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⑤ドイツは失敗したか<5> 染みだした核のごみ
2014年4月15日
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2014041502000165.html
【1】 北西部ニーダーザクセン州のアッセという町を訪れた。丘の中腹に「A」という大きな文字が描かれていた。「Aufpassen(注意しろ)のAですよ」。核廃棄物処分場建設に反対する住民運動のリーダー、ペーター・ディッケルさんが言う。

【2】 そこは、岩塩の廃坑跡だ。

【3】 地下七百五十メートルの空洞に一九六七年から十一年間、中低レベルの核廃棄物を詰めた約十三万個のドラム缶が研究名目で投入された。

【4】 問題が明らかになったのは八八年のことだった。一日一万二千リットルの地下水が浸出し、崩壊の恐れがあるという。二〇〇八年には浸出水からセシウムなどの放射性物質が検出された。

【5】 ドイツでも、使用済み核燃料の処分は悩みの種だ。

【6】 高レベル放射性廃棄物の最終処分場は、同じニーダーザクセン州にあるゴアレーベンの岩塩層が有力だった。だが、アッセのような地下水の浸出などを心配する住民の反対運動が強くなり、連邦政府は三年前、白紙撤回を決めた。

【7】 ところが、昨年末の大連立政権発足時に交わされた百八十ページの協定書には、わずか十五行だが、処分場選定についての記述がある。その中に「ゴアレーベンを視野に入れて」と明記されている。

【8】 最終処分場は、新たにつくる委員会であらためて選定される。

【9】 しかし、ディッケルさんは「政府の方針を追認するための形式的な委員会になってしまう」と不安を抱く。廃棄物の種類や性質、処分量などと地質を突き合わせ、科学的知見を積み上げながら候補地を絞り込んでいくべきなのだ。

【10】 決定までの道のりは、決して平たんなものではない。

【11】 ただドイツでは「二二年に原発ゼロ」を決めており、処分量は確定できる。放射線防護庁の試算では、高レベルが三万立方メートル、中低が三十万立方メートルになるという。

【12】 日本政府は原発回帰をめざす。核のごみを増やし続けるということだ。処分場選定にドイツ以上の困難があることは、想像に難くない。 
(論説委員・飯尾歩)

 
 
⑥ドイツは失敗したか<6> 脱原発という合理主義
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2014041602000161.html
2014年4月16日
【1】 二〇〇九年に発効した改定欧州憲法とも言われるリスボン条約は、エネルギーに関するルール(一九四条)を初めて規定した。

【2】 「どんな電源をどう使うかは、加盟国の選択に委ねる」というのが、その趣旨だ。

【3】 二二年までに原発をゼロにすると決めたドイツは欧州連合(EU)内でも少数派に属し、隣のオーストリアとともに「孤独な戦い」と評されることもある。オーストリアは去年、原発による電力も一切輸入しないと宣言した。

【4】 ドイツは日本と同じ、資源小国、そして輸出大国だ。だが日本と違い、原発への回帰は、もうあり得ないと、誰もが言う。

【5】 日本では、脱原発が原発立地地域の雇用を奪うと不安視されている。向こうでは、むしろ多くの自治体が、再生可能エネルギーを地域振興の柱に据えている。

【6】 今のところ、ドイツの脱原発が抱える最大の課題は送電線の拡充だ。風力が豊かな北の海から、自動車産業など製造業の集積がある南部に向けて“電力のアウトバーン(高速道路)”と呼ばれる送電網を築く必要がある。ところが、これがなかなかはかどらない。

【7】 高圧線の敷設による景観阻害や地価の下落、健康への影響などを心配し、反対を唱える人が少なくないからだ。脱原発には賛成だし、送電線が必要なのもよく分かる。しかし「ノット・イン・マイ・バックヤード(わが家の裏庭はだめだ)」なのである。

【8】 脱原発は、かの国に特有の環境ロマン主義の産物とは言い切れないようである。ならばなぜ「孤独な戦い」に挑むのか。

【9】 社会民主党(SPD)のジョー・ライネン欧州議員は言った。

【10】 「私たちは二十一世紀の世界が求めるものを先取りし、新時代の輸出産業を育てています」

【11】 再生可能エネルギーは時代の要請だ。ドイツは先頭走者をめざしている。その挑戦は「原発ゼロ」にとどまらない。温暖化対策とは両輪で、省エネと技術革新による社会基盤の変革、そして産業革命や新たな輸出戦略の構築にまで及ぶ壮大な構想に違いない。

【12】 ドイツは失敗したか。答えはノーだ。環境合理主義を奉じて着実に前へ進んでいる。

 (論説委員・飯尾歩)=おわり

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