「違法だぁ!」とすら言えなくなり、「首相答弁の破綻/矛盾」に切り替えたらしい。ー学術会議問題を巡る各紙社説

 まあ、上掲タイトルと、下掲各紙社説タイトルを見れば、私(ZERO)の言わんとするところは、ほぼ自明であろう。

①【朝日社説】学術会議問題 首相答弁の破綻明らか

②【毎日社説】日本学術会議問題 ほころぶ一方の首相答弁

③【沖縄タイムス社説】[学術会議任命拒否]矛盾に満ちた首相答弁

①ー1【朝日社説】学術会議問題 首相答弁の破綻明らか

【朝日社説】学術会議問題 首相答弁の破綻明らか

2020年10月31日 5時00分

 

【1】 疑問にきちんと答えようという姿勢もなければ、理屈も説得力もない。空疎な答弁が繰り返された3日間が終わった。

 

【2】 日本学術会議が推薦した会員候補6人の任命を菅首相が拒否した問題について、国民の代表である議員の問いにどう答えるか。注目された臨時国会の代表質問だったが、首相は用意した紙に書かれたお定まりの「総合的・俯瞰(ふかん)的」などの言葉をただ読み上げるだけで、なぜ拒否したのかという問題の核心から逃げるのに躍起だった。

 

【3】 与党にも苦言を呈され、首相は「多様性が大事だということを念頭に判断した」と言うようになり、国会でもそう述べた。

 

【4】 法律が会員の要件とするのは「優れた研究又(また)は業績」だけだが、多様性が大切だとしても、同じ大学に籍を置き、年齢も近い別の学者は任命されている。拒まれた人との違いはどこにあるのか。6人の中には多様性につながる女性や私大の教授もいる。そうした人材をなぜ排除したか。論理の破綻(はたん)は明らかだ。

 

【5】 学術会議によると、この15年間で、勤務先が関東の会員の比率は63%から51%に、最多の東京大の会員は50人から34人になるなど、多様化は進んでいる。なお不十分だというのなら、それを会議側に指摘して議論すべきなのに、いきなりの任命拒否は暴挙というほかない。

 

【6】 会員は210人と法律で定められており、梶田隆章会長は6人の欠員によって「運営や活動の著しい制約となっている」と語った。6人は全て人文・社会科学の研究者だ。違法状態を作り出し、自身が大切だというバランスを崩し、国民のための活動を阻害していることを、首相はどう考えているのか。

 

【7】 政権側の言い分のほころびは他にもある。首相は、04年に会員の推薦方法が現行制度に変わったとして、拒否を正当化する根拠としてきた。だがその04年改正時に、「会員候補の任命を首相が拒否することは想定されていない」と記した政府の文書があることが分かった。

 

【8】 学術会議の人事への介入は前政権時代の14年ごろに始まり、警察官僚出身の杉田和博官房副長官が一貫して関与してきたとされる。週明けから国会審議の場は一問一答式の予算委員会に移る。首相がまともな答弁ができないなら、杉田氏から直接話を聴く必要がある。与党は「あまり前例がない」と拒むが、前例はあるし、前例踏襲の打破は政権の看板のはずだ。

 

【9】 首相は26日のNHKテレビで「説明できることとできないことがある」と述べた。今回の拒否理由は「説明できること」だし、しなければならない。きわめて重大な問題である。

 

②【毎日社説】日本学術会議問題 ほころぶ一方の首相答弁

毎日新聞2020年11月3日 東京朝刊

 

学術会議任命拒否

 

 

【1】 答弁するほど逆に疑問が深まっていく。菅義偉首相はそんな状況に陥っている。日本学術会議の新会員候補のうち6人を任命しなかった問題である。

 

【2】 内閣発足以来、初の一問一答形式での論戦となったきのうの衆院予算委員会の質疑もそうだった。 再三指摘してきた通り、疑問の核心は、なぜ6人を任命しなかったか、その理由である。

 

【3】 野党側が「6人が安保法制など政府方針に反対したからではないのか」と追及したのは当然だ。

 

【4】 これに対し、首相は「政府に反対したから外すということはあり得ない」と断言した。

 

【5】 ところが「ではなぜ」と重ねて問われると、相変わらず「人事に関することであり、答弁は差し控える」と繰り返すだけだった。これで納得できるはずがない。

 

【6】 首相は先の代表質問で、会員の45%が「旧帝国大学」に所属し、若手も少ないなど会員構成に偏りがあると指摘した。その上で「多様性が大事だということを念頭に私が判断した」と答弁した。

 

【7】 しかし任命しなかった6人の半数は私大に所属し、女性もいる。このため野党側は「首相が言う『多様性』に逆行している」とただしたが、ここでも「個別の人事」を盾に答えなかった。

 

【8】 「政府が行うのは形式的任命に過ぎない」としてきた過去の政府答弁との整合性がとれない点も解消されていない。

 

【9】 政府は2018年に任命拒否を可能とする見解をまとめた。04年に推薦方式が現行の方式に変わったことを受けた見解だという。

 

【10】 ただし、その04年当時も「首相が任命を拒否することは想定されていない」と政府の内部資料に明記されていたことが明らかになっている。

 

【11】 政府の説明はほころぶ一方だと言っていい。

 

【12】 菅首相はNHKのテレビ番組で「説明できることと、できないことがある」と述べた。だが、そもそも説明できないことを政府がすべきではない。

 

【13】 学術会議について、首相は予算委でも「閉鎖的で既得権益のようになっているのではないか」と語り、組織の見直しに言及した。そうした論点のすり替えでは到底切り抜けられない段階に来ている。

 

③【沖縄タイムス社説】[学術会議任命拒否]矛盾に満ちた首相答弁

2020年11月1日 10:33

 

【1】 菅義偉首相が行った初の所信表明演説に対する衆参両院の代表質問が終わった。日本学術会議の会員候補任命拒否を巡り、ようやく首相が国会の場で説明したが、到底納得いくものではなかった。

 

【2】 首相は、学術会議の推薦によるとされる会員任命を「必ず推薦通りに任命しなければならないわけではない」と従来の説明を繰り返した。

 

【3】 加えて、学術会議の会員構成を「旧帝国大学に所属する会員が45%」「民間出身者や若手が少なく偏りがある」などと強調。「多様性を念頭に判断した」と、任命拒否の正当性を主張した。

 

【4】 それなら、なぜ元々少ない女性や私大所属の候補を拒否したのか。拒否された6人の中には会員が1人もいない大学の研究者も含まれ、首相の説明は矛盾に満ちている。

 

【5】 法律の定める会員の選考基準に所属大学や地域性の規定はない。首相が、学術会議に「多様性」が必要と考えたなら、直ちに任命拒否するのでなく推薦の在り方を学術会議と議論すべきだった。

 

【6】 政府は1983年、会員の推薦制度について「政府が行うのは形式的任命」と国会答弁していた。2004年の制度改正の際も、内部文書で「首相が任命を拒否することは想定されていない」と明確に記載している。

 

【7】 首相が従来の法解釈を逸脱して任命拒否したことは明白だ。だが首相は、その理由を最初は「総合的、俯瞰(ふかん)的に」と曖昧に語り、国会では「多様性」を持ち出した。後付けの理由で切り抜けようとしている印象を拭えない。

 

■    ■

 

【8】 首相は26日のNHK番組で、この問題について「説明できることとできないことがある」と述べた。だが任命拒否は学問の自由を侵しかねないほか、首相による違法な権力行使が疑われる問題だ。

 

【9】 政府は一貫して、任命拒否に当たり法解釈を変えておらず従来の立場と齟齬(そご)はないとするが、想定されていなかったことが今回できたのはなぜか。その説明は政府の責任だ。「説明できないこともある」で済ませてはならない。

 

【10】 一方で政府は問題発覚後、国費10億円が投じられていることを理由に会議を行政改革の対象とした。年内に改革の方向性を打ち出すとして検討を加速している。

 

【11】 会議の予算の多くは関係省庁から出向する事務局職員の給与などだ。その運営に問題がないかの検証は必要だが、それと任命拒否は別の問題である。論点のすり替えを許してはならない。

 

■    ■

 

【12】 国会での論戦は、週明けから一問一答形式の予算委員会に舞台を移す。

 

【13】 国民が聞きたいのは、6人の任命を拒否した具体的理由であり、「多様性」といった漠然とした説明ではない。首相としても、この問題で時間を取られるのは本意ではないだろう。

 

【14】 首相は、拒否に深く関与したとされる杉田和博官房副長官も加え、予算委で丁寧に説明すべきだ。任命拒否問題を放置して携帯電話料金引き下げなどの「看板政策」を推し進めても、国民の目をごまかすためとしか映らない。

 

 

抽出 上掲各紙社説における首相答弁の破綻/矛盾

 さて、それでは、上掲各紙社説が仰々しくタイトルに掲げる「管首相国会答弁の破綻/矛盾点」を抽出してみよう。例によって丸数字は新聞社を示し、【】は各社説のパラグラフ番号である。

(1)「多様性が大事」と言いながら、任命拒否された学者には、少数派の私大や女性の学者が居る。①【3】【4】②【6】【7】③【3】【4】

(2)今回任命拒否の根拠とされる04年の法改正の際に、「会員候補の任命を首相が拒否することは想定されていない」と記した政府の文書がある。①【7】②【9】【10】③【6】

(3)「政府が行うのは形式的任命に過ぎない」とした過去の国会答弁と矛盾する。②【8】③【6】


 上記以外にも、管首相国会答弁に対する非難批判として、以下の点があげられている。

<1> 疑問にきちんと答えようという姿勢もなければ、理屈も説得力もない。①【1】

<2> 任命拒否された学者と同じ大学で年齢も近い学者が任命されている。①【4】

<3> 学術会議は多様性向上の努力をしているのに、いきなり任命拒否は暴挙だ。①【5】③【5】

<4> 学術会議は六人の任命拒否で活動に支障があると言っている。この支障は管首相の責任だ。①【6】

<5> 疑惑は更に深まった。②【1】

<6> 「人事に関することであり、答弁は差し控える」との回答には納得できない。②【5】

<7> 学術会議のあり方見直しは、論理のすり替えだ。②【13】③【11】

<8> 6人の任命を拒否した具体的理由を説明しろ。③【13】


が、これらは、矛盾でも破綻でも無い。

 つまり、上掲三紙の社説は、あれこれ長々と管首相及び管政権を批判しているが、各紙社説が仰々しく社説タイトルに取り上げた「管首相国会答弁の破綻/矛盾点」は上記(1)から(3)の三点のみである。なおかつ、学術会議問題の問題化当初から上記(3)は言われていたのであるから、今次国会における管首相の国会答弁によって「露呈した破綻/矛盾点」は上記(1)と(2)だけ、である。

 また、上記(3)については、以前に記事にした所だ。「政府が行うのは形式的任命に過ぎない」と国会答弁したのは、40年も前の話だ。その後、上掲社説にもある通り、学術会議に対する法改正も実施されている。

 この際なので、学術会議に関する本件関連の時系列を羅列すると、以下のようになろう。

[1]戦後程無くのGHQ占領統治下で、学術会議発足。「日本国憲法と同様に、日本弱体化のための装置だ。」とする説に、下記[2]はかなりの説得力を与えよう。

[2]発足翌年「軍事利用を目的とした科学研究は絶対に行わない」声明を発表。以降、3度に渡ってこの声明は確認されることになる。

[3]1983年、学術会議について、「政府が行うのは形式的任命に過ぎない」と、政府国会答弁。

[4]2004に法改正があり、学術会議会員を学術会議が推薦し、首相が任命する法体制となる。この頃に上記(2)の通り、「会員候補の任命を首相が拒否することは想定されていない」と記した政府の文書がある、そうだ。

[5]2015に三度目の「軍事利用を目的とした科学研究は絶対に行わない」声明が、学術会議から出される。

[6]2018に内閣法制局の内部文書に、「首相は学術会議の推薦通りに任命しなければならない、訳では無い」旨が明記される。
 当該法令の条文解釈として、充分な妥当性がある、と私(ZERO)には思われる

[7]2020に、学術会議の推薦した候補者105名中、6名を日本政府が任命拒否。「学術会議問題」勃発


・・・とまあ、こうなる訳、だが。

 先ず先行して触れた上記(3)について、当該国会答弁は上記〔3〕の通り1983年の話。その後上記〔4〕で法改正があって学術会議メンバの選出法が法律上変わっており、その法律についての解釈が上記〔6〕で内閣法制局の内部文書で明示されている。今回の上記〔7〕「実際に、学術会議の推薦メンバを政府が任命拒否した」のは今回が初めてとはいえ、2018以降ならば何時実施した所で、何ら問題も矛盾も齟齬も破綻も無い。

 上記(2)は上記〔4〕2004年の政府文書を今回の処置と矛盾するというのだが、その間に上記〔6〕2018年の内閣法制局内部文書があるのだから、話は繋がっていて、矢張り矛盾も齟齬も破綻も無い。
 上記〔6〕2018年の内閣法制局内部文書国会の審議を経ていないから、違法だ。って暴論も、後に出て来るのだが、法解釈は内閣法制局の職掌の範囲であろうが。法解釈まで立法府の国会が握っては、三権分立は随分と国会重視、否、国会独裁となろうな。
 
 って事は、「管政府国会答弁の破綻/矛盾」と辛うじて言いうるのは上記(1)だけで、「少数派の女性や私大学者が任命拒否されたのは、多様性重視に反する」と言うだけ。性別や大学の経営法なんぞよりも、「学術会議の多様性」ならば、重視すべき要素があろうに。

 例えば、「軍事利用を目的とした科学研究への理解/容認」なんてのはどうだよ。上記の通り学術会議は3度も「軍事利用を目的とした科学研究は絶対に行わない」声明を繰り返しているが、学術会議のメンバで「軍事利用を目的とした科学研究への理解/容認」を表明し公言している者は何名居る?さらには、「軍事利用を目的とした科学研究」を実施実践している者は、何人だ?

 コイツは、学者の性別や大学の経営法なんぞより、余程大事な「多様性」だぞ。
 

ところで、「学問の自由の侵害」って、どうなったの?

 上掲各紙社説がこぞって本「学術会議問題」を学問の自由を脅かす!」と社説に掲げたのは、わずか一月ばかり前だ。弊ブログの先行記事に依らずとも、各紙ともその程度前の社説は未だ公開していよう。(一時期、朝日新聞は当日の社説以外は有料にしていたが、今は違うようだ。)

 ああ、上掲三紙の内、沖縄タイムス社説だけは、辛うじて「学問の自由」に言及していたな。上掲③【パラグラフ】に、

③1>  任命拒否は学問の自由を侵しかねないほか、
③2> 首相による違法な権力行使が疑われる問題だ。


とある。即ち、沖縄タイムスでは、「学術会議委員の任命拒否=学問の自由侵害(の恐れ)」って等式が出来上がっているらしい。それこそ「説明して欲しい」モノであるが、沖縄タイムスは日本政府でも日本国首相でも無いので、いくら「疑惑が深まろう」が、平気の平左なのだろう。