前回の更新から2箇月近くを経過してしまひました。
ご報告申し上げたやうに、コロナ禍で父母をほぼ同時に喪ひ、いまだ葬儀もままならず、それに加へて相続手続きも取り掛からねばならず、なかなか思ひ出話に耽る心の余裕がございません。しばしこのやうな不定期更新になることをお許しくださいませ。
寒さも未だ去らぬうちに3月を迎へてしまひました。今日は桃の節句でございますと同時に、江戸時代から行はれてきた厄払ひの風習「お化け」の日でもございます。京都花街の芸者衆が、この夜だけは男装をしたり、おカメなどの仮装をして顧客をもてなしたといふ、粋な慣はしと申せませう。
このやうな風景は若い皆様にとつて、お馴染みがないやも知れませぬ。
私が大学卒後、神戸に就職した頃、3月3日と言へば三ノ宮の東門筋を、着物を召して頭を桃割髪にして仕事場に急ぐ女性がたを頻繁に見かけたものでございます。なかなか雰囲気のある風景でございました。
10日ほど前のニュースで、文部省出身の国賊・前川喜平氏が自民党・白須賀議員の夜遊びに対し「それつて同伴出勤と言ふんぢやないの?」とツイートして話題になつてをりましたが、この「同伴出勤」といふシステム、私もやつた覚へがございます。
「同伴出勤」を知らぬ方に説明申し上げます。
例へば、本来なら夜の8時に店へ定時出勤するホステスさんが居られます。そもそも夜8時頃と言へばスナックやクラブの類は、まだ客が来る時間にしては早うございます。そこで、店側の方針として、顧客と「同伴」で出勤するといふ条件を付けて、2時間遅れの10時出勤を許可するといふシステムを採るのでございます。
ホステスさんにしてみれば、普段よりゆつくり準備が出来ますし、無理を聞いてくれる馴染み客(ほぼスケベ親父)に頼んで、1時間ほど食事に付き合はせて出勤し、周囲のホステスさんに羨ましがられるといふやうに、自尊心を満足させることもできるといふ訳でございます。
店によつては、この「同伴出勤」を義務づける(例えば週一回、月曜日とか)ところもございます。
私が何ゆへ「同伴出勤」を経験したかと言ふと、以前にもお話ししましたバレンタインデーチョコの名入れをしてゐた頃に、或る姐御肌のホステスさん(元ツッパリ系)と意気投合したせいでございます。別にスケベ心がさうさせた訳ではございません… と申しても信じては頂けないでせうが(笑)
この檸檬さんといふ源氏名のホステスさんは、性格的に少々恐ろしい部分もございますが剛毅な女性でした。私がケーキ販売をしてゐると聞けば店を訪ねてきて、ケースに並んだショートケーキを全部買つて帰つたこともありました。
思ひ出すのは、この檸檬さんに一度「同伴出勤」を頼まれたのが、くだんの3月3日。私が夜8時半に仕事場の神戸そごう百貨店を出て向かつた待ち合はせ場所が、行きつけの居酒屋でした。
檸檬さんは、既に店で待つてをりましたが、その姿を見て私は失神しさうになりました。まるで時代劇に出てくるお姫様だつたのです。無論頭も日本髪で、かんざしなどが付いてをります。もともと美貌で知られた檸檬さんでしたが、この日はそれ以上だつたことは言ふまでもありません。
私は照れ臭いのなんの。店に居たすべての客が、口あんぐりとして私どもの方を呆れ顔で眺めてをるのですから。こんなことなら、私もタキシードを着てくるのだつたと後悔しましたが、そのやうな稼ぎもない頃です。今思ひ出しても、顔から火が出るのでございます。 〈完〉