令和2年・皇紀二千六百八十年・西暦2020年、明けましておめでとうございます(かなり、遅まきながら)。
弊ブログの記事も年頭
の一発目ぐらいは「幾らかでも縁起の良いモノ」と考え、「干支に因んだ兵器」を記事にするのがしばらく前からの通例になっている。今年は子年で、干支は「ネズミ」だ。
ネズミと言えば、小型の哺乳類で、「小さくてすばしこい」と言うのが、先ず一般的なイメージであり、人との関わりで言うと「主として貯蔵した食糧に対する食害」とか「ペストなどの伝染病の媒介者」とか「壁に穴を開けて天井裏などに棲む」とか、否定的ないし敵対的なイメージを有する。
「否定的なイメージ」は兎も角、「敵対的なイメージ」は、兵器名としては利点となり得る(*1)のだが、「ネズミと呼ばれた兵器」ってのは案外なくらいに無くて、真っ先に思い浮かべるのは第二次大戦のドイツが試作した(量産まではしていない・・・史実では(*2))超重戦車「マウス」ってのがある。
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<注記>
- (*1) デモン(悪魔)とかヴァンパイヤ(吸血鬼)とかヴェノム(蛇毒)なんて戦闘機の名は、その典型例だろう。 後二者はイギリス戦闘機だが、気にしないように。
- (*2) 昔々その昔。第二次大戦に勝利したドイツと日本が中東を巡って激突するって仮想戦ゲームBlack Goldには、「マウス戦車隊」ユニットが登場し、道路に沿ってしか移動できないが、陣地としての防御効果を持つ「歩く陣地」という威力を発揮していた。
- 超大和級戦艦の対地支援砲撃とか、ドイツ対艦ミサイル部隊なんてのも、あったな。
超重量級ネズミ マウス戦車
動物の名前を戦車や装甲車に付けるのはドイツのお得意で、他の国でも事例は結構在るが、「ネズミ」なんて名付けられたのはコイツぐらいだ。それも「ヒトラーの妄想をそのまま具現化したような」重量実に188tと言う、ザックリ言って寸法で当時の戦車の2倍。重量で現代戦車(*1)の4倍近い(*2)。こんな化け物戦車が出来たのは、大火力と重装甲を追求したため。そのため当然ながら機動力は犠牲になったが、それでも路上速度であれ時速20kmで動かしたらしいから、設計者・フェルディナンド・ポルシェ博士のお気に入り(ってぇか、執念ないしトラウマかな?)のなれの果てガスエレクトリック機関(*3)を誉めるべきだろう。
尤も・・・「戦車は、止まったら負けだ!」なんて言葉もあり、第二次大戦劈頭の電撃戦が「火力、機動力を含む戦車の”衝撃力”」で実現したことを思うと、斯様な超重戦車は、「歩くトーチカ」にはなりそうだが、あまり実戦の役には立ちそうに無い。燃料も喰う(*4)しね。
事実、史実では2両だけ製造されて、1両はソ連に鹵獲されて現存するが、もう一両は立ち往生して放棄されている。無論「実戦に投入されて大活躍」なんてのは架空戦記やゲームの中(*5)だけの話だ。
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<注記>
- (*1) 大凡50tと考えて、さほど間違いでは無い。我が国の90式戦車もそれぐらいだ。アメリカのM1だともう少し重いが、大差は無い。
- 10式戦車の軽量高機動性は、かなり例外的なモノだ。
- (*2) 第二次大戦には、重量50tを越える重戦車が、案外あったりする。
- (*3) ガソリンエンジンで発電して、電動モーターを廻して動かす。ガソリンエンジンでは無く、ディーゼル機関で発電して電動モータを回すディーゼルエレクトリックは、通常動力潜水艦では、今でも王道(にして、ポルシェ博士のご執心)だけどねぇ。後は艦船の一部もディーゼルエレクトリックだが、ガスエレクトリックって事例は、他ではてんで覚えが無い。
- 因みに、戦車のエンジンは、現代戦車ではディーゼルエンジンかガスタービンエンジンである。
- (*4) 我が国が大東亜戦争として対米戦に突入しなければならなかった大きな要因が、石油であることを、忘れるべきでは無いな。ドイツの燃料事情も、本質的な差違は無いし、大戦末期の燃料不足は深刻だ。
- (*5) エポック社の国産ゲーム「東部戦線」には、マウス超重戦車小隊が登場する、かも知れないシナリオ「神々の黄昏(ベルリン攻防戦)」があった。サイコロを振って運が良ければ(悪ければ?)マウス小隊が援軍に到着する。
- でも確か、火力は絶大だが覿面に弾薬切れを起こすのじゃぁなかったかな。燃料切れないし擱座は起こさないだけ、史実より遙かにマシだが。
砂漠のネズミ 対 砂漠のキツネ ネズミの勝ち
兵器では無いが、第二次大戦繋がりで言うと、イギリスは第7機甲師団(現在は第7機甲旅団に”格下げ”)がその赤いネズミのシルエットを部隊マークとしたことから「砂漠のネズミ Desert Rats」と呼ばれている。
「砂漠の」なんて形容詞が付くのは、第二次大戦下に「砂漠のキツネ」と呼ばれたロンメル率いるドイツアフリカ軍団と激闘を繰り広げたから、だろう。「キツネ対ネズミ」では、ネズミの方に相当分が悪そうだが、「砂漠の」であることが重要だったのでは無いかな。
後はイギリス人のことだから、「紅茶さえあれば、ネズミでキツネに勝てる!」ぐらいは言い出しそうだ。事実・史実として「勝って」居るしな。(紅茶のお陰かどうかは知らないが。)
空対空新兵器、の筈だった。
一方、アメリカの2.75インチ(70mm)Mk4 FFAR航空機搭載ロケット弾は、「マイティマウス」の仇名で呼ばれた。
ウィキペディアからMk4 FFAR マイティマウスロケット弾
第二次大戦後間もない亜音速ジェット戦闘機の頃に、「高速化した航空機同士の空戦に、機銃では最早効果的では無いが、ミサイルも未だ(全く)信用できない」頃の対空兵器として開発・配備された。一般的にロケット弾の有効射程は機関銃よりも大きく、短時間に大火力を投射するのにも向いているから、第二次大戦中もドイツ軍が連合軍爆撃機迎撃にロケット弾を使用し、相応の成果をあげている。
第二次大戦後間もない亜音速ジェット戦闘機の頃に、「高速化した航空機同士の空戦に、機銃では最早効果的では無いが、ミサイルも未だ(全く)信用できない」頃の対空兵器として開発・配備された。一般的にロケット弾の有効射程は機関銃よりも大きく、短時間に大火力を投射するのにも向いているから、第二次大戦中もドイツ軍が連合軍爆撃機迎撃にロケット弾を使用し、相応の成果をあげている。
我が国でも、以前「犬と呼ばれた兵器 https://ameblo.jp/zero21tiger/entry-12472589575.html 」で紹介したFー86Dセイバードックの搭載兵器として、マイティマウスロケット弾が航空自衛隊に配備された実績がある(*1)。
因みに「マイティマウス」ってのは、ネズミの種類では無く、スーパーマンとミッキーマウス(と言うよりは、「トムとジェリー」のジェリーかな)を足して2で割ったようなアニメの主人公の名前だそうだから、「強そうな名前」ではある。一応。
尤も、対空兵器として開発され、配備されたマイティマウスロケット弾ではあるが、対地攻撃に使用された実績ばかりなのは、マイティマウスロケット弾が想定していたような「密集編隊組んで飛んでくる敵爆撃機を米軍(とは限らないが、西側陣営国軍)戦闘機が迎撃する」という状況が第二次大戦後殆ど発生していない事と、無縁では無い。
つまり、「開発時に想定された状況は生起しなかったが、それ以外の状況に相応の働きを見せた」のが、マイティマウスロケット弾であり、兵器としては一定の成功を収めた、と言えよう・・・マウス重戦車と違って。
しかしながら、まあ見た目のインパクトも絶大なマウス重戦車は、架空戦やらゲームやらで、マイティマウスロケット弾よりも、「砂漠のネズミ」英第7機甲師団/旅団よりも、大人気であり、何を隠そう私(ZERO)もWorld of Tanksってゲームにマウス重戦車を持っていたりする。
三つ並べた「ネズミと呼ばれた兵器」の内、最も「実際のネズミとはかけ離れている」のがマウス重戦車であることには、異論も少なそうだが、その「最もネズミらしくないネズミと呼ばれた兵器が、最も有名である(多分)」という逆説は、「ネズミと言えども、ステレオタイプに考えるべきではない」という教訓ではなかろうか・・・・と、年頭一発目の記事だから、それらしく「しめて」おこう。
今年が我が国にとって、良い年でありますように。(*2)
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<注記>
- (*1) また、ウイキペディアによれば、戦後第2世代の超音速戦闘機F-104Jにも搭載され、我が国でも配備されたそうだ。
- (*2) 願いはするが、期待は出来ないし、期待すべきではないが。
- Prabellum! 戦いに備えよ。