スコッチウイスキーの蒸溜所はハイランドのスペイ川流域に集中して建てられており、その地域はスペイサイドと呼ばれて区分されています。
中でもダフタウン地区はウイスキー製造が盛んな地域で、現在も6つのウイスキー蒸溜所が稼働しています。
世界でもっとも売れているシングルモルト、グレンフィディックを擁するウィリアム・グラント&サンズ社系列の蒸溜所が3つ(グレンフィディック、バルヴェニー、キニンヴィー)。
そして、業界最大手のディアジオ社系列の蒸溜所が3つです。(モートラック、ダフタウン、グレンダラン)
グレンダランはディアジオ系列の蒸溜所の一つで、最近ではアメリカ向けのシングルトン、シングルトン・オブ・グレンダランとして流通しています。
創業は1898年と比較的新しく、19世紀終わりのスペイサイドの蒸溜所建設ラッシュ時に建てられています。(正確には建てられたのは1897年、初蒸溜が1898年のようです)
その後1902年には王室に献上され、時の国王エドワード7世が愛飲していたそうです。
創業した直後ですから熟成は最長でも4年なので、今の感覚だと若い気がしますが、王室への献上品なので特別な樽が選ばれていたのかもしれません。
1926年には現在のディアジオの前身であるDCLの傘下に入り、1972年には稼働していた蒸溜所の隣に新しい蒸溜所が増設されます。
ディアジオ系列のこのパターンはクラインリーシュやティーニニックでも見受けられますが、グレンダランのユニークな点は新旧の蒸溜所の原酒をヴァッティングして熟成させていたそうです。
現在ではそうするとシングルモルトとして認められずブレンデッドモルトになってしまうようですが、当時はものいいがつかず、1985年に古い方が閉鎖されるまで続いたそうです。
グレンダランはブレンデッドウイスキー、オールドパーなどの重要な原酒として使用されていてますが、シングルモルトとしてはあまり知名度が高いとはいえない蒸溜所ではないでしょうか。
しかし、同じダフタウン地区にありすでに閉鎖されてしまったコンバルモア同様、麦感の強いスペイサイドモルトとして独特の個性を放っている蒸溜所です。
同地区のウイスキーで、両者の水源は同じコンバルヒルの泉なのでそれもあってか、味わいにもどことなく共通点があるように思います。
このボトルはそんなグレンダランの蒸溜所開設100周年、いわゆるセンテナリーを記念してボトリングされたセンテナリーボトリング。
ヴィンテージ表記のない16年熟成で、同じラベルで65.9%のものも出ていますが、こちらは62.6%のものです。
ラベルにはシングルカスクと表記されていて、逆算するとヴィンテージは1982以前のため、古い方の蒸溜所が閉鎖される前です。
ということはこのボトルも、新旧バッティングされたものなのでしょうか。
裏ラベルにボトルナンバーが記載されており、このボトルは000542となっているため、少なくともそれ以上の本数が出回っているのでしょう。
以前飲んだ時はその強さが強烈な印象を残しましたが、ボトリングから20年が経過しておりどうなっているか確認したかったのと、麦感の強いウイスキーが飲みたくなったため、自宅で開栓してテイスティングしてみました。
【テイスティング】
ハッカやニッキのようなスパイス、乾燥して白い粉をふいた木材、オレンジの白いワタ。
スパイシーなチャイのようなミルクティー、ヒリヒリとするアルコール感、乾燥させた生姜のスライス、ビターなカンパリ、ドライで分厚い麦感。
太くて強い余韻。
ボトリングして20年で今なおヒリヒリと来るアルコールの刺激があり、ビターなスパイシーさと麦の太さがあるウイスキー。
シナモンというよりニッキという感じで、スパイスも皮や実より根を使っているため、苦味が出ているような印象を受ける。
バニラ香はさほどなく、紅茶やオレンジ感もあるため、リフィルのシェリーの樽を使っているのだろうか。
アウトターンからいってもホグスヘッドは考えづらいので、リフィルシェリーバットのように思える、しっとりとしていて樽感も16年としては強いグレンダラン。
まだまだ飲み頃は先にありそうだが期待通りの骨太系ウイスキー。
私の好きな系統の麦の太さのあるハイプルーフのウイスキーですが、それ系のレアモルトとは違い樽はプレーンではなくしっかりめに効いています。
一杯でねじ伏せられるような迫力があり、barでは飲む場面がなかなか思い浮かばないウイスキー。
プルーフやアルコールのピリピリ感、今の流行りではない系統のフルーツ感で、飲み手を選んでしまう印象は否めません。
しかし、麦を蒸溜という手段で液体に変えたらこうなる、という『ザ・モルトウイスキー』と呼びたくなるお酒で、ブレンドでは太い骨格をなすであろう、剛球投手のようなウイスキーで、個人的にはかなりツボです。
ただ、最近のグレンダランでこういう麦を押し出したお酒はあまり無いように思うので、古い方の蒸溜所が閉鎖されたのは大きいのではないかと推測しています。
本来この系統はディアジオの真骨頂だと思いますが、こういう味は流行りでないし、あまり売れなそうです。
消えてしまわないように願っていますし、そうなってもいいように追加しようと思います。