-
古き骸を捨て、君は此処に蘇るべし。-【乗りものニュース】アメリカで飛行可能なゼロ戦が誕生!角型主翼の32型で空飛べるのは初
タイトルに取った「古き骸(むくろ)を捨て、君は此処に蘇るべし。」と言うのは、古い邦画「魔界転生」のキャッチコピーだ。この映画、私(ZERO)は見ていないのだが、一時期随分と喧伝されたので、覚えている。何でも、天草の乱で死んだ天草四郎が地獄から蘇ってきて、その他の亡者と共に幕府転覆を企む。これに対して幕府側=体制側にして「生者の味方」となる柳生十兵衛が対峙・対決する、ってな話、らしい。天草四郎を(未だ若かった)沢田研二が演じ、柳生十兵衛を(やはり若かった)千葉真一が演じ、耳無し芳一宜しく経文だか呪文だかを書いた顔と眼帯(柳生十兵衛は隻眼=片目で有名)がインパクト大だったので、未だに覚えている。
で、キャッチコピーとなっている「古き骸(むくろ)を捨て、君は此処に蘇るべし。」と言うのは、天草四郎が他の死者を蘇らせる呪文であった、と思う。「エロイム・エッサイム。我は、求め、訴えたり。」と続けた、と思うが、この辺りは水木しげるの漫画「千年王国」だか「悪魔くん」だかと、記憶が混同・混乱している可能性を否めず、一寸自信がない。
それはさておき、そんな「古い邦画の、死者を蘇らせる呪文」を思い出したのは・・・米国で、我等が零式艦上戦闘機の32型が「復活した」ってニュースを知ったから、だ。
(1)【乗りものニュース】アメリカで飛行可能なゼロ戦が誕生!角型主翼の32型で空飛べるのは初
【乗りものニュース】アメリカで飛行可能なゼロ戦が誕生!角型主翼の32型で空飛べるのは初
乗りものニュース編集部 の意見 - 11月18日
https://www.msn.com/ja-jp/news/opinion/e3-82-a2-e3-83-a1-e3-83-aa-e3-82-ab-e3-81-a7-e9-a3-9b-e8-a1-8c-e5-8f-af-e8-83-bd-e3-81-aa-e3-82-bc-e3-83-ad-e6-88-a6-e3-81-8c-e8-aa-95-e7-94-9f-ef-bc-81-e8-a7-92-e5-9e-8b-e4-b8-bb-e7-bf-bc-e3-81-ae32-e5-9e-8b-e3-81-a7-e7-a9-ba-e9-a3-9b-e3-81-b9-e3-82-8b-e3-8/ar-AA14eOjv
エンジンはP&W製の新品を搭載
アメリカにある「MILITARY AVIATION MUSEUM(ミリタリー アビエーション ミュージアム)」は2022年11月11日、公式ツイッターで、コレクションに「A6M3 Zero」が加わったと発表しました。
「A6M3 Zero」とは第二次世界大戦中に旧日本海軍が使用した零式艦上戦闘機、通称「零戦(ゼロ戦)」の32型のことです。
【世界で唯一!】福岡県に残るレア機 修復した零戦32型
MILITARY AVIATION MUSEUMが取得した新造の零戦32型(画像:MILITARY AVIATION MUSEUM)。
MILITARY AVIATION MUSEUMが取得した新造の零戦32型(画像:MILITARY AVIATION MUSEUM)。
c 乗りものニュース 提供
零戦32型は、各型合計で1万機以上が造られた零戦シリーズのなかで唯一、主翼端が角型のモデルです。ゆえに登場当初、アメリカ軍は別機種と認識しており、「Zeke」という零戦識別用のコードネームとは別に、32型にだけは「Hamp」という名称を付与していました。
なお、生産数は343機とほかのタイプよりも少ないため、これまで現存する零戦32型は、福岡県筑前町の町立大刀洗平和記念館で展示・保管されている機体が世界で唯一といわれていました。
今回、MILITARY AVIATION MUSEUMが取得した零戦32型は、ワシントン州エバレットのレジェンド・フライヤー社が、リバース・エンジニアリングで組み立てた新造機になります。リバース・エンジニアリングとは、現存する残骸などから部品ひとつひとつの形状や寸法を割り出し、新たな部材を複製し、それを組み立てて新製することです。
第2次世界大戦中に製造された残存機をレストア(修復)したわけではないため、前出の大刀洗平和記念館に残る実機とは性格が異なるものの、新造機であるため飛行可能というメリットも有しています。
説明によると、近いうちに大戦が終わってから最初となる飛行を行うとのこと。なお、エンジンについては、諸事情から取得しやすく整備部品なども豊富にあるプラット・アンド・ホイットニー(P&W)製の空冷星型エンジンを搭載しています。
-
(2)一寸解説、「二号零戦」こと「零戦32型」
さて、釈迦に説法ってぇ向きもあろうが、念のため「零戦32型」を一寸解説しておこう。
「零戦(れいせん/ぜろせん)」として有名な「零式艦上戦闘機」は、第二次大戦を通じて我が国の主力戦闘機であり(*1)、皇紀2600年(昭和15年 西暦1940年)に制式化された。その「皇紀年号の下二桁」を以て「零式」と命名された「艦上戦闘機」である。従って、「零式輸送機」や「零式水上観測機」の「零式」も同じ命名由来なので、これらとは「同期制式」ってことになる。
因みに「皇紀2600年の下二桁」を「零式」と読むのは帝国海軍で、帝国陸軍(当時の日本に、空軍はない)では「百式」と読むので、「百式司令部偵察機」や「百式短機関銃」「百式重爆撃機 呑龍」も「実は同機制式」である。
ヴァリエーションを示す「32型」という「二桁型番」は、帝国海軍独自のモノ(*2)で、「十の位が機体。一の位がエンジン」を表す。従って、「最初の生産型は11型」であり(*3)、これの翼端を畳める様にしたのが大戦前半の我が国主力戦闘機たる「零戦21型」。で、それに続く「32型」は「3番目の機体で、2番目のエンジン」を意味する。序でに書けば、大戦後半の我が国主力戦闘機(になってしまったの)は「零戦52型」である。
で、「零戦32型」は、上掲記事にある通り、「翼端が四角い唯一の零戦」であり、我が国では「二号零戦」とも呼ばれた。それ以前の21型の「量翼端を四角く切り落として、翼幅と翼面積を減じた」様な形だった。11型と21型が「翼端を折りたためる」ぐらいの差違しか無く、翼端を伸ばした(普通の飛行状態の(*4))21型は11型と外見上の区別が難しいくらいだったから、21型と11型を纏めて「一号零戦」とし、32型を「二号零戦」と、我が軍では呼んでいた。上掲記事にもある通り、零戦の米側呼称は(ZEROってのもあるんだが・・・)Zeke(ジーク)であるのに対し、32型だけHampと呼ばれたのも、無理はない。因みに、32型より後の52型も63型も64型も「翼端は再び丸くなっている」と共に、やはりZekeと呼ばれている。
零戦21型の翼端折りたたみ
前述の通り、単に翼端が四角いばかりでは無く、翼幅と翼面積を減じた32型は、速度向上と横転(ロール)速度向上に有利な翼平面形となっている。一方でこの翼平面形は、航続距離には不利で、事実、零戦32型は、長大な(当時の単発戦闘機としては奇蹟的とも言える)航続距離を誇った零戦21型よりも航続距離が短くなっている。
第二次大戦頃の様な亜音速航空機の主翼端形状は、理想的な順に「楕円翼(スピットファイア、He111、零式水上観測機など)>翼端半円(零戦21型以前/52型以降、Me109F以降など)>翼端角型切り落とし(Me109E以前、Fw190、P-51)」とされている。零戦32型より後発の52型以降が「丸い翼端に戻った」のは、「より理想に近づけた」とも言えよう(*5)。
零戦52型三面図
それだけ、「翼端の四角い零戦32型」が「零戦の異端児」とも言えそうだな。
-
<注記>
-
(*1) 「後継機の開発に失敗した」側面も、無しとはしない。
-
-
(*2) 帝国陸軍では、「1型」「2型」「3型」と、「一桁型番」を使った。
-
各型での武装のバリエーションを「甲乙丙丁・・・」をつけて表す(「52型丙」とか)のは、帝国陸海軍共通だったが。
-
-
(*3) 序でに書けば、「今の所唯一の国産旅客機」であるYS-11の「11」も同じ意味が込められていると言う。
-
って事は、YS-11は「帝国海軍の命名法に準じた」って事になるな。帝国陸軍としては、少なからず面白く無さそうだ。
-
-
(*4) F-8クルセイダーみたいに盛大に畳める主翼では無く、「翼端だけ跳ね上げる」程度だから、多分、「翼端を畳んだ状態」でも「離陸は出来る」と思う・・・発艦は難しそうだが。我が国の空母には、カタパルトも無いしね。
-
-
(*5) 翼端の形は「理想からかけ離れた角型切り落とし」ながら、「究極のレシプロ戦闘機」とも呼ばれるP-51なんて例も、あるのだけれど。
-
(3)リバースエンジニアリングの「善用」
1> 今回、MILITARY AVIATION MUSEUMが取得した零戦32型は、
2> ワシントン州エバレットのレジェンド・フライヤー社が、リバース・エンジニアリングで組み立てた新造機になります。
3> リバース・エンジニアリングとは、現存する残骸などから部品一つ一つの形状や寸法を割り出し、
4> 新たな部材を複製し、それを組み立てて新製することです。
私(ZERO)としては、「後発企業が先行企業の設計・製造ノウハウを盗む方法」ってイメージが強かった「リバース・エンジニアリング」なのだが、なるほど、斯様な「歴史的遺物を復活させる」事にも利用・活用出来る訳だ。
「目から鱗が落ちる思い」というと大袈裟だが、「科学技術自身に善悪無く、人の善用・悪用があるのみ。」との思いは強くした。下世話な言い方すれば、「バカとハサミは使い様」って所だろう。
兎にも角にも、斯様な「リバース・エンジニアリングの善用」により、零式艦上戦闘機32型の「クローン」とも言うべき飛行可能な機体が誕生したことは、喜ばしい。
5> なお、エンジンについては、諸事情から取得しやすく整備部品なども豊富にある
6> プラット・アンド・ホイットニー(P&W)製の空冷星形エンジンを搭載しています。
って事で、エンジンはオリジナル(は、かなり無理がある。(*1))でもリバース・エンジニアリング品でも無く、米国製の現代製品となっており、「魂を米国に売ってしまった」状態な訳だが、「飛行可能な零戦32型」に免じて、これは許容すべきだろう。
Now, Hump is Back!!!
零戦32型、只今戦列復帰セリ!!!
- <注記>
- (*1) 確か一機だけ、オリジナルの栄エンジンで飛行可能な零戦が、あったと思うが・・・