょうきらんぶ)した。

 この常識のない少女は十四歳の重度中二病患者で、学校も滅多に行かず勉強もし

ないくせに、一日中『神と交信する練習』ばかりしているような人間である。


 そもそも彼女の夢は、神と交信できるようになり、神との交信に基づいた新興宗

教の創始者になることなのだから「学業など時間の無駄だ!それより神と交信する

練習、つまり職業訓練の方が大切である」と言い張って聞かないのだった。

  こういう人間には何を言っても暖簾に腕押し(のれんに うでおし)なので、親

も教師も呆れて(あきれて)諦め(あきらめ)ていた。


「毎日、神と交信しやすくなる聖句を唱え続けていただけあって、ついに神が天使

を私のもとに派遣したのね!」

 
 真理子は『神からのお告げ』が聞こえないかと耳を澄まし、『神からの手紙』が

ないかと探し回った。


「そうそう、神からのラインやメールがないかもチェックしなきゃ!」


 真理子はスマホとパソコンを隅々までチェックしたが、迷惑メールしか入っていなかった。


「あれ?神からのメールだけでなく、大親友である優奈(ゆうな)や亜梨紗(あり

さ)からのメールも入ってないぞ!?」


 真理子はしばらく考えて、優奈や亜梨紗は自分の脳内友達であり実在しないことを思い出した。


「そういえばアイツら、架空の人物だったんだ!」

 
 真理子の特技は「妄想と現実を混合すること」である。その後も真理子は神からのメッセージを探し続けたが、一向に見つからなかった

「きっと神が天使を派遣したにも関わらず、おっちょこちょいの天使がメッセージ

を伝え忘れたんだわ!」


真理子がどうしようかと悩んだその瞬間、閃き(ひらめき)が真理子の体を駆け

巡った(かけめぐった)。


「そうだ!神に手紙を書こう。そして神から直接メッセージを貰おう(もらお
う)!」

 
 真理子はそう叫びながら、買ったきり『脳内友達との文通ごっこ』にしか使った

ことのないレターセットを机の引き出しから取り出した。


「…ふふふ。ついにこのレターセットがマトモで神聖なことい使えるようになったぞ!」


 今回も妄想であることには変わりはないが、真理子はいたって本気であった。さ

んざん考えたあげく、書いたのは次のような内容であった。


『 偉大なる神へ

 神様、おはようございます。私、神代真理子と申します。私はいつも貴方(あな

た)との交信を目指して、日々聖句を唱え続けてきました。


 その成果があって、ついに布団の上に天使の羽根を見つけました。私にお伝えし

たいことがございまして、そのために天使を派遣して下さったのですね。ありがと

うございます。


 ですが残念なことに、それ以外にメッセージらしきものが一切見当たりません。

おそらく天使がメッセージを伝え忘れたのでしょう。


 もし宜しければ(よろしければ)この手紙のお返事に貴方(あなた)からのお告

げを書いて下さりませんか?

 宇宙の創造主(そうじうしゅ)である貴方は、星々を回したり生態系の秩序を

創ったりと非常にお忙しいと思いますが、私にお告げをして下されば、私は人類を

導くことができます。
 

どうか私を偉大なるお告げで導いて下さい。また、もし可能でしたら、以下の質問

にもお答えください。


質問一。宇宙の真理を教えて下さい。

質問二。私の正体は何ですか?


誰がどう考えても私は世俗(せぞく)の人間ではないのですが、実は肉体は人間で

も魂は天使であったり、幼いうちに肉体だけ地球人に改造された宇宙人であった

り、ということはありませんか?

                             神代真理子より』




 手紙を書き終えるとすぐに、真理子は封筒に宛先(あてさき)と自分の住所を書

こうとするが…。

「そういえば、神の住所ってどこだっけ?どうしたら神に手紙を渡せるんだろう?」

 さっそくスマホで「神の住所」で検索してみたが、地名に「神」がつく地域の住

所や、「神レベルのおいしさ」を自称するラーメン店の住所はあれども「ここに神

の化身が住んでいます」という具体的情報は、いくら探しても見つからなかった。


「おかしいな。人類七十億人。一人くらい神の化身がいてもおかいくないのに!?」


 真理子はネット上の質問サイトに「神に手紙を書きたいのですが、住所を教えて

下さい」と書き込んだものの、無視された。

 そこで、郵便局に行けば何とかなるかもしれないと思い、真理子は私服に着替

え、郵便局へ向かうことにした。


「さて、何を着ようか。最近、聖句を唱えることで忙しくて、ほとんど外に出てい

ないから…何を着てよいやら」

 真理子はスマホの占いサイトにアクセスする。

ラッキーアイテム:ヒョウ柄(ひょうがら)のもの

ラッキーアクション:ダンス


 占い絶対信者の真理子は、まだ雪も融けきっていないのに、全く似合わない全身

ヒョウ柄のルームウェアで、踊り(おどり)ながら出かけることにした。

 ちなみに、このヒョウ柄のルームウェア、脳内友達とのパーティ用に購入したも

のである。

 ダンス経験皆無(かいむ)の真理子が、全身ヒョウ柄のルームウェアで、奇妙に

体を動かしながら郵便局へと向かっていく…。

 お笑い芸人顔負けの滑稽(こっけい)さである。

「ママー!あの人なに?」幼い子が真理子を指さす。

「シッー!見てはいけません」母親が諭す(さとす)。

 もちろん、真理子はこの辺一帯のご近所の話題となった。




 郵便局に、突如として全身ヒョウ柄女が入ってきた。しかも憑かれたように踊り

ながら。

「いらっしゃいませ!」

 営業スマイルで誤魔化しつつも、内心不審者ではないかと郵便局員は冷や汗を流
す。周囲に無言の緊張が走る。


「すみません。神の住所って分かりますか?」


「…神野さん(?)のご住所ですか?…当社では個人情報を公表することは出来ませんので…」


「神野ではなく『神の』です!」


「………」

 郵便局員の顔が青ざめていく。


「神の化身の居場所を教えて下さい!今すぐ、人類のために!!」


 真理子は声を荒げ、郵便局員を睨み付ける(にらみつける)。


「申し訳ございませんが、当社にも分かりかねません…」


丁寧(ていねい)な対応をしつつも、郵便局員は内心恐怖のどん底だった。


「それなら今すぐ調べて下さい!緊急事態なんです」


「…はい。今、調べて参ります」


 郵便局員は何やらパソコンで調べ始めた。


 五分後…。


「この方にご相談なされば、何かヒントが得られるかもしれません」


 そう言って郵便局員が渡したメモには、病院の精神科の住所・医師名・連絡先などが書かれていた。


「私を精神疾患者(せいしんしっかんしゃ)あつかいしやがって!これだから世俗の人間は…」


 激怒のあまり真理子は絶叫し、走って郵便局を後にした。


(※第二章に続く…)

※この物語はフィクションです。

※漫画化・アニメ化希望。詳しくは zishowarainomegam@excite.co.jp まで。

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