「GDP前四半期7.8%減」を「年27.8%減」とする報道を考え・・・るまでも無いな。暴論だ。


 武漢肺炎禍で、我が国でも緊急事態宣言が出され、種々の経済的悪影響が出ており、それが未だ(少なくとも一部では)継続中である、ってのは、本当だろう。なればこそ、緊急委事態宣言が出された今年4月~6月、今年度第1四半期のGDPが「前四半期に対して7.8%減となった。」というのは、ありそうな事ではある。

 だが、タイトルにも取ったように、「前四半期に対して7.8%減」を「年27.8%減」に「換算」した報道・主張は、「明らかな嘘」と断定・断言して良いぐらいのシロモノだ。その事は、己が「小さな灰色の脳細胞」を使えば、経済学を学んで居らずとも、はたまた私(ZERO)の様な理系人間ならずとも、明々白々な事である。

 従って、GDP年27.8%減」と見出しに大書した下掲朝日社説や、「実質国内総生産(GDP)は年率で27%越えも減り」と明記した下掲毎日社説は、「悪意ある宣伝」と断定断言して良いぐらいなモノである。

 何故ならば・・・と言う「解説」は、左様な「悪意ある宣伝」の、後にしようか。

 
  • 【朝日】4~6月期実質GDP年27.8%減 戦後最大の減少率
  •     https://www.asahi.com/articles/ASN8K2QJDN86ULFA01T.html
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  • 山本知弘
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  • 2020年8月17日 8時58分
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  •  内閣府が17日公表した4~6月期の国内総生産(GDP)の1次速報は、物価変動の影響を除いた実質(季節調整値)で前期(1~3月)より7・8%減り、3四半期連続のマイナス成長になった。このペースが1年間続いたと仮定した年率換算では27・8%減。成長率のマイナス幅は比較可能な1980年以降で最大で、事実上、戦後最悪の落ち込みだ。コロナ危機が国内経済に与えた打撃の大きさが浮き彫りになった。
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  •  3四半期連続の減少は、東日本大震災を挟んだ11年4~6月期以来、9年ぶり。今年4~6月期はコロナ禍の影響が国内でも本格化し、経済活動が急速に縮んだ時期と重なる。GDPの減少率は、コロナの影響が出始めた1~3月期の年率2・5%減から一気に拡大。これまで最大だったリーマン・ショック直後の2009年1~3月期の年率17・8%減も、大きく上回った。
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  •  記録的なマイナスに陥った最大の要因は、GDPの半分以上を占める個人消費が、前期比8・2%減に落ち込んだことだ。国の緊急事態宣言のもとで外出自粛や営業休止が広がり、レジャーや外食をはじめ幅広い分野で支出が抑えられた。下落幅は、消費税率が8%に上がった14年4~6月期の4・8%減を上回り、過去最大だった。
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  •  もう一つの内需の柱である企業の設備投資も、1・5%減で、2四半期ぶりに減少した。事業環境の不透明さから、企業が慎重姿勢を強めたとみられる。住宅投資は0・2%減。内需を構成する項目は総じて振るわなかった。
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  •  一方、輸出も18・5%減と急落した。世界的な景気後退により海外で自動車など日本製品の売れ行きが落ち込んだ。統計上は輸出に区分される訪日外国人客の消費が、渡航制限でほぼゼロになったことも響いた。輸入は0・5%減。輸出から輸入を差し引いた外需も大幅マイナスだった。
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  •  一方、物価変動を反映した名目GDPは前期比7・4%減(年率26・4%減)だった。(山本知弘)
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  •  〈国内総生産(GDP)〉 国内で一定期間内に新たに生み出されたモノやサービスの付加価値の合計額。一国の経済規模を示す指標として重視される。3カ月ごとの速報値を内閣府が公表する。内訳は、個人消費や設備投資、公共投資などの「内需」と、輸出から輸入を差し引いた「外需」にわかれる。GDPの増減率を経済成長率と呼ぶ。国際通貨基金(IMF)によると、名目ベースの2018年の上位3カ国は、米国(20・6兆ドル)、中国(13・4兆ドル)、日本(5・0兆ドル)。
 
  • 【毎日社説】戦後最悪のGDP減少 場当たりでは回復見えぬ
  • 戦後最悪のGDP減少 場当たりでは回復見えぬ
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  •   https://mainichi.jp/articles/20200818/ddm/005/070/097000c
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  • 毎日新聞2020年8月18日 東京朝刊
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  •  4~6月期の実質国内総生産(GDP)は年率で27%超も減り、戦後最悪のマイナス成長を記録した。新型コロナウイルスの感染拡大で深刻な経済状態となった。
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  •  政府の緊急事態宣言の下、外出自粛や店舗休業によって消費が大幅に冷え込んだためだ。世界的な不況で輸出も急減し、日本経済を支える柱が総崩れとなった。
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  •  さらに心配なのは、5月下旬の宣言解除後、経済活動の再開に伴って感染が再び急増していることだ。消費者の警戒感が高まり、持ち直しかけていた百貨店の売り上げが落ち込んでいる。エコノミストの間では、景気は底ばいが続くとの慎重な見方が広がっている。
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  •  停滞が長引くと、経済の基盤である雇用はさらに悪化する。解雇されてはいないが、会社の都合で仕事を休んでいる人は230万人以上もいる。企業が持ちこたえられず、失業が大量に出れば、景気は一段と冷え込む。
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  •  国民に感染への不安が残ったままでは、景気の回復も見えてこない。だが安倍政権は場当たり的な対応に終始している。
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  •  感染が再拡大している中、旅行を喚起するGo Toトラベル事業を7月に前倒しで始めた。一方、大規模イベントの入場制限の緩和は先送りした。お盆の帰省でも政府内で意見が分かれた。
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  •  まず、判断基準を明確にすべきだ。政府は、医療関係者に経済学者らを加えた分科会を7月に発足させている。だが、専門家の知見を十分生かしているようには見えない。
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  •  経済を再開した場合の経済的な効果と感染のリスクをデータで明示することが欠かせない。そのうえで国民が納得できる説明を尽くし、政策のアクセルとブレーキをきちんと踏み分ける必要がある。
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  •  検査と治療の体制を拡充することも急務だ。
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  •  検査を受け持つ保健所などの人手不足の解消に努めなければならない。感染の長期化で病院経営も厳しさを増しており、財政的支援が求められる。ホテルなどで軽症者をより多く受け入れれば、病院の一層の負担軽減につながる。
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  •  感染者の早期発見と受け入れの仕組みをしっかり整える。国民が安心感を抱くことが、経済活動を本格化させる土台となる。


「GDP前四半期7.8%減から、年27.8%減と推算する」のは、暴論である。

 「1年は四半期の4倍だから、年間の減少幅は、四半期減少幅の4倍」という比較的単純な外挿は、かなり荒っぽい話だが、株価のような時々刻々変化する数値に対しては、一つの推定法として成立する。だからこそ「GDP前四半期7.8%減から、年27.8%減と推算する」なんて暴論が、大手を振って罷り通ってしまうのだろう。
 
 だが、GDPは、株価のようなテンポラリーな数字では無い。「年GDP」と言ったら「その年1年間の、その国の富の総和」であり、1年間の累積値である。

 具体的にモデル化して考えてみれば判る。昨年度のGDPを、各四半期100ずつの、合計400だったとしよう。これに対し今年度第1四半期が「前四半期の7.8%減」だったとすると、今年第1四半期のGDPは「92.2」だった訳だ。


 今年度の以降も「同じ幅だけ減少していく」等差数列になるとすると、第2四半期は「84.4」、第3四半期は「76.6」、第4四半期は「68.8」となり、「第4四半期は、1年前の第4四半期に対し31.2%の大幅減少!」となる、訳ではあるが・・・1年間のGDPは、「昨年度の400」に対し、「今年度は322」となり、「年GDPは19.5%減」でしかない。「年GDP2割減少」は、一寸した事ではあるが、「年27.8%減少」よりは、大部マシである。

 コレが「前期比7.8%減少」が続く、等比数列だと考えると、第2四半期は「85」、第3四半期は「78.3」、第4四半期は「72.3」となる。この第4四半期「72.3」が、「1年前の第4四半期に対し27.7%減」となることから、どうも上掲朝日記事の27.8%減&毎日社説の27%越えの減少の「根拠」となったのは、この計算らしい。斯様な計算を「前期比年率」などと言う、実に尤もらしいが、紛らわしい呼び方もあるらしい(*1)が、だが、コレはあくまでも(前述の等差数列と同じく、)「四半期GDPの減少」でしか無い。「年GDP」で言えば、コチラの等比数列だと「327.85」であり、「年GDPは18%減少」となり、当たり前だが「年27.8%減少」よりは、さらにマシである。

 無論、実際の年GDPは、「各四半期に4分の1ずつ生み出される訳では無い」から、上記のモデルも相当に粗いモノではあるが、「前四半期GDPからの減少幅を、4倍して年GDPの減少幅と主張する」のと同等の「年27.8%減少」よりは、遙かにシミュレーションとしてマシなモデルと言えるぞ。

 更に言えば・・・今年度第2四半期、今年7月から9月のGDPが「4月から6月の第1四半期GDPのさらに7.8%減、或いはそれよりも減る」なんて事が、果たして生起しているだろうか?

 或いは、更に後の、第3四半期、第4四半期と「GDPが7.8%以上も減る」と言う事を、予想・予測・予断すべきであろうか?

 「予断は許さない、油断は禁物。」ってのは結構だ。「Go Toトラベルが、予想程の効果を上げていない」なんて懸念材料もあるだろう。
 だが、緊急事態宣言は既に解除され、今年第1四半期よりは消費動向も前向き上向きになりそうだと言うのに、「四半期GDPが前四半期より7.8%以上も減り続ける」という予想・予測・予断に、如何程の意味があろうか?

 言い換えれば、上掲朝日記事や、上掲毎日社説が掲げる年GDP27.8%減」に、「悪意ある宣伝」以上の、如何なる意味があろうか?

 因みに、上掲毎日社説と同趣旨の朝日社説では、「前四半期から7.8%のGDP減少」のみに触れており、「年GDP27.8%減」なんてのは、おくびにも出していない。実に、巧妙であるなぁ。

 コレは、恐らくは、「年GDP27.8%減」と、朝日は記事には明記したが、社説に明記する事は「憚られた」と言う事、では無かろうか。つまりこの数字が「相当に後ろ暗い」事を、朝日自身は承知している、のではなかろうか。

 一方、「実質国内総生産(GDP)は年率で27%越えも減り」と社説に明記公言してしまう毎日新聞ってのは・・・相当なバカか、悪意ある宣伝者、なのだろうな。
 
 ああ、朝日が「悪意ある宣伝車では無い」だと主張する気は、毛頭無いぞ。

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  • <注記>
  • (*1) って事は、こんな「詐欺まがいの外挿」が、少なくともGDPについては「罷り通っている」らしい。