ピンポンパンポーン・・・
本日の記事には大きなネタバレ要素が含まれます。
そしていつもとは違った感じに仕上がっています。
それでも良いという方は、下記にお進みください。
では、本編です。
私には以前から好意を寄せている女性がいる。
彼女は都会での生活に疲れ、祖父の残した牧場へ半ば逃げてきた私と違い、
都会から自らを表現するために、この谷にやってきた。
ユーモアがあって、良く笑い、そして少しだけ自分に自信がない人だ。
少し前に、彫刻に取り組んでいる彼女を訪ねた。
心よく私を迎え入れてくれた彼女は、今制作している作品を見せながら、私にこう言った。
「いったん外側をはぎ取れば、内側から本来の姿が見えてくるんだ。」
私は一言「人間と同じだね。」と、それっぽい言葉で返すことしかできなかった。
これが初めて"彼女"という人間に触れた瞬間だったのかもしれない。
作品に熱中する彼女は眩しい。
土臭い私とは大違いだ。
それはそうだ。
彼女は自分の夢を、自分を表現するためにこの谷にきたのだ。
おめおめと田舎に逃げてきた私とはこの谷にいる意味が違う。
だが、一方でアーティストとして食べていくのは厳しいと、現実も見えているようだ。
僕は肯定も否定もできなかったが、あることを思いついた。
「町で、作品の展示をしてみたら?」
無い知恵を少し絞って出た案だった。
彼女はそれに賛同してくれた。
がしかし、自分の作品に自信がないとも言った。
やってみないと分からないだろうと私は思ったが、
芸術家の苦労なんて微塵もわかっちゃいない私が思うこと自体、とても失礼だとも思った。
とりあえず、彼女は前向きに検討してくれるみたいだ。
何が正解かわからないけど、彼女が自信を持ってくれることが大切なことなのだろう。
その日私は、プレゼントのマッシュルームを彼女へ渡し部屋を出た。
何か彼女の助けになれた気がして、その日の帰りの足取りは軽かった。
数週間後、週課のマッシュルームを持って彼女を訪ねた。
彼女は自然を愛する人。
自生のキノコも快く受け取ってくれる。
土臭い私にお似合いのキノコを受け取ってくれる優しさも、彼女の魅力の一つだ。
意気揚々と彼女の部屋をノックする。
返事はなかった。
あれ?と思ったが、カギは開いている。
作品作りに集中しているのかもしれないと思い、そろりそろりドアノブを回した。
「こんにち・・・」
挨拶をすべて言い終わる前に、彼女が電話しているところが見えた。
タイミングが悪かったと、玄関から出ようとしたそのとき、私の耳にいつもの彼女の声とは違う、語気の強い言葉が飛び込んできた。
ケリー。
初めて聞く名前だ。
この谷にそんな名前の人はいない。
私はすぐに、前に住んでいた街の人だろうと思った。
それはそうだ。
彼女は都会からこの谷に引っ越してきたし、前の街に友人の一人や二人、もしくは恋仲の人がいたって不思議じゃない。
僕はバツが悪そうに笑う。
何も言えないまま、2人の間にぬるい時間が流れる。
マッシュルーム片手に居心地が悪くなった私は、会釈をすると、その場を立ち去ろうと踵を返そうとした。
すると、そっと彼女が口を開いた。
なんとなく察しはついてた。
自分の親に、二度と電話してこないでなんて言う人なんていないだろう。
私はどう反応したらいいかわからず、うつむくことしかできなかった。
聞きたい気持ちと、何も聞かなかったことにして帰りたい気持ちが交差する。
私が葛藤しているうちに、彼女はここに来た経緯を話し始めた。
"一緒のアパートメントに住んでた"
ん、今時アパートメントって言う?と心で思う間もなく、
今はまだ、ただの友人でしかない彼女の話が、なぜかチクっとした。
普通の人が、普通に願う暮らしをその彼は望んでいたのだろう。
その気持ちはわかる。
普通の生活をしていない私が言うのは変な話だけど。
彼女の気持ちもわかる。
彼女にとって、いわゆる"普通の生活"は望んでいなかったのだろう。
彼女の大きな夢を前にして。
話し終わり、一息ついた彼女は私に問う。
「私は自分勝手か?」と。
状況はどうあれ、一度自分で決めた人生。
私も挫折という形ではあるが、自分で牧場主になろうと決めてこの谷にきた。
それを自分勝手だと、その一言で済まされたら、自分自身を否定してしまうことになる。
「思わないよ。そうするべきだったんだ。」
私はそう答えた。
自分自身を守るためでもあったのかもしれない。
幸せなんてものは、人それぞれだ。
彼女は彼といるよりも、自分を表現することが幸せだったのだろう。
夢を追いながら、現実を見ている。
私は何を追いながら、何を見ているのだろうか。
一瞬、周りの景色が遠くに感じた。
ふと景色が元に戻る。
私もワクワクするよ。
何はともあれ、彼女の力になったことが嬉しかった。
「・・・今日は悪かったね。展示会、私も楽しみにしているよ。」
そういうと私は彼女の家を出た。
何とも言えない空気がまとわりついたまま家路に着く。
私の片手には、渡せなかったマッシュルームが握られていた。
それから暫く経ち、寒かった冬か終わり、春を迎えたころ彼女が私の家を訪ねてきた。
彼女は元気に、期待に満ちた顔で私に予定を聞く。
どうやら展示会を今日の15時から17時の間に、広場で行うらしい。
その招待に来てくれたってことだ。
随分急だな。いつの間に準備したのだろう。
「特に大きな予定はないよ。畑仕事くらいしかね。」
本当は、春の種をたくさん植える予定だった。
だけどそんなことがどうでもよくなるくらい、彼女は笑顔だった。
「助けてくれたゼロシュには是非来てほしいんだ」と笑う君を見ていると、とても心が安らいだ。
「もちろん、見に行くよ。」
私がそういうと、彼女はよろしくと、広場の方へ駆けて行った。
急いで、仕事を終わらせないと。
午後2時50分。
私は広場へ向かう道の真ん中にいた。
彼女が大きな一歩を歩み始める大切な日だ。
私も心が踊る。
午後3時。
展示会場に着くと、谷のみんながすでに集まりにぎやかにしている。
「よかった!ゼロシュ、きてくれたんだね。」
そういうと彼女は谷のみんなを集め、さっそくと、自分の作品の説明を始めた。
少し離れたところから、その生き生きとした彼女を見つめる。
瞳が輝いている。
彼女の背中を押してあげられたことが、とても誇らしくなった。
作品は4点。
どれも私には想像もつかない造形のものばかりだった。
何が良くて、何が悪いかわからなかったが、彼女が表現したかったものがそこにあった。
それだけで嬉しかった。
4点すべての作品の紹介を終えると、彼女はおもむろに私の前に来て声を上げる。
ドキっとした。
彼女にとって私はそのような存在だったのかと。
嬉しくもあり、恥ずかしくもあり、そして少しだけ切なくもあった。
彼女は真剣でまっすぐな目を私に向ける。
私はどこを向いたらわからず、気持ちの定まらない顔をしてキョロキョロしてしまった。
町長の言葉を皮切りに、谷のみんなから賛辞の雨を浴びせられる彼女の顔は、今までにない笑顔だった。
今回の展示会は大成功だった。
今後も彼女は作品に取り組み、この谷から自分を発信し続けるだろう。
リアは自分の夢を追うといい。
私は夢を追う君を追いかけよう。
そう心に決めた1日だった。
ただ私には一つ気になったことがある。
どこに顔を向けたらいいかわからない間、あたりをキョロキョロしていた際に見慣れない人物を見かけた。
茶髪に青いジージャンを羽織り、腕組をして壁に寄り掛かる男性。
見たことないけど、彼は一体・・・?
そう思った次の瞬間に、私は悟った。
あの日、彼女がもう二度と電話してこないでと怒鳴った、その電話の相手なのではないかと。
Fin ~






















































