「こりゃ、まいったね」
---時々会社に話に来る方なのだが、私が会社を清算するという話を聞きつけて朝一番に来られたのだ。ちなみに、最近は会社を清算するという話を聞いて遠方から飛んで来られる方もいらっしゃるので会社にいることが多い。もちろん、事務手続きやら役所への届け出、土地建物売却のための廃棄物の処理やら何やらと準備が多いのが原因ではあるのだが。
さて、朝一番に来られたこの方、用件をなかなか言われない。こちらの顔色をうかがっておられるご様子で、世間話だの民主党がどうだのという話が延々と続く。もともと世間話が好きな方なので、こちらもついつい話にのってしまう。かれこれ30分ぐらい話したところで、こちらから今日は何かあってのご来社では?と向けてみると、「こりゃ、まいったね」と。
まぁ、話を聞いてみるとどうもこの方は営業主任なののだが、取引先の管理を厳密にするように本社から指示を受けたらしく、私の会社清算という話を聞きつけて慌てて飛んできたものの、私がいつも通りのほほんと話に応じるあまり、なかなか本題に切り込めなかったというのである。
さて、本題であるが、この営業主任さんの会社と私の会社とは数年の付き合いであるが、仕事のミスも特になく支払が遅れたことも一度としてない。また、年始の挨拶は欠かさぬ仲であるし、年に一度は飲み会があるので気心も知れている。が、会社を清算すると聞いて今後の支払いが不安になったで、こちらが振り出している手形を買い戻してくれという話であった。
まだ、債権者に対しては通知を出していない段階で、この手の話というのは業界内に一気に尾ひれがついたウワサとして走り回るのであるが・・・これからどういう内容の文書にするか考えているところではあった。この営業主任さんが気になるのは今後支払いが受けられないのではないかという不安があってのことだから、こちらの事情をよく話した上で、そもそも手形決済にしているのは永年の取引上のことじゃありませんかという具合に、とにかく相手の言い分とこちらの事情をすり合わせる、話し合いという基本的なことを時間をかけて行った。
ここで手形決済の仕組みを簡単に説明しておきますと、手形とは誰が誰に対してイツ、イクラ払いますと確約した有価証券です。約束手形、為替手形とあるんですが最近はほとんど約束手形です。この場合のイツを支払期日といい、手形を切った日(振出日)から支払期日までを手形サイトと呼んでいます。通常は「サイト120で頼むよ」とか使われます。イクラは額面ですが、基本的にチェックライタという専用の機械で金額を打ちます。打ちますというのは、手形の金額欄にデコボコになるような改ざんできないように印字する方法で昔は\マークや数字を1文字ずつ文字通り打っていたので今でも手形に数字を打つといいます。もっとも最近のチェックライタは電卓のように数字を入れればボタン一つで打ってくれるんですがね。
さて、話を元に戻して、先ほどの営業主任さんからどうしても手形を買い戻ししてくれと言われてはいたんですが、手形とは誰が誰に対してイツ、イクラ払いますというものでしょ?という話をして、こちらは逃げも隠れもしませんから、いつでも代表者を連れて話に来て下さい。といってお引き取りいただいた。
相手の気持ちも分らんではないのだが、ほぼ毎日こういう話をしていると、こっちが「こりゃ、まいったね」になってしまう。
では。