『ほら、あれっ。なんだっけ?』咄嗟に出てこなくて言葉につまる、最近そんな事が増えた。
ウイスキーを飲んでも『あれっ、これこんな味だっけ?』、そう思うこともまた増えている。
人が加齢とともに感覚が変わり、また記憶力も衰える事はある意味、仕方のないことかもしれない。
ウイスキーもまた時間の経過とともに変化するし、自分の嗜好も変わっているだろう。
時の流れにより失われてしまったのか、慣れによる鈍化か、最近鮮烈な感動をウイスキーから得られる場面が減った。
それは私にとってはとても悲しいことだ。
しかし、久しぶりにあるウイスキーを飲んで衝撃的な感動を味わった。
おぼろげに記憶にあるため、一度飲んだウイスキーなのだろうと思うが、実は飲んでいないのかもしれない。
スペックを考えるとあり得ないプライスでショット売りしていて、おかわりをしてじっくりと味わった。
そのウイスキーがこの50年熟成、ゴードン&マクファイルのモートラックだ。
ヴィンテージは1957年1月26日、ボトリングが2007年5月の50年熟成だ。
カスクナンバー585と586という2つの1stフィル・シェリーバットで熟成され、アルコール度数は43.5%で514本ボトリングされている。
シリーズはプライベート・コレクションで、アーカート(ウルクハート)一族が選んだ特別な樽という触れ込みのフラッグシップだ。
スペックとしては今味わえるウイスキーの中では頂点に近い。
ただ、アルコール度数や蒸溜所で恥ずかしながらそこまで期待値が上がらなかった。
しかし飲んでみてそれが間違いだったことにすぐさま気付く、それくらいとんでもないウイスキーだったのだ。
Bar飲みでテイスティングを記載するのは久しぶりな気がする。
【テイスティング】
シガーの紫煙、マホガニーのアンティーク家具、オールドピート、プラムやダークチェリー、滑らかなベルギーのビターチョコレート。
漢方っぽいスパイス、塩味のあるヨード、ブーケガルニのスープ、しっかりとした黒土に重なるノーブルで美しいウッディネスがある。
GMの最高峰の古いシェリー樽で、味わいが濃くビターなニュアンスやタンニン、熟成したグレートヴィンテージのポイヤックのグラン・ヴァンヴァンのよう、カベルネ・ソーヴィニヨンのニュアンスがある。
43.5%と半世紀の熟成でさすがに度数が下がっているが、パワーは健在で永遠に続くかのような長い長い余韻。
以前なら苦味とスパイシーさを強く拾い、それほど良さが理解できなかったかもしれない。
しかし、究極的にバランスのいいシェリーカスクのウイスキーで、非の打ち所がない。
1970年代を代表するシェリーカスクのウイスキー達をこれを飲む前に飲んだが、役者が一枚も二枚も違った。
50年樽の中にいて、ボトリングからも15年の年月が経過している。
このウイスキーは長い年月が産み出した奇跡と言えるだろう。
時間や年を重ねることはけっして悪いことばかりではない、このウイスキーはそれを教えてくれる。