以前にブログで紹介した映画『柳ヶ瀬ブルース』を岐阜市柳ヶ瀬のロイヤル劇場で見てまいりました。

製作の東映に劇場で上映する為の35ミリ・ポジプリントが存在せず、ロイヤル劇場の説明によれば「数ヶ月をかけてネガ・プリントを復刻」とあり、察するに35ミリ・ネガプリントに一部損傷があったと見受けられるので、単純にニュープリントを作成する以上に手間と時間と費用をかけての上映になった様です。何せロイヤル劇場は35ミリ・フィルム上映専門館ですから、ネガ・プリントをデジタル復刻すれば事足りる訳ではないので更に一手間かかるのです。……お陰で1967年製作の映画ですが、傷1つ無いピカピカのプリントでした。

今回の上映は、ロイヤル劇場を運営している岐阜土地興行株式会社の設立100周年を記念しての事であり、35ミリ・ネガプリントの修復費用と上映用のポジプリントの作成費用は(百万円単位?)恐らく岐阜土地興行株式会社が奮発して負担している筈。映画ファンにとっては有り難い事です。

本作は、以前のブログでは予告篇に「ちょっとエッチな おピンクコメディ」という惹句が陽気なBGMと共に踊っている事から、ポスターから受けるイメージとは少し異なる作品?……と書いているのですが、実際に作品を鑑賞してみると、寧ろポスターの印象に近い内容でした。

ポスターには「9時から5時までの夜シリーズ」との表記がありますが、一般的には「夜の歌謡シリーズ」の第1作とされている『柳ヶ瀬ブルース』。美川憲一 歌唱のヒット曲をモチーフにした映画ですが、夜の繁華街を舞台に梅宮辰夫演じる色事師の主人公に泣かされる女の様を描いた「夜の青春(夜の盛り場)シリーズ」の後継作品が「夜の歌謡シリーズ」ですから……決して陰気な内容ではないのですが、かと言って陽気な内容になる筈もありません。

1965年公開の『ひも』に始まる「夜の青春(夜の盛り場)シリーズ」は8作品全てがモノクロ作品で、1968年公開の最終作『夜の手配師』以外は成人映画として公開されていました。(1971年に『夜の手配師 すけ千人斬り』が公開されていますが、シリーズとしてはカウントされない様です)
一方「夜の歌謡シリーズ」はカラー作品となり、成人映画指定も無く、華やかな印象がプラスされています。また劇中に登場する女性の描き方にも変化があり、『柳ヶ瀬ブルース』に登場する野川由美子演じる みどり、春川ますみ演じる澄江も、梅宮辰夫演じる次郎に翻弄されるだけではなく、強かな一面を見せる女性として描かれてる処が「夜の青春(夜の盛り場)シリーズ」と一味違う要素でしょうか。尤も誰も幸せにはならない辺りが、この作品の特徴です。

柳ヶ瀬が主な舞台であり、岐阜県内数ヶ所でロケーションも敢行していますから、観光映画としての一面がある作品です。(岐阜羽島駅周辺は今とあまり印象が変わっていません)

同じ梅宮辰夫主演作で、1969年にスタートする『不良番長』シリーズや、1970年にスタートする「夜の帝王シリーズ」では共演の山城新伍の存在もあり、アチャラカ要素が加味された陽気な描写が増えている事を踏まえると、『柳ヶ瀬ブルース』(及び「夜の歌謡シリーズ」)は東映の2本立て興行のB面作品の歴史を語る時には、ある種のターニング・ポイントとなった作品として捉える事も出来るかもしれません。

映画のモチーフになったヒット曲を歌唱した美川憲一は、流しの歌手の役でゲスト出演。また大部屋俳優時代の小林稔侍がバーテン役で2カット出演しています。

監督の村山新治は東映のプログラムピクチャーのB面作品を数多く手掛けていますが、私の世代ですとテレビドラマ・シリーズ『Gメン'75』『特捜最前線』「不思議コメディ・シリーズ」の監督として馴染みのある方です。


『柳ヶ瀬ブルース』
1967年 日本
東映
【出演】
梅宮辰夫
野川由美子
春川ますみ
城野ゆき
大原麗子
鶴見丈二
大川栄子
浦辺粂子
渡辺文雄
伴淳三郎
【監督】
村山新治