ドンっ!!
ビクッ!!
大きな音
びっくりして跳ね上がる肩
振り向いた視線の先には、ななちゃんの入っている個室
「な…ななちゃ…」
さっきまで聞こえていた蝉の声が止んだ
なんの音もしなくなった
おぉ~かぁ~をぉ~~こえぇ~~~てぇ~~~~ゆぅ~~~こぉ~~~よぉ~~~~……
「ひっ!!だ…だれ…っ!ななちゃん?」
地の底から響くような歌声
ななちゃんからの返事はない
「さ…先に行くね?」
ごめん、ななちゃんっ!
怖くなった
駆け出した足がもつれて転びそうになる
後から歌声が追いかけてきているような気がした
長い廊下を抜け、やっと旧校舎の出口
そこを出ると、一気に蒸し暑さが戻ってきた
蝉の声も聞こえる
「あっ!かんなちゃんっ!」
入り口を出たところで皆が待っていてくれた
ホッとして思わず座り込む
「どうしたの?急に走って中に入っちゃうからびっくりしちゃった」
「だってななちゃんが…」
「ななちゃん?」
「ななちゃんがいたの?」
座り込んでいるかんなちゃんの周りに集まる子供達
「誰かななちゃん見た?」
皆が首を横に振る
「ななちゃん、旧校舎のトイレに入ってる。変な音が…歌が聴こえてきて…怖くて置いてきちゃった…」
「こら~~~っ!そろそろ帰れよ~~~っ!」
「あ、先生…」
見回りにきた宿直の先生は、座り込んでるかんなちゃんき気づくと駆け寄った。
「どうした?怪我か?気分でも悪くなったのか?」
心配そうに顔を覗きこむ先生
少し迷って、事情を説明して一緒にななちゃんを探しに行ってもらうことになった
「大丈夫?かんなちゃん」
「…うん…今度は皆も一緒だから…」
それでも足は進まない
恐る恐る先生の後をついてゆく
もう廊下の窓から入る光はわずかなものになっていた
「ここ?」
「はい…一番向こうの端のトイレです…」
扉は閉まってる
まだ入ってるのだろうか
先生がノックしようと扉に触れると、それは簡単に内側に開いた
「誰もいないぞ?ほんとにこ…うわぁぁ~~~~~~~~~~~~っ!!!!」
確認の為、懐中電灯で狭い個室を照らした先生
その光が便器の中
汲み取り式の肥溜めの底に届いた瞬間、先生の叫び声が響き渡った
何を見たのか口をきくのもままならない先生
完全に腰が抜けてしまっている
先生に叫び声で固まる子と、反射的に外へと駆け出す子
外に出た子供達が大人たちを伴って旧校舎へ戻ってきた
ななちゃんは亡くなっていた
どうやって入ったのか
狭い便器の穴を抜けて、暗くて臭い肥溜めの中で…
直立した状態で真上を向いて
その形相は、なにか恐ろしいものを見たかのように恐怖で歪んでいたという
そして…
ななちゃんの死亡推定時刻は前日の午後5時頃
ならば、今日皆とかくれんぼしたななちゃんは?
トイレの前でかんなちゃんが話したななちゃんは?
校長先生が後に語ってくれた
戦時中
この旧校舎があった場所に立っていた建物の中で
音楽の授業中に空襲にあい、何人もの子供達に命が絶たれたと…
ななちゃんは、彼らに連れてゆかれたのでしょうか……
さぁ、お話しはここまでです
少しは涼しくなりましたか?
……おや?
どうしました?
ほぉ
怖くて余計に眠れなくなった?
そんなことは僕の知ったことではありません
読んだあなたが悪いのか
書いた僕が悪いのか…
それではおやすみなさい
良い悪夢を………
草木も眠る丑三つ刻
蒸し暑くて眠れない そこのあなた
ようこそ
丑三劇場へ
こちらで少し涼んでいかれませんか?
も~い~かぁ~~~い
まぁ~~だだよぉ~~~~…
ほぉら
どこからともなく子供達の声が聞こえてきましたね
あれは…
かくれんぼ
でしょうか
これは、「かくれんぼ」をしていた子供達が出遭った出来事
ある夏休み
とある小学校
昼下がりの校舎で子供達がかくれんぼ
今ではそんなことは学校がさせてはくれないけれど…
まぁ、昔々のお話しです
「みなみちゃん、みぃ~つけたっ!」
「えええぇ~~~~!かんなちゃん、見つけるの早ぁい~~っ」
「みなみちゃんが隠れるの下手なんだよ」
明るい子供達の笑い声が響く校庭
「あとは…ななちゃんだけなんだけどなぁ…」
「いっつも見つけられないよね、ななちゃん」
「どこだろう?」
なかなか見つからない、ななちゃん
皆で探しても見つからない
あと探してないのは…
もう使われてない旧校舎
「どうする?」
「あそこは立入禁止だよ。先生に怒られる」
「でも、他にいくとこないよ。全部探したもん」
ルールは学校内から出ないこと
旧校舎以外は皆で全部探した
「そろそろ帰らないとお母さんに叱られちゃう」
早く見つけないと…
「ななちゃぁ~~~~~~んっ!!」
大きな声で呼んでも返事がない
いつの間にか影が長くなってる
日が落ちてきた
だんだん不安になってきた頃
皆の足は、自然と旧校舎へ
夕陽でオレンジに染まった校庭
深い影を落とす旧校舎
「お昼間でも暗いけど…」
「うん…ちょっと…怖い」
「どうする?」
顔を見合わせたその時
「あれ?」
旧校舎の入り口に人影が見えた
「ななちゃん?」
思わず追いかける
「待ってっ!もう終わったから…っ!ななちゃんの勝ちでいいから帰ろうよぉ~~っ」
ななちゃんの足は止まらなかった
やっと追いついた場所はトイレの前だった
「あ~あ、掴まっちゃった」
「もうっ!ここ立入禁止なんだよ?見つかったら怒られちゃうよ」
「だって、誰もこないし、トイレもあるから便利なんだもん」
「えっ!ここ…使ってたの?」
「うん。臭いの我慢すれば大丈夫」
「…そっか…ね、もう帰ろ?暗くなったら怖いよ、ここ…」
窓から差し込むオレンジの光は、その色を失い徐々に暗くなってゆく
「うん。あ、トイレ寄っていくから待ってて」
「ええええぇ~~~~~~っ」
ななちゃんは慣れた様子でトイレの個室に入ってゆく
辺りが暗くなる前に校舎から出たいのに…
はやくはやく…
心臓がドキドキして落ち着かない
それになんだか空気がひんやりしてる
ふと思う
他の皆は?
どうして誰も追いかけて来ないの?
その時だった

