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時速150マイルでは、亜音速です。ー【乗りものニュース】米新興企業エキソニック 超音速旅客機モデルの風洞試験に成功 次の段階へ
「乗りものニュースのレベルが低い」とは、先行記事「拳銃と機関銃がゴッチャになっている」に頂いたコメント。先行記事で取り上げた乗りものニュース記事は、「零戦の機首7.7mm機銃につけられたプロペラ同調装置」について解説し、その起源である第1次大戦まで遡って説明・・・したは良いが、タイトルにした通り「拳銃と機関銃がゴッチャになっている」ために、第1次大戦戦闘機が「拳銃を付けて空戦」した事にされてしまっていた。拳銃と機関銃の言葉の意味・区別が付いていなかった、らしく、「銃器に対する根源的な知識の欠如」と思われた。
「銃器に対する根源的な知識の欠如」だけならば、軍用機に関する記事には支障を来そうが、民間機に関する記事には支障となるまい、と思っていたのだが・・・
【乗りものニュース】米新興企業エキソニック 超音速旅客機モデルの風洞試験に成功 次の段階へ
米新興企業エキソソニック 超音速旅客機モデルの風洞試験に成功 次の段階へ
5/31(月) 7:20配信
新興企業が開発中の次世代旅客機 風洞試験を完了
エキソソニックが開発中の超音速旅客機(画像:エキソソニック)。
アメリカの新興企業(スタートアップ企業)であるExosonic(エキソソニック)は、2021年5月26日(水)、超音速旅客機のコンセプトモデルについて低速風洞試験を終えたと発表しました。
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試験はアメリカ北部ワシントン州シアトルにあるワシントン大学のキルステン風洞で行われ、8フィート(約2.44m)サイズのスケールモデルが用いられました。試験では時速150マイル(約241.5km)までの速度でテストが行われたといいます。
エキソソニックが開発を進める超音速旅客機のコンセプトは、機内に70席を備え、マッハ1.8での飛行が可能というもので、アメリカ合衆国政府なども興味を示し、超音速飛行が可能な政府高官専用機の研究開発契約を2020年8月下旬にアメリカ空軍などと結んでいます。
乗りものニュース編集部
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「風洞試験に成功」と言うが、失敗は滅多に無かろう
「風洞試験を実施したが、データが取れなかった」とか、「風洞試験中に模型が壊れてしまった」とかなれば「風洞試験失敗」となるが、そんな事は滅多に起きない(様にする)し、仮にそうなってもそれは計測系や風洞模型の問題であり、当該超音速旅客機の機体形状の問題では(直接的には)ない。
「風洞試験を実施したが、得られたデータが予想外に悪かった」、例えば「抵抗がやたらに大きい」とか「揚力が全く出ない」ならば、これも「風洞試験失敗」だろう。前者だと予定した速度が出ないだろうし、後者だとペイロードが減って航続距離や旅客数が減り、ヘタすると離陸も出来なくなる(つまり、飛べなくなる)かも知れない。何れの場合でもこちらは当該超音速旅客機の機体形状の問題であり、機体形状見直しや設計再検討が必要だろう。
そのような事態に至らず、「風洞試験に成功」と報じられている訳だが、疑問は随分と残る。
1> 8フィート(約2.44m)サイズのスケールモデルが用いられました。
2> 試験では時速150マイル(約241.5km)までの速度でテストが行われたといいます。
先ず「8フィート(約2.44m)サイズ」ってのが「全長なのか?全幅なのか?」って疑問がわく。「旅客機」とのことなので「縮尺としては10分の1オーダーだろう」と、当たりは付く。
これに対し(恐らく、風速は)「時速150マイル(約241.5km)までの速度」とのことだから、「スケール速度にすると、”時速1500マイル(約2415km/h)オーダー”と計算出来て、「縮尺としては1/10に近いのかな・・・」などと呑気に考えて居たが、フト気が付いた。
「あれ?マッハ数は??241.5km/hでは、常温なら亜音速(*1)>も良い処だぞ?」
マッハ数というのは、速度を「音速の何倍か」で表した数値。この「マッハ数」が重要なのは、音速=マッハ1付近を境にして「空力特性がドラスティック(急激)に変化する」且つ「空力特性がマッハ数に依存する」から。つまり、音速に近い遷音速(大凡マッハ0.8以上)以上の領域では、「マッハ数○○の空力特性」とか、横軸をマッハ数に取った「空力特性の変化するグラフ」でないと、意味を成さない。従って、遷音速以上で飛行する航空機の風洞試験では、このマッハ数が極めて大事である。大体、風洞設備によって「出せるマッハ数の範囲」は決まっていて、それ故にその範囲によって「超音速風洞」「極超音速風洞」などと呼ばれる。
だが、、上掲記事の風洞試験が行われた風洞は、「ワシントン大学のキルステン風洞」と固有名詞が明記されながら、「○音速風洞」とは記載されていない。
そこはネット時代のありがたさで、検索をかけるとウィキペディアに「ワシントン大学航空研究所(「UWAL」) キルステン風洞 2.44m×3.66m(8ft0in×12ft0in(*2)) 亜音速 米国ワシントン州シアトル」と記載されており、ご丁寧にリンクも張ってある。
リンク先に飛ぶと、当該風洞の紹介(英文)があり、やはり亜音速風洞である事が確認できる。まあ、亜音速なのも道理で、設立実に1936年の大戦間期。ズラリ並んだ風洞試験模型の中には、「これは、第2次大戦中のロッキードP-38ライトニング戦闘機”ペロ8”に違いない」ってのまである、実に「由緒正しき」風洞だ。
つまり、「この超音速旅客機、亜音速の風洞試験を終えただけ」であり、本機が超音速旅客機である以上、精々が「離着陸特性のデータが得られた」だけ。
3> 超音速旅客機のコンセプトモデルについて低速風洞試験を終えたと発表しました。
と言うその発表内容に「嘘偽りはない」だろうし、「超音速旅客機モデルの風洞試験に成功 次の段階へ」という上掲記事の見出しも「嘘とは言いかねる」モノではあるが、少なくとも「随分と誤解を招きそうな見出し」であろう。
而して、冒頭に触れた通り、私(ZERO)の懸念は「当該記事の、誤解を招きそうな見出し」に在るのでは無い。
斯様な記事に、斯様な「誤解を招きそうな見出し」を付けてしまうほど、当該「乗りものニュース記者」が、航空機や空気力学に対する知識を絶望的なまでに欠いているのではないか、と懸念するのである。
その「絶望的なまでの知識の欠如」故に、「エキソニック社の発表」を鵜呑み丸呑みして、そのまま記事にしているのではないか?と懸念しているのである。
有り体に言えば、「超音速旅客機の、亜音速風洞試験が終わった」ぐらいで「成功」というのは図々しいのである。その「図々しさ」を、乗りものニュース記者ならば、知っていて然るべきであろう。
- <注記>
- (*1) 音速は絶対温度の平方根に比例するから、「低温にすれば、音速は下がり、マッハ数は上がる」。
- とは言え、時速150マイルは秒速67m。常温の音速は秒速340mで約5倍だから、秒速67mを音速とするためには、絶対温度を約25分の1とせねばならず、摂氏にしてマイナス約260℃以下という、絶対零度に近い温度が必要で・・・こんな温度で気体である物質は無さそうだ。
- (*2) この風洞(間口)寸法から、「8ft全幅の風洞模型は無理では無いか?)と推測でき、「恐らくは、この模型の全長が8ftなのだろう)」と、当たりが付く。