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クマムシ生還は判ったが・・・【ITmedia News】”最強生物”クマムシ、量子ビットと量子もつれになる絶対零度・高真空に420時間さらされても生還
何度か繰り返す通り私(ZERO)は理系の人間だが、学んだのは工学であり、社会人となってからも「古典的なニュートン力学で大半の用が足りる」世界に生きている。相対論や量子力学さえ直接には殆ど関わらない(リングレーザージャイロと、レーザー発振ぐらい、かなぁ・・・)モノだから、理論物理学とも最先端の物理学とも、チョイと縁が遠い。
であるあるからして・・・斯様なニュースに接すると、些か面食らってしまう。
【ITmedia News】”最強生物”クマムシ、量子ビットと量子もつれになる絶対零度・高真空に420時間さらされても生還
2021年12月18日 09時00分 公開
[井上輝一,ITmedia]
宇宙空間などの極限環境でも生存できるといわれる微生物「クマムシ」と超電導量子ビットの間に、量子特有の現象である「量子もつれ」を観察した──こんな研究結果を、シンガポールなどの研究チームが論文投稿サイト「arXiv」で12月16日に公開した。量子もつれ状態を作るためにほぼ絶対零度まで冷やされたクマムシは、その後生命活動を再開したという。
基板(Substrate)の上に量子ビットとともに置かれるクマムシ(Tardigrade)(以下、arXivの論文より)
量子もつれは複数の量子による特有の相関で、量子コンピュータの計算アルゴリズムにも重要な役割を果たす。量子的な現象は小さく冷たい物体でなければ観察が難しいことから、生物のような大きく複雑で熱い物体に、量子の性質は現れにくい。研究チームは、量子力学の立役者の一人であるニールス・ボーアが遺した「生物で量子実験を行うのは不可能」という主張に注目し、普通の生物では耐えられない環境でも生き続けるクマムシに白羽の矢を立てた。
研究チームはまず、クマムシを「クリプトビオシス」と呼ばれる無代謝状態にした。2つの超電導量子ビットを用意し、その片方にはコンデンサーの間にクマムシを設置。10mK未満(0.01ケルビン、ほぼ絶対零度)まで冷やし、6×10^-6mbar(1気圧の約10億分の6)という高真空条件にしたところ、2つの量子ビットの間に量子もつれが観察され、クマムシ自体とも量子もつれ状態になったことを示せたという。
量子ビット回路のコンデンサーに挟まるクマムシ
クマムシはほぼ絶対零度かつ高真空条件に420時間さらされたが、その後生命活動を再開した。これまでも、50mK・10~19mbarという極低温・真空環境である地球の衛星軌道から生還した事例はあったが、今回の実験ではこの記録より過酷な環境であってもクマムシが生き残れることが分かったとしている。
絶対零度から生還したクマムシ
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量子もつれ
量子もつれ(りょうしもつれ、英: quantum entanglement)は、一般的に「量子多体系において現れる、古典確率では説明できない相関やそれに関わる現象」を漠然と指す用語である。しかし、量子情報理論においては、より限定的に「LOCC(局所量子操作及び古典通信)で増加しない多体間の相関」を表す用語である。後者は前者のある側面を緻密化したものであるが、捨象された部分も少なくない。例えば典型的な非局所効果であるベルの不等式の破れなどは後者の枠組みにはなじまない。
どちらの意味においても、複合系の状態がそれを構成する個々の部分系の量子状態の積として表せないときにのみ、量子もつれは存在する(逆は必ずしも真ではない)。この複合系の状態をエンタングル状態という。量子もつれは、量子絡み合い(りょうしからみあい)、量子エンタングルメントまたは単にエンタングルメントともよばれる。
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「量子ビット間に量子もつれが観測された」ってのは、未だ判る。
> 2つの量子ビットの間に量子もつれが観察され、
> クマムシ自体とも量子もつれ状態になったことを示せた。
量子ビットってのは、そもそも「量子もつれを起こし、観察するための”仕掛け”」だろうから、「量子もつれが観察される」のは、「予想されるし、理解できる」と思う。
問題は、「クマムシ自体とも量子もつれ状態になった」ってのがどう言う状態で、どう観察されたか、だ。
「量子もつれ」の用語解説に曰く、
> 量子多体系において、2個以上の量子が古典力学では説明できない相関を持つこと。
とあるから、「量子ビットA」と「量子ビットB」と「クマムシの量子」の3体の間に「古典力学では説明できない相関」が、三位一体説宜しく「観察された」ってこと、らしい、の・だ・が・・・
「量子ビット」ってのは、極単純な、極端には「量子1個からなるデバイス」と考えられる(「そんな量子ビットを、どうやって作るか」は別問題だが。)。
だが、クマムシは、微生物とは言え動物で、ウイルスのような「分子生物」と呼びたくなるような単純な作りでは無い、「体長は50マイクロメートルから1.7ミリメートルの微少な動物」とウイキペディアにもある通り、立派な多細胞生物であり・・・細胞も、細胞を構成する分子も、分子を構成する原子も、原子を構成する量子も、「複数」あり、最下位の構成要素である量子は「気の遠くなるほどの数がある」筈だ。
従って「クマムシを構成する量子を観察する」ッたって、その外皮表面に限った(*1)としても、「観察対象となる量子は無数にある」筈だ。その「無数にあるクマムシを構成する量子の中から、幾つかを観察し、量子もつれ状態を確認する」と言うことが、本当に可能とは、一寸俄には信じがたい。
更には、その実験の意図が、かなり怪しい。「ニールス・ボーアが遺した“生物で量子実験を行うのは不可能”という主張に反発した。」のだとしても、それは「非道く子供じみた反応」と思えてしまう。
まあ、ねぇ。「”便器以外は何でも積める”と言われたA-1攻撃機に、本当に便器を積んで出撃し、投下した。」って事例も在るから、相通じる「ノリ」なのかも知れないが、「量子もつれ状態を観察できるような極限状態から、クマムシが生還した」ってことのインパクトに比べたら「クマムシ(の外皮?)の量子に量子もつれ状態が観察できた」って事象は、素人目には「些事としか思えない」・・・と言うより、コレが4月1日のニュースだったら「エイプリルフールのフェイクニュースだろう」と思える所だぞ。
- <注記>
- (*1) 何しろ事後に「生存を確認」するのだから、内部の量子を観察することは、出来なさそうだ。