ウイスキーにしてもワインにしても、流行りの味わいやポートフォリオにはトレンドがある。

特にウイスキーは、この10数年で激変している。

私が飲み始めた10数年前は新しい蒸溜所といえば、1995年オープンのアラン、2004年オープンのグレンガイル、2005年オープンのキルホーマンぐらい。

閉鎖されてから25年以上が経つため、ニューリリースは長熟が約束されている閉鎖蒸溜所も普通に出ていた。

それが今や短熟が約束された新興蒸溜所が主流、閉鎖蒸溜所はほぼ見かけない。

熟成が短いものがたくさん出ているため、探せばクオリティが高いものはあるものの、割合でみるとめちゃくちゃ少ない。

そのため目利きが必要となり、それを養うために若いウイスキーをたくさん飲む必要が出てくるが、それが個人的にはかなり辛い。

ワインに例えると、グランヴァン志向の人が玉石混淆のナチュールワインを延々と飲まないといけない、という状況に近いだろうか。

あるワインLoverが、ナチュールしか飲まない人にグランヴァンも飲んでみたら？と勧めたら、『嗜好が違うし、そもそも値段が高すぎて選択肢に入らない』と言われたらしい。

その方はワイン会には今も買える値段のリーズナブルな古酒を持って来ることが多く、探せばあるんだけどなあ、と言っていた。

経験や嗜好が違いすぎて、目利きが養えないのだろう。

ウイスキーも長熟はそういう状況なのだが、熱心なドリンカーは日本全国を駆け回り、状態がよくかつ飲める価格の古酒を飲み歩いて経験を積んでいる。

後は各地でウイスキーフェスが開催されているが、そういうところでは飲む機会があるだろうか。

それについては、以前より恵まれているところがまだ救いかもしれない。

そんな今や高額化している、70年代蒸溜のボトルを開栓しようと、候補を物色した。

その結果、瓶の仕様で液面が確認できず、コルクが緩くなっていたボトルを選定した。

それがこのノックデューの1978ヴィンテージ、2001ボトリングのオフィシャルボトルだ。

蒸溜が46年前、瓶詰が23年前になる。

ノックデューは東ハイランドにある蒸溜所で、現在はディアジオとなったDCL系の蒸溜所だった。

それらの一部は1983年の大閉鎖時代に閉鎖もしくは休止された。

ノックデューも1983年に休止され、1988年にインバーハウス系列に売却された。

1993年頃から、ノッカンドゥやカーデューとの混同を避けるため、アンノックというブランドで販売している。

しかし、このボトルは2001年ボトリングだが、ノックデュー名義となっているリミテッドリリースだ。

23年熟成で、アルコール度数は57.8%のカスクストレングス、アウトターンは3,200本だ。

つまり蒸溜は閉鎖前のため、現ディアジオ時代の蒸溜となる。

このボトルは10年くらい前に買ったはずだが、値段は税込3,980円だった。

ある方に教えてもらった古い酒が残っている酒屋で買ったが、その方はさらに安い値段で買っていたから買わなかったらしい。　

今やWhiskybaseによると英国の酒屋で10万を越える値段で売られているとのこと。https://whiskybusiness.com/products/knockdhu-23-year-old-57-40

Knockdhu 23 Year Old 'Limited Edition' 57.40% 70clwhiskybusiness.com500GBP商品を見る

さすがにこの値段では売れないだろうが、この蒸溜所のこのクラスでさえ10年強で25倍になっている。

ウイスキー価格の高騰ぶりが分かるエピソードだと思う。

3,980円ならじゃぶじゃぶ飲めて経験を積めるが、ヘタしたら今ならBarのショットでそれくらいしてもおかしくない。

Barで一杯飲むだけだと、変化をみたり飲み込んで理解する事はできないに等しい。

ドリンカーの経験が狭く浅い時代になった印象があるが、無理なからぬことかもしれない。

このウイスキーを自宅で開栓し、テイスティングしてみた。

【テイスティング】

洋梨の果実味、はちみつレモン、ドライジンジャー、麦の厚み、ほんのり鉛筆の芯の削りかす。

干し椎茸、仁丹のニュアンス、バニラクリーム、グリーンペッパーやブドウ山椒様のスパイス、ナフタレン。

スイカズラのようなフローラル、八朔のワタのホロ苦味、インクっぽさ、クコの実、焼いた稲っぽいアーシーさ。

バンフやノースポートとは少しベクトルが似ていて、まさに『ディアジオ系列の東ハイランドの70年代蒸溜』という、ドライで麦感に溢れたモルティな味わい。

バーボン樽熟成メインだろうが、それだけではない原酒構成ではないか。

個人的には好きだが今流行りの味わいではないし、今から『ディアジオ系列の東ハイランドの70年代蒸溜』と言われて、すぐピンと来る経験をマスターするには、かなりの費用をかける必要があるだろう。

そうなると、今のドリンカーにはあまり勧められない。

しかも東ハイランド、特にスペイサイドから離れた地の蒸溜所は、今やそれほど多くはない。

ディアジオ系列でも、バンフ、ノースポートは閉鎖され、ノックデューは他社に売却されてしまった。

今やノックデューもライト志向になっていて、他社系列になるがグレンギリーが東ハイランド最後の砦となっている感がある。

それからも分かるように、廃れていく一方の酒なのかもしれない。

とはいえ、ウイスキーが麦から出来ている酒である以上、こういうモルティでドライな味わいはポートフォリオの中にあってはほしいと思う。

しかも、北ハイランドとはやはり個性が違うのだ。

そんなことを改めて思う、3,980円で普通に買えたノックデュー。

そういえば在庫の中にある最後の１本のノックデューだ。

【Verygood!!】

626.ノックデュー 1978 23年 57.4% オフィシャル

626.ノックデュー　1978　23年　57.4%　オフィシャル