バンフは、1983年に閉鎖されもはや建物も存在しない失われた蒸溜所です。
地域的には東ハイランドの蒸溜所に分類され、地図を見るとグレングラッサ蒸溜所とマクダフ蒸溜所の間に建っていました。
デヴェロン川の河口に位置するバンフの町のインヴァボインディーという場所にあって、James Mckilligan & Co.による創業は1824年と由緒のある蒸溜所です。
しかし、何度かオーナーがかわり1862年に閉鎖され.
、場所を移してジェームズ・シンプソンJrが新しい蒸溜所をオープンしたのが1863年で、その時にバンフと改称されたようです。
その後ディアジオの前身であるSMDが1932年に買収し、閉鎖される1983年までずっとディアジオ系の蒸溜所でした。
蒸溜所にはつきものの火事や爆発に何度も見舞われた蒸溜所で、1887年に火災で蒸溜所の一部が焼失しましたがモルティングフロアや熟成庫はのこっていたため6か月後に再開。
1941年には第12熟成庫がドイツ機の爆撃により大破し爆発。
川や地面に大量に流れ出したウイスキーで、アヒルはアルコール中毒で死に、牛は酔っ払って搾乳できない状態に。
また、事後の処理に当たっていた消防士がヘルメットにウイスキーを入れて同僚に配ろうとして、窃盗で逮捕されるという、ウイスキーガロアのようなドタバタがあったようです。
1959年にはメンテナンスの最中にスチルの中に籠った煙が爆発を引き起こし、スチルやスチルハウスが壊れてしまったそうです。
1959年の事故では、幸いにもなくなった人はいなかったようですが、閉鎖後取り壊しを進めていく中残っていた施設も1991年に起きた火災で完全に焼失したとの事。
失われた蒸溜所の中でも比較的マイナーですが、かつては英国下院議会に納入されていたといいますし、個人的には好きな味わいなので1966、1971、1975辺りのヴィンテージはいくつかストックしています。
このボトルはそんなバンフのインディペンデントボトラー(独立系瓶詰業者)からリリースされたもので、大手ボトラーであるダグラスレインの主力シリーズ、オールド・モルト・カスク(OMC)の1971ヴィンテージ。
ダグラスレインは現在はハンターレインと分社し、OMCやOld & Rareといったシングルモルトの主力ブランドは、兄であるスチュワート・ハンター・レイン氏のハンターレイン社が引き継いでいます。
このボトルについていた兄弟揃ってのクレジットが今となっては寂しく映ります。
どうやって入手したかはあまり覚えていませんが、海外のオークションかショップ在庫だったはずで、裏にはスペインのインポーターのシールが貼ってあります。
スペインはヨーロッパの中でもフランスやドイツに次ぐモルト消費大国なのでスペイン廻りのボトルをもっと見てもおかしくないのですが、このタックスシールのボトルを自宅で開栓したのははじめてだと思います。
スペックとしてはそ1971年3月蒸溜、2007年9月ボトリング、カスクNo.DL REF3188のリフィルバットでフィニッシュし、OMCの考えるゴールデンストレングスである50%のアルコール度数でボトリングされています。
アウトターンは451本とバットにしては少なめですが、バーボンホグスヘッドを2樽合わせ加水したとすると辻褄が合いそうな数字です。
1970年代のバンフを久しぶりにのみたくなったため、自宅で開栓してテイスティングしました。
ワックスを縫ったはっさくの皮、白い花の蜜、芝生のようなグラッシーさ、スイカの皮、スプーンを舐めたような金属感、青リンゴ、ホワイトチョコレート。
針葉樹の樹液、さらっとした蜂蜜、バニラ、焼いたオーク由来の削った鉛筆の芯、ブラックペッパーやカルダモン様のスパイス、ラムネ菓子、ライトピートでドライな麦感。
樹液やワックスのようなフレーバーに、白を連想させる花の蜜や蜂蜜、青リンゴや少しグラッシーなニュアンスが、非常にバンフらしいバンフ。
リフィルのシェリーバットでフィニッシュさせたとあるが、シェリーのニュアンスはあまり感じない。
しかし、非常に多彩で複雑なフレーバー構成になっているので、それを狙ってのカスクマネージメントなのだろうか。
また、長熟のバンフはリリース後期に出てきたボトルは度数が低いものが多かったのに対し、50%加水だが芯の太さがあるためほぼカスクストレングスのような印象。
クラインリーシュやオード、グレンダランと共通点がある1970~1980年代のディアジオ麦ウマ系という、個人的にはすごく好きな味のウイスキーです。
似たような系統の味が比較的多いのも閉鎖された一つの要因だと思われますが、やはり飲み比べるとバンフらしい個性があります。
在庫している1971ヴィンテージもあと数本なので、大事に飲みたいと思います。
【Verygood!/Excellent!!】