先回、染谷先生の論文を読みました。

「岩波講座 哲学05 心/脳の哲学の未来」染谷昌義 2008年

です。


そこにおいてはジェームズ・ギブソンの生態心理学、アフォーダンス等の概念を利用し意識の解明に挑戦されています。


また。同本において河野哲也先生(立教大学文学部教授)もこのギブソンの考え方、(エコロジカル・アプローチ)で自己観・意識にせまられています。「脳から身体・環境へ-エコロジカル・アプローチと拡張した心-」という論文がそうです。


このエコロジカル・アプローチの立場から見れば、心は脳にあるのではなく、身体と環境と含んだ生態系に実現していることになり、これが「拡張した心」の概念だそうです。


河野先生の論文の詳しい紹介は後日するとして、染谷先生、河野先生等この岩波講座の執筆先生方は同じグループであろうと思われました。同じような考え方が存在するからです。そこで、このグループの考え方・講座(先生方の理論)を理解するにはジェームズ・ギブソンの思想を深く勉強する必要があると感じました。


残念ながら、私はジェームズ・ギブソンの本を持っていないので、購入し読んでから、先生方の批判・検討を行ないます。



その批判検討の前に、とりあえず、情報について考えます。

先回の染谷先生の論文の中に書かれてある文章について、私なりの解釈です。その文章とは

意識は情報(意味)を発見した状態である。意識は情報(意味)との関連で定義される。このような意識は心的状態であるとも物的状態であるとも言えない。あえて無理して言えば、生きている状態あるいは、心身状態とでも呼べるだろうか。意味に共鳴する全身的な生きている状態を作り出せたとき、それが意識となる。」がそうです。


先回も引用しましたから、覚えておられる方もいらっしゃるでしょう。


この文章の情報(意味)はジェームズ・ギブソンの考えの情報(意味)であろうと思われます。

私はこの情報の概念を十分理解していないかも知れ無いのです。それはこのジェームズ・ギブソンの考え方より、心身/心脳問題に悩まされることがなくなると言われています。

しかし、私にはどうもこの点が理解出来ないのです。どうして悩まされることがなくなるのか。不思議です。




ここで私なりに、情報(意味)を考えます。これは意識と関係するからです。


情報とは物理パターンにより発生するものでしょう。例えばきれいな夕焼けを見れば、明日は晴れるな、とか。リウマチを患っている人が、膝が痛み出したら、雨が降るな、とか。リンゴが見えればこれはリンゴだな、とか。


これらの例により、情報はその物理パターンを見た人、感じた人が意味を理解します。

そして、その考えを拡張すれば、“蜜蜂の尻振りダンスで蜜のありかがわかるとか、人の吐く息で蚊が寄ってくるとか、

で見た虫、感じた虫に意味が発生しているようです。


すると、物理的存在物・パターンと生命体があれば情報が生まれてくるという仮定は成立しそうです。


一方工学の立場から考えると、自動車、ロケット、計算機等にある情報は、これらの機器を管理する情報(制御情報)、機器内に存在する信号情報が考えられます。

これらは、ウイーナーとかシャノンが考えた情報で、いわゆる情報理論で理論武装されています。

これら、工学機器の情報は人類が扱っているものですので、情報の意味は人類にしか通用しません。


結論から言いますと、以上のように情報は生命体があってこその情報であるといえます。生命体がなければ、情報はないと言っていいのです。




すると宇宙開闢時から生命体誕生までの期間には情報がなかったとしていいのです。(考えようによっては、生命体が生まれた時点から情報が発生したのなら、因果関係の物理現象連鎖を考えると、宇宙開闢時点から既に情報は存在していたとも考えられます。しかし、ここでは情報はなかったとして論を進めます。)


この初期の宇宙(地球)に情報がなかった状態からどのようにして情報が生まれてきたのでしょうか。


すると、誰でもが気が付くように、生命体の誕生時から情報(意味)が生まれたと考えてよさそうです。


そこで、これからは想像の世界ですが

始めて誕生した生命体をSとします。Sは地球に生まれました。生命体は存在しなければなりません。そして子孫を残さなければなりません。


存在のため、Sはエネルギーが必要です、危険から身を守らなくてはなりません、子孫を残すための行動をしなくてはなりません、等々。

これらの行動にはある一定の傾向が生まれてきます。また一定の目的が生まれてきます。例えば、身を守らなくてはならないからです。そのための行動。


Sに行動力があるとすれば、Sに都合のいいような行動を選択するという事は肯けます。この行動をまっとうするために、外界の物理パターンを情報(意味)として活用します。

そこに意味が現われてくると思われます。


といいますのは、意味とは主体があって始めて意味になるのです。Sはまだ意識がない生命体とします。するとSはただ自分の身を守るだけの行動を無意識的(機械的)にしていると思われます。


自動判断ロボットは現在でも存在します。このロボットは自動的に身を守るように設計されているとします。するとこのロボットは意味を感じて活動しているのでしょうか。

同じくSは外界の意味(たとえば前方に障害物があるとか、自分の周囲温度が暑いとか)をわかっているのでしょうか。


この様にロボットとか、Sのような生命体の情報は完全な情報(意味)ではありません。しかし何か意味が存在しそうです。

一方、完全な情報とは人類が持てる情報(意味)です。


このSが感じている外界物理パターン・情報はジェームズ・ギブソンのアフォーダンス情報でしょうか。



次にSから進化し視覚を持った生命体Vを考えます。

Vも自身の肉体を守らなくてはなりません。そのための目を持っています。でもまだ意識はありません。

例えば、Vはリンゴは食べます。するとVは、外界にてリンゴの存在を認識できると考えられます。リンゴがリンゴであると視覚で判断できるのです。するとこの判断のために、それこそ色々な意味を外界から得なければなりません。

脳内の神経回路の特別な活動パターンにより、赤色とか、緑色とか、丸いとかの意味(?)を理解しているのでしょう。それも、無意識で。


この意味(?)は、脳内にて具体的にどのように出来上がるのか?

多聞ある特定の神経活動が脳内で発生し、この活動を基に、行動が誘起されると思われます。入力信号と出力信号の関係においてブラックボックス(脳)内で意味的な物が発生します。これは情報でしょうか、意味と言っていいのでしょうか。


と言うのは、このVは意味を理解しているかどうかわからないのです。生命体全体の雰囲気では意味が見えてきます。それはわたしが人であるからです。わたしが意味を感じてもしかたがないことです。意味はVが感じなくてはなりません。Vは意味は感じてはいませんが、生命体として恩恵を受けています。


この情報はジェームズ・ギブソンのいう情報(意味)なのでしょうか。



最後に意識を持ったヒトHを考えます。

Hは意識をもっています。赤い色も、緑色も、丸いとか、暑いとか意味を理解します。理解できるのです。つまり赤いから、丸いからリンゴかな、と思えるのです。情報を何度も繰り返し確認できるのです。これは計算機の記憶とは異なります。


それではHは何故、意味を理解できるのでしょうか?

具体的にどのように情報があれば、意識に情報が変化するのでしょうか?

ある特定の神経細胞の活動が意味をどのようにして創り上げるのか。

この問題が、形を変えた心身/心脳問題なのです。


この情報の意味の追求が解決になるのですが、ジェームズ・ギブソンは解決しているのでしょうか。


染谷先生の言葉には

意識は情報(意味)を発見した状態である。」とあります。

以上見てきましたように、脳内には情報はあります。SもVもロボットもHも、脳内には情報はあります。意味もありそうです。赤を見ればある特定の神経活動が起こっているのですから。でも誰が発見できるのでしょうか?Hは意味を理解出来ます。



これらの疑問にジェームズ・ギブソンとか染谷先生とか河野先生は答えられるのでしょうか?


さらに、私は「意味を発見」ではなく、「意味を創り上げる」と考えるしかないと思います。


皆さんはどう考えられますか。



いずれにしても、ギブソンの本を読もう。