ブレンダーからの評価が高く、ブレンデッド用の原酒の核となるウイスキー蒸溜所がある。

そうなると、シングルモルトとしてのリリースが少なく本来は貴重なはずなのだが、ある時期にリリースが集中してしまうと、ついそれを忘れがちになる。


例えばストラスアイラだが、シーバスリーガルの主要な原酒として使用されるため、特にオフィシャルの長熟レンジはあまり見かけない。

スタンダードレンジの12年すら終売になり、高くなっている有り様だ。


以前はオフィシャルの代わりに、ボトラーのゴードン&マクファイル(G&M)が、長熟レンジの蒸溜所ラベルを出していたが、終売になって久しい。

それ以降たまに出る古酒は、同じラベルだがヴィンテージ表記の入ったレア・ヴィンテージと名を変えた。

今後長熟レンジは、おそらくコニッサーズ・チョイスかプライベート・コレクションでしか出てこないのではないか。

現にモートラックやリンクウッドは、蒸溜所ラベルで新しい25年ものを出しているが、ストラスアイラは出てこない。

そうなると、ストラスアイラの長熟品はおそらく相当な高値を出さないと今後は買えないだろう。


また、ストラスアイラと全く同じようなリリース状況の蒸溜所に、同じペルノ・リカール系列のロングモーンも入るのではないかと思う。

ストラスアイラと全く同じで、オフィシャルの長熟レンジは出た歴史がほぼなく、代わりにG&Mが蒸溜所ラベルで長熟をリリースしていた。

ブレンダーの評価が高いためブローカーに流れやすいのか、ボトラーからの長熟リリースは以前は多く見かけたが、最近はほぼ見ない。


ストラスアイラと違うのは、最近オフィシャルのラインナップがリリースされた点だが、25年熟成のカスクストレングスがまだ市場にたくさん残っている。

蒸溜が90年代のため、オールドファンからは物足りなさを指摘され、新しいファンにはスペイサイドの他の蒸溜所との違いを訴求出来ていないのかもしれない。


確かに1960年代や70年代の一部のシェリーカスクのように、赤い妖艶なトロピカルフルーツ、熟したカシスやプラムのような味わいは最近のものでは出会えない。

しかし、少なくとも私が飲んだ最近の25年カスクストレングスは素晴らしいウイスキーで、ロングモーンの評価の高さは今でも健在だと感じた。


しかし同じような額なら、例えばマッカランの18年43%シェリーオーク、タリスカー25年45.8%が選ばれるのだろう。

特徴的か否かを考えたらわからなくもないが、ロングモーンはその良さを知っている人達がウイスキーからリタイアしたら、今後名声を失うウイスキーになるのかも知れない。


そんなロングモーンだが、1960年代はまんべんなく蒸溜されているが、1970年代は1975や1976を境にあまりリリースを見かけなくなる。

そして1980年代はウイスキー不況で蒸溜されない時期が多かったのか、1985ぐらいしか印象的なヴィンテージがない。

それを考えても76以前の長熟ロングモーン、ましてや60年代のあの味わいは、もはや幻といっていいのかもしれない。

あんな味のウイスキーはあの時代のロングモーン しか飲んだことないし、これからも出てこないのではないか。

余談だが、熟成したボルドーのサン・テステフ、サン・ジュリアンあたりには近い味を感じるものがあり、それが出てくるシャトーは私の中では評価が高い。


そして1990以降のヴィンテージになると、それなりに飲んだ記憶が出てくるため、それなりに生産量が増えたのではないかと思われる。

これからそれらの長熟が出てくるのかもしれないが、熟成30年オーバーになるため価格的には跳ね上がっていくのだろう。


このボトルはそんなロングモーンの1996ヴィンテージの中熟ボトラーズものだ。

クーパーズチョイスでお馴染み、ブライアン・クルックのヴィンテージ・モルト・ウイスキー社の子会社、ハイランド&アイランズ社のカスク&シスル・コレクションで詰められた1本。

ちなみにシスルとはスコットランドの国花、アザミの事だ。


スペックとしては、1996年6月25日蒸溜、2014年11月ボトリングの18年熟成、カスク№105076のシングルカスクで、熟成樽の表記はない。

アルコール度数は52%、アウトターンは260本で、味わい的にはバーボンバレルだと思われる。

世界最大のウイスキー・データベース・サイト、Whiskybaseには評価がなく、写真も私が送ったものが使われている。

そのため、日本向けのボトルなのかもしれないが、詳細はわからない。

リリース時に飲んで気に入ったため、安かったのもありストックしていたボトルだ。

パラフィルムを巻いていなかったため、少し液面が下がっていたのもあって、開栓してテイスティングしてみた。


 【テイスティング】

バニラクリーム、モルティな甘味、淡く日川白鳳のような白桃、オレンジ、枇杷など優しくて多彩なフルーティーさがある。

少し鉛筆の芯を削ったようなオーキーさがありバレル熟成っぽく、カラメルのような苦味、クローヴ様のスパイスが味を引き締める。

焼きたてのパンの香味、ハーブのニュアンス、ほんのり赤いチェリーの果実の萌芽が感じられ、フルーツ牛乳のようなコクがある。

度数の強さはあまりなく非常にスムースで、鼻風邪を引いていたのもあり2回に分けてテイスティングしたが、2回で半分近くを飲んでしまった。


スペイサイドのビッグネームであることはわかるが、ブラインドではロングモーンとは答えないかもしれない。

ロングモーンらしさとはなんだろうと、ついつい考えながら飲み進めてしまった。

しかし飲み疲れせず、ずっと飲んでいられるところも含め、やはりスぺイサイドのトップドレッシングと呼ばれる所以なのだろう。

これがもう少し熟成が延びて、いいシェリー樽に巡り合えば、赤いチェリーの萌芽がグアバのようなトロピカルに変化してもそれほど驚かないだろう。


やはりSomething  Specialを感じるスペイサイドモルトで、同時期の原酒を使ったオフィシャル25年は今のうちにストックすべきかもと思わされる。


王道的なブレンデッド・スコッチの心臓ともいえるスペイサイドの雄、埋もれてほしくないウイスキーで、名蒸溜所ロングモーンの片鱗が味わえるボトルだ。


【Verygood!!】