衆院本会議で22日、安倍総理の施政方針演説に対する代表質問が行われ、立憲民主・国民・社保・無所属フォーラムを代表して枝野幸男代表が登壇。(1)「桜を見る会」をめぐる問題(2)「桜を見る会」に関連する公文書管理(3)閣僚等についての問題(4)政権ビジョン(5)経済財政(6)社会保障・教育子育て(7)エネルギー政策の転換(8)外交・安全保障――について取り上げ、安倍総理の見解をただしました。
枝野代表は、日本社会の現状について、超高齢化と人口減少が進むなか、消費増税が引き上げられた一方で老後の不安は高まるばかりであり、第2次安倍政権発足から7年が経過しても、いわゆるトリクルダウンは起こらず、多くの国民の皆さんは豊かさを実感できず、格差が固定化し、明日への希望を見いだせない国民が増えていると指摘。「日本経済の過半を占める個人消費は回復の兆しすら見せず、アベノミクスの限界は明確。総理の施政方針演説は、見たくない現実に目を背けた無責任なものと断じざるを得ない」と指弾しました。
その上で、「しかし私は悲観していません」と続け、私たちの国にある潜在的な力を引き出す新しい道を切り拓くため、安倍政権に代わるもう一つの政権の選択肢を示すと宣言。政権ビジョンとして「『支え合う安心』をつくる」「『豊かさの分かち合い』によって経済を活性化する」「『責任ある充実した政府』を取り戻す」――の3つの柱を挙げ、「社会全体で『支え合う安心』の仕組みを構築することで、老後の不安をなくし、子どもを産み育てたいと望む方々の希望をかなえることが可能な社会をつくる」「偏って存在している豊かさを分かち合うことで、多くの国民がその実感を持てるようにする。それが、可処分所得を実質的に拡大させ、国内消費を伸ばし、GDPの持続的成長につながる最大の経済対策となる。『分配なくして成長なし』。社会状況の変化を踏まえて経済政策を転換し、『豊かさの分かち合い』を進めることで、一人ひとりが豊かさを実感できる社会と、内需が着実に成長する経済を実現する」「『支え合う安心』も、適正公平に『豊かさを分かち合う』ことも、民間だけでは、市場原理では実現できない。昭和の終わり頃から、多くの先進国で『競争を加速することが正義、政府は小さいほど良い』という方向に大きく傾いたが、現状は、『民間でできないことまで民間へ』。背負うべき役割まで放棄した『小さすぎて無責任な政府』になっている。『小さな政府』幻想から脱却し、必要なことには『責任ある充実した政府』を、そして『民間でできないことはしっかりと官が責任を持つ』『まっとうな政治』を取り戻す。もちろん、立憲主義を回復させ、適正な公文書管理と情報公開を進めることは大前提」だと述べました。
枝野代表は、「最大野党の党首の責任として、『支え合う安心』と『豊かさの分かち合い』を実現する『責任ある充実した政府』をもう一つの選択肢として高く掲げる」と表明。立憲民主党はもとより、会派を共にする皆さん、連携協力する他の野党の皆さん、今の社会と政治に不安と不信を抱く多くの有権者の皆さんと、違いを認め合いながら幅広く力を合わせ、政権交代を実現する決意だと述べ、その大きな転換点の向こうに、明るい日本を切り拓くことができると確信すると力を込めました。
枝野代表の質問の全文は以下のとおりです。
2020年1月22日
施政方針演説に対する代表質問
立憲民主・国民・社保・無所属フォーラム 枝野幸男
私は、会派を代表し、私たちが目指す社会について、もう一つの選択肢を示しながら、安倍総理に質問します。
(中略)
4.政権ビジョン
■ 日本社会の現状
超高齢化と人口減少が進む中で、一年間に生まれる子どもの数は90万人を切りました。消費税率が引き上げられたにもかかわらず、医療費の窓口負担を引き上げようとする動きなどが伝えられ、老後の不安は高まるばかりです。
七年が経過しても、いわゆるトリクルダウンは起こらず、多くの皆さんは豊かさを実感できていません。格差が固定化し、明日への希望を見いだせない国民が増えています。日本経済の過半を占める個人消費は回復の兆しすら見せず、アベノミクスの限界は明確です。総理の施政方針演説は、見たくない現実に目を背けた無責任なものと断じざるを得ません。
しかし私は悲観していません。
日本は、戦後復興から高度成長へと人口も経済も急激に拡大してきた昭和の後半から、平成期を挟んで、人口減少社会、成熟経済へと大きく変化しました。その中で、社会状況に合わなくなったにもかかわらず、昭和の成功体験にとらわれ、無理やり引っ張り続けてきた多くのことが、限界に達し、矛盾を露呈してきたのが現状です。
限界が見えてきたからこそ、何をどう変えていくのかが明らかになり、新しい道を切り拓いていくことができます。今、政治を変え、新しい道を切り拓くことができれば、私たちの国には、またまだ潜在的な力があります。
私は、潜在力を引き出す新しい道を切り拓くため、安倍政権に代わるもう一つの政権の選択肢を示します。
■ 支え合う安心
第一に、「支え合う安心」を作ります。
本来、超高齢社会とは、人類が夢見てきた長寿社会にほかなりません。そのこと自体は望ましいことのはずです。ところが、老後の不安が大きくなる一方だから、高齢化社会を後ろ向きに受け止めざるを得ない方が多くなっています。
人口減少は続いていますが、潜在的なものも含めれば、子どもを産み育てたいと望む方々は多く、その希望をかなえることが可能な社会を作れば、一定程度歯止めをかけることができます。
老後も、子育てや教育も、かつては個人や家庭に委ねられていました。しかし、今の日本では、いずれも自分の力だけではどうにもなりません。自己責任に帰すのでは不安が広がるばかり。今こそ、自己責任論から脱却し、社会全体で「支え合う安心」の仕組みを構築しましょう。私は、これこそが、政治の最大の役割であると明確に位置づけ、その役割を担う新しい政権を作ります。
■ 豊かさの分かち合い
第二に、「豊かさの分かち合い」によって経済を活性化します。
バブル崩壊後のGDP国内総生産の成長率は、2018年までの平均で1%未満。昭和の終わり、バブル前の10年と比較すると実質で4分の1、名目では10分の1にもとどきません。施政方針でいくら虚勢を張っても、この基本構造は、アベノミクスの七年間も何ら変わっていません。
その原因は、ひとえに国内でお金が回らないことです。海外との関係で、日本が貧しくなったわけではありません。
同じ期間の輸出の成長率は実質で4.1%、名目でも2.9%。昭和の終わりの10年と比較して6割程度の成長をしています。国際収支も、一時的なマイナスはありますが、黒字基調が続いており、海外との関係では、日本はこの間も豊かさを拡大し続けています。
経済が低迷している主要因は、輸出ではないのです。低下しているとはいえ、今なお日本は一定の国際競争力を持っています。国全体が貧しくなったのではなく、一人ひとりに行き渡らないため、多くの国民が豊かさを実感できず、消費を冷え込ませ経済を低迷させているのです。
国際競争力を維持拡大させるための努力は、今後さらに強化する必要があります。しかし、それと同等以上に、偏って存在している豊かさを分かち合うことで、多くの国民がその実感を持てるようにします。それが、可処分所得を実質的に拡大させ、国内消費を伸ばし、GDPの持続的成長につながる最大の経済対策となります。
また、若年人口が減り続ける中で国際競争力を維持・強化していくためにも、すべての若者が個々の持ち味を発揮できるような「学ぶ機会」を保障します。貧困などによって「学ぶ機会」が奪われている若者を、豊かさの分かち合いによってなくしていきます。
昭和の高度成長期は、「成長するから分配できる」時代でした。しかし、バブル崩壊後の平成期は、大企業が成長して大きな利益を上げても、賃金や下請けなどに分配される部分や国内投資に回る部分が限定され、内部留保が積み重なるばかり。適正な分配がなされないために可処分所得が伸びず、経済の過半を占める内需が成長しないことで、全体としての経済成長の足を引っ張っています。この実態から目を背けても経済の安定的発展はありません。
「分配なくして成長なし。」
私は、社会状況の変化を踏まえて経済政策の根本を転換し、「豊かさの分かち合い」を進めることで、一人ひとりが豊かさを実感できる社会と、内需が着実に成長する経済を実現します。
■ 責任ある充実した政府
第三に、「責任ある充実した政府」を取り戻します。
「支え合う安心」も、適正公平に「豊かさを分かち合う」ことも、民間だけでは、市場原理では実現できません。
昭和の終わりころから、多くの先進国で、「競争を加速することが正義、政府は小さいほど良い」という方向に大きく傾きました。日本では、「民間でできることは民間で」「小さな政府」などという言葉が、絶対的な正義として語られました。
しかし現状は、「民間でできないことまで民間へ」。背負うべき役割まで放棄した「小さすぎて無責任な政府」になっています。
民営化の先で生じた、かんぽ生命の問題。大学入学共通テストの民間丸投げ。公営に限定されてきたギャンブルを民間開放しようとしたカジノ。
さらには、非正規化と定員抑制を進めすぎた挙句、長時間労働が常態化して正規でも希望者が激減し、非正規が集まらなくなっている教職員の世界。常勤職員が不足して大規模災害対応がパンクしている地方自治体。介護サービスの不足や待機児童の問題も、民間だけでは対応できない広い意味での政府の仕事です。
今こそ、「小さな政府」幻想から脱却し、必要なことには「責任ある充実した政府」を、そして「民間でできないことはしっかりと官が責任を持つ」「まっとうな政治」を取り戻します。もちろん、立憲主義を回復させ、適正な公文書管理と情報公開を進めることは大前提です。
■ 決意
私は、最大野党の党首の責任として、「支え合う安心」と「豊かさの分かち合い」を実現する「責任ある充実した政府」をもう一つの選択肢として高く掲げます。そして、立憲民主党はもとより、会派を共にする皆さん、連携協力する他の野党の皆さん、そして、今の社会と政治に不安と不信を抱く多くの有権者の皆さんと、違いを認め合いながら幅広く力を合わせ、政権交代を実現する決意です。
以下、こうした政権ビジョンに基づき、いくつかの重要項目に絞って質問します。
5.経済財政
■ 実質賃金・実質可処分所得
暮らしの豊かさを示す実質賃金指数や実質可処分所得は、2005年ころから2009年ころにかけて急激に低下しました。そして、安倍総理が「悪夢」とおっしゃる時期は、むしろ回復傾向にあったものの、2013年に再び大きく下落して回復の兆しを示していません。安倍政権は、一部には好転させた数字があるものの、一人ひとりの暮らしの真の豊かさについては、これを膨らますどころか、むしろ低下させているのです。
アベノミクス七年。その転換なくして、暮らしの豊かさを取り戻すことはできません。
私たちは、一貫して訴えてきたとおり、まずは第一歩として、政治が直接関与できる低賃金労働者について、合理的な賃金引上げと正規雇用化を図ります。
保育士や介護職員等、第一に公的な資金配分の多寡によって支払いうる賃金に制約がある分野であって、第二に低賃金であるために人員の確保に困難をきたし、第三に需要が大きいにもかかわらず供給が不足している公的サービス分野について、大幅な賃金引き上げを図るべく、資源配分を大胆に転換します。
また、定員削減という美名の下で、必要な人員まで削られ、あるいは非常勤化が極端に進んでいる地方公務員や公立学校教職員、ハローワーク職員や消費生活相談員等の常勤雇用化や定数の適正化によって、特に地方に対する再分配を強化します。
総理は、七年かけても実現できなかった実質賃金や実質可処分所得を増やすことを、どのような手段で、いつごろまでに実現しようとしているのか。具体的にお答えください。
■ 所得税の非累進性
昨年10月、私たちの強い反対を押し切って、消費税が10%へ引き上げられました。消費を冷え込ませ、国民生活をより厳しいところへ追い込んでいます。今、必要なのは、広く薄く負担をお願いすることではなく、適正公平に豊かさを分かち合う仕組みです。
日本の所得税は、累進課税であると言われています。しかし、株式譲渡所得のほか多くの金融所得は分離課税の対象となり、所得税は15%、住民税は5%です。そして、高所得者ほど所得に占める株式譲渡所得等の割合が高いことから、ある段階から、所得税の実質的な負担率は所得が増えるにつれて低下しています。
国税庁の標本調査から試算すると、1億円までは所得が増えるほど所得税の負担率は高くなりますが、これを超えると順次低くなり、所得100億円超では所得2,000万円程度と同じくらいの負担率まで下がります。日本は真の累進課税ではありません。この認識で間違いないか。これで良いと思っているのか。総理にお尋ねします。
私は、株式譲渡所得など金融所得課税を累進化しつつ強化した上で、将来的に総合課税化を目指します。総理の見解を伺います。