娘は学校、嫁は会社。

自営業の僕は在宅勤務だったので

午前中のうちに買い物へ行くことにした。

冷蔵庫の中を確認して


卵と牛乳とバターがなくなりそうだなと

思っていたとき、ふと

そうだ、今日はニラ玉にしよう

と、思い立った。

ニラ玉なんて、使ったことないし

うちの食卓に上がったことはないけど

なんとなく、なぜかニラ玉が思い浮かんだ。


ニラ玉も作って、夕食の準備も終わる頃

嫁が帰ってきた。

玄関から寝室ではなくキッチンにやってきた嫁は

買い物袋を下げている。

そこから、ニラがのぞいていた。


ニラ?


我が家の食卓にニラ玉は上がったことない。

嫁のレパートリーにニラ玉はない。

食卓にニラが使われる料理が上がることは

ほとんどなかったはず。


何に使うの? なんでニラ?

頭がぐるぐる回っていたら

キッチンの嫁は買い物袋から

牛乳と卵とバターを取り出した。


冷蔵庫を開けると扉の裏側に

口の開いていない同じ銘柄の牛乳がある。

僕が買ってきたものだ。それを見て嫁は

一瞬、動きが止まったように見えたけど

すぐに無表情で、買ってきた牛乳を

隣に立てた。

卵皿を引き出すと

僕が買ってきた卵がぎっしり並んでいる。

反射的に皿をしまって

買ってきた卵を中段の棚においた。

バターケースは、チビたバターを

ぎゅっと押し寄せるように

僕が買ってきた新品バターが入っている。

そんなことは、わかっているといった顔で

嫁は買ってきたバターの箱を

そのままケースの上におくと

冷蔵庫のドアをバタンと閉めた。


野菜室にニラは無かったので

フンという顔でニラを納めると

着替えに寝室へ戻って行った。


「ご飯だよー」と、娘が嫁を呼びに行き

いつもの形式だけの団欒が始まった。


最近、娘の「今日学校でさ」の内容が

女子トークになってきていることが嬉しいのか

嫁と娘はキャピキャピと話して

僕は、ふーん、とか、へー、とか相槌を

打つぐらいしか話しに入れない。

ひと通り話して、それぞれが部屋に戻って

僕は残り物をさらってから

テーブルを片付ける。


嫁のニラ玉は

ほとんど手がつけられていなかった。


離婚まで、あと2176日。