会社に入って最初に学んだのは
「ホウレンソウ」だったと思う。
報告、連絡、相談
組織の連携に必要な三つのこと。
我が家にホウレンソウは無い。
そもそも挨拶がない。
朝起きたら「おはよう」というのは
当たり前だと思っていた。
朝は僕が娘を起こしていたので
(いま春休みだ)
家を出る1時間前に
「おはよう」と部屋のドアを開けて
電気ストーブを点けてやるのが日課だった。
寝起きの娘はベッドの中でモゾモゾしてるが
おはようと返してくることはない。
嫁はひとりで起きて洗面所に直行して
キッチンでコーヒーを淹れたら
また洗面所で身支度して
「行ってきます」を言わずに家を出る。
当然娘も真似をする。
僕から積極的に「おはよう」を
言い続けていたこともあるけど
いつの間にか2対1に負けた。
それが我が家のルールなのかもしれないけれど
僕は必ず家を出る時、誰に聞かせるともなく
玄関で「いってきます」と言うようにしている。
誰もどこへ行くのか、何時に帰るのか言わない。
嫁は会社、娘は学校なのは分かるが
真似して娘が遊びに行く時も
誰とどこで遊ぶのか
言わずに出るのが気になっている。
今はまだいいけれど
これから多感な10代に
誰とどこで何しているのか
ちょっとだけ心配している。
娘としては知られたくないことも
あるのだろうけれど。
2人とも「ただいま」を言わずに帰ってくる。
娘の部屋はリビングを抜けたところにあるので
僕は娘には「おかえり」と言うけれど
嫁が籠っている寝室はリビングを通らず
入れるので、帰ってきた嫁に
「おかえり」を言うことはない。
僕がキッチンで夕飯の支度をしていると
玄関がガチャンと開いて嫁が帰ってきて
寝室に直行、食事の用意ができたので
娘に呼びに行かせると部屋着姿の嫁がやってきて
ノコノコと食卓につくのがいつものことだ。
なんでこんなに、毎日のことが気になるのか
というと、僕の育った環境が
そうではなかったからなのだと思う。
母親は毎日キッキンがダイニングにいて
朝も夜も「行ってらっしゃい」「おかえり」と
声をかけてくれたし、僕が出かける時は
「どこに行くの?」「だれと行くの?」
「何時頃帰る?」と聞かれていた。
ときにそれは五月蝿いなぁと思ったりもしたけど
いま、自分がそんな親の気持ちがよく分かる。
嫁の実家は、挨拶がなかったのかもしれない。
育ちの違いを指摘するのは得策じゃないから
僕は黙って我が家の習慣に従っているけど
なんとなく寂しさを覚えているのだ。
離婚まで、あと2195日。