そのウイスキーを初めて飲んだ日のことを覚えている。

当時兵庫の西宮で貧乏学生をしていた私は、バンド活動に熱をあげていた。

演奏するのはハードロックがメインだった。


ロックとウイスキーは切っても切り離せない。

その当時、ジャック・ダニエルのラベルを描いたベースを弾くメンバーのいるバンドのカヴァーをしたりもした。

また、『スローハンド』と呼ばれ愛されるレジェンドは、ジム・ビームがお気に入りだ。

 

その名もサブロックという、今はなき西宮北口のスタジオでリハーサルをした帰り、西宮北口のショットバーでたまにウイスキーを飲んだ。

味も全然わからないし、スコッチとバーボンの区別さえついていなかった。

ただあるウイスキーのその名前と強烈な味わいは、脳裏に焼き付いた。

You either love it or hate it

ラフロイグだ。


それから15年ぐらいを経て銀座のBARで再会したラフロイグは、始めて飲んだ当時の印象そのままの強烈な個性を放っていた。


だが正露丸や歯医者だと言われたりするそれをおいしいと思えるようになった私は、定番の10年、クオーターカスク、そしてトリプルウッド、18年と飲み進めた。

そしてある一本のラフロイグとの出会いでラフロイグに決定的にのめり込んでいった。

 

ウイスキーマガジンのテイスティングパネラーだったというデヴィッド・スターク氏率いるクリエイティブ・ウイスキー社。

その会社が創立5周年を記念して詰めた3本のうちの1本、1988ヴィンテージの22年熟成のラフロイグ。

2010年にボトリングされたものだと言う。

色鮮やかなカワセミのラベルが印象的なボトルで、私がマンゴーやパッションフルーツをラフロイグから強烈に感じた初めてのボトルだった。


すぐに探したがアウトターンが276本しかないボトルで、発売されて少し時間が経っていたので当然見つからない。


そこで同じような20年から22年熟成のラフロイグを結構買った

熟成年が近ければ似たような味わいのものがあるのではないか、という考えからだ。

その時のラフロイグのヴィンテージは1990が中心だったと思うが、どれも探していたその味はしなかった。


その経験を通じて、ウイスキーは同熟成年以上に同ヴィンテージが味を決めることを感じた記憶がある。

事実、そののちに出会った1988ヴィンテージには、全てではないがそれなりの確率でその味を探せている。


結局そのボトルを買うために初めて海外のオークションに挑戦し、数年かけて都合4本を落札し2本を飲んだ。

あとの2本は去年ボトルを整理をしたときに見かけたので、いずれ飲む事を楽しみにしている。


だがしかし、ラフロイグにその味がするのは1988ヴィンテージだけでは当然無かったのだ。

アンブレンデッド表記のオールドボトルや、裏に蒸溜所のイラストがかかれたロイヤルワラント前の10年にはもっと濃くその味がした。


極めつけはもはや伝説の1974、31年のシェリーカスクだ。

そのウイスキーはフランスのウイスキー商社ラ・メゾン・ド・ウイスキーで、今や12,500ユーロで売られている。


思い起こすと、私がラフロイグを西宮北口で飲んだBARは大震災で失われているため、初めてラフロイグを飲んだのは1994年頃だという事になる。


ラフロイグがチャールズ皇太子からプリンス・オブ・ウェールズのロイヤルワラントを授かったのは、奇しくもその1994年だ。

当時は全く気が付かなかったが、おそらくワラントが入っていなかったであろうあのラフロイグ10年を今飲むと、きっとフルーティーな味がするのだろう。


その原体験があるからか、私はフルーティーなラフロイグに目がない。

ラフロイグの魅力はそれだけではないのは重々承知なのだが、ついそれを求めてそれがあると採点が甘くなる。


ただ、海外評価はそれほど私の評価と一致していないように思うし、タールっぽいのが好きな人も多そうだ。

あいつ分かってないな、と思われてもそれが原体験なので仕方ない、と思う。

SMAPや山崎まさよしも歌っていたではないか。

育ってきた環境が違うから、好き嫌いは否めないのだ。

夏がダメだったり、セロリが好きだったりする。


あくまでも私のラフロイグ体験からだが、わかりやすくフルーティーなものは1980年代前半の蒸溜を過ぎると、飛び飛びにしか存在しなくなる。

1988ヴィンテージはそのうちの一つで、あとよく知られているのは1993だ。

ダグラスレインを中心に出されたそのヴィンテージのフルーティーさに、異論を唱える人は少ないだろうと思う。


あとは1997や1998、2001などもその類かもしれない。

今にして思うと2011年にボトリングされ、その品質の高さが話題になった10年カスクストレングスのバッチ3は、逆算すると2001ヴィンテージの原酒だ。


そして、逆算するとフルーティーな1993の蒸溜であると思われるのが、2018年10月にボトリングされているこのラフロイグ25年だ

 

灰にまみれたドライマンゴー、磯の香りと潮っぽいヨード、さらっとした蜂蜜とコクのあるバニラ。

淡くパッションフルーツ、じわじわと舌に重なるタール、ホワイトチョコレート。

バーボン樽のスパイスと程よいオーク、充分にパワーがあるが粗野ではなく滑らか。

アフターには青めの桃のような果実に、きめ細やかな灰が重なっていく。


これぞバーボン樽で熟成されたザ・フルーティー・ラフロイグの典型で、それに加えオフィシャルだけあってタールやヨードなどの要素のバランスがいい。

私が1993ヴィンテージと聞いてイメージする味の典型に、王道感が備わっているのだ。

交差点でも夢の中でも、どっかにその姿を探した黄色いトロピカルフルーツ+灰が、ここにもある。


ちなみに同じように1993蒸溜の原酒が使われている、と言われている2015年詰めのフレンズ・オブ・ラフロイグ向けの21年があるが、それは違う味な気がする。


あれはフレンズ創設21年とその設立年にひっかけ

て、1994ヴィンテージの原酒なのではないか?というのが個人的な見解だ。

味もそんな味がするように思うが、あくまでも個人的な見解なので違っているかもしれない。

それならきっとヴィンテージ表記するだろうしね。


でもあの200周年の2015年に出た一連のリリースは、ノンエイジのカーディスから32年までヴィンテージ表記は一本もないのだ。

目立たないようにあえて入れなかった線も有り得るのではないだろうか?

答えは出ない。

だが、飲んでそういう想像を巡らせるのも楽しいもんだ、と思っている。


しかし一つ不思議なことがある。

あれだけ強烈な印象を残し、歯医者や正露丸だと思っていた香りや味が、今はラフロイグにどうしても探せないのだ

そんな話をBARでしたら、意外にも同じことを感じている人が多かった。

きっと長く飲むとヨードやフルーツ、タールなどいろんな味わいに分解して感じるようになったという事なのだろう


最初に驚かされ、のめり込むきっかけとなった1stインプレッションが、今や消えてなくなっている。

これが『知る悲しみ』ってやつなのだろうか。

だからこそ、ウイスキーは飲むほどに不思議で面白い。

 

あなたは愛するだろうか?それとも憎むだろうか?という問いに対し、私はこのウイスキーを偏愛してやまないと答える。

ダイアナ妃と離婚し当時イメージが最悪だったチャールズ皇太子が、ラフロイグを愛するという共通点だけで、大好きだ!と思えるほどに、だ。


チャールズ皇太子といえば、英国でも猛威をふるうコロナウィルスに感染され、味覚障害を患われたと聞く。

感染後、少しして体調を回復されたあとも、味覚の障害が少し残ったという報道を見た。

今は治ってラフロイグを楽しんでおられるのだろうか?


同じラフロイグloverとして、チャールズ皇太子がラフロイグの味わいがわからなくならないよう、回復されている事を切に願ってやまない。


loverにとってこの味がわからなくなるなんて、人生の楽しみの何分の一かが失われるようなものなのだから。。。


【Very good!/Excellent!!】