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「貧すりゃ鈍す」と言う。生活にも困るような=「貧する」状態になればなるほど、判断力は鈍り=「鈍し」、「利口な人でも馬鹿になる」と言う喩。例えば、石油の禁輸が直接的に開戦理由となった大東亜戦争に於ける我が国にとって「燃料問題」は文字通り死活問題であり、為に「海水を石油に変える」なんてインチキに帝国海軍上層部が相応の期待をかけた=モノの美事に騙されたって話がある(*1)。
だが、どうもNewsweek誌や米海軍( の一部 )もまた、「帝国海軍上層部級の愚行」を繰り返している様だ。
<注釈>
(*1) 可なりうろ覚え。その「騙された海軍上層部のトップが山本五十六」って話を書いて居たのは、阿川博之、だったかなぁ。
【NW誌】米海軍の「海水燃料」がもたらす大変革
Goodbye, Oil
http://www.newsweekjapan.jp/stories/us/2014/04/post-3242.php
海水から作る画期的な新エネルギー技術は将来、米軍艦隊の石油依存と兵站の問題
を解決しそうだ
2014年4月9日(水)16時07分
クリストファー・ハーレッス
ゲームチェンジャー 原子力空母ジョージ・ワシントンが「海水燃料空母」に変わる日も近い? Reuters
【1】 米海軍の科学者たちは数十年の歳月を経て、ついに世界で最も難解な挑戦の1つを解決したかもしれない。それは、海水を燃料に変えることだ。
【2】 液化炭化水素燃料の開発によって米軍は、将来の石油燃料への依存を軽減する可能性を持ち、「大変革をもたらすもの」として歓迎されている。そうなれば、軍艦は自ら燃料を作りだし、海上で燃料補給する必要がなくなり、常に100%の状態で任務に当たることが可能になる。
【3】 米海軍研究試験所によれば、新しい燃料は当初、1ガロン(約3.8リットル)当たり3~6ドルほどのコストがかかると見られている。同試験所はすでに模型飛行機の飛行実験を済ませている。
【4】 海軍が所有する288の艦船は、核燃料で推進するいくつかの航空母艦と72の潜水艦を除き石油に頼っている。この石油依存を解消できれば、石油不足や価格の変動から軍は解放される。
【5】「非常に画期的だ」と、海軍中将のフィリップ・カロムは言う。「われわれはかなり難しい時期におり、エネルギーを生み出す新たな方法と、いかにエネルギーを評価し消費するかに関する方法の革新に迫られている。安価な石油を無制限に消費できた過去60年のようにはいかない」
次の課題は大量生産
【6】 今回の革新的な進歩は、科学者が、海水から二酸化炭素と水素ガスを抽出する方法を開発したことで実現した。ガスは、触媒式排出ガス浄化装置を使って液体にする過程で燃料に変えられる。
【7】「海軍の挑戦はかなり変わっていてユニークなものだ」と、カロムは言う。「燃料を補給するのにガソリンスタンドに行くわけではない。ガソリンスタンドである補給艦が私たちの所に来る。海水を燃料に変える画期的な技術は、兵站のあり方を大きく変えるものだ」
炭素は何処から湧いて来た??
さて、如何だろうか。
「海水から燃料を作り出す」話と言うのは、「まことしやか」な話で、Jane Deffence Weekly誌あたりにも同様な記事があった様だ。そりゃ海水の上を走るのが海軍だ。その海水が燃料に変わるならば、帆走船から汽走船への転換以来の一大革命ではあろう。その点、上掲NW誌や前述JDW誌の指摘する「海水燃料は兵站上の一大革命」と言うのは正しい。
無論、「海水から燃料を作り出せる」事が出来れば、の話だ。
1> 米海軍研究試験所によれば、
2> 新しい燃料は当初、1ガロン(約3.8リットル)当たり3~6ドルほどのコストがかかると見られている。
3> 同試験所はすでに模型飛行機の飛行実験を済ませている。
2> 新しい燃料は当初、1ガロン(約3.8リットル)当たり3~6ドルほどのコストがかかると見られている。
3> 同試験所はすでに模型飛行機の飛行実験を済ませている。
4> 今回の革新的な進歩は、科学者が、海水から二酸化炭素と水素ガスを抽出する方法を開発したことで実現した。
5> ガスは、触媒式排出ガス浄化装置を使って液体にする過程で燃料に変えられる。
5> ガスは、触媒式排出ガス浄化装置を使って液体にする過程で燃料に変えられる。
と、上掲NW誌は報じ、「実験室レベルでは実証されていて、後は量産技術と量産コストだけの問題」と言わんばかりである。
敢えて断言しよう。大嘘・大法螺に違いない。
確かに、以前当ブログで取り上げた「阿久津エコサイクル」なる変わり水車に騙された産経記事や(*1)、「重力を利用した永久機関」を唱える他ブログ記事(*2)程には「明々白々な嘘・法螺」では無いかも知れない。
だが、海水と言うモノは主成分が水であり、そこに塩やらあれこれやらが溶け込んだ「水溶液」でしかない事から、「燃料を作り出す」なんてのは「並大抵の事では無い」と、定量的に考えるまでも無く明白だ。
事実、一寸ネットを探れば「海水組成」なんてのは忽ち知れて(*3)、「水分が96.5~97% 塩分が3.5~3%」とも判れば、その「3.5~3%の塩分」の大半78%が塩化ナトリウムNaClである事も知れる。更には、元素ごとの組成表も苦も無く判明する。無論、先述の通りの分子毎組成だから、圧倒的なのは水素と酸素で、http://www.littlewaves.info/marine/kw_seaelement.htm によれば炭素は27㎎/kg。海水1㎏当たり0.027gしか含まれていない。
ところが、上掲NW誌記事上記4〉~5〉は、「海水から二酸化炭素と水素ガスを抽出する方法を開発した」と主張している。二酸化炭素と水素が「炭化水素燃料の主成分」なのは確かであり、重油も経由も石油も「炭化水素燃料」である。これが事実ならば「海水から炭化水素燃料を作り出す(少なくとも)第一歩」とは言い得よう。だが・・・二酸化炭素CO2の分子量は44。44グラムの二酸化炭素は12グラムの炭素を含むから、上記組成からすると約520㎏の海水が必要という事になる。即ち、
「約半トンの海水を処理して、そこに含有される全炭素を二酸化炭素として抽出出来れば、44gの二酸化炭素を得られる」という事である。
上記2〉で言う「1ガロンの燃料」を、最も単純な炭化水素燃料・メチルアルコールCH3OHと仮定すると、比重0.79から「1ガロンは約3.0㎏」である。メチルアルコールの分子量は32だから、炭素は「約3.0㎏のメチルアルコール中に12/32で「約1.1㎏」入っている。これだけの炭素を得るには、上記組成に従えば、
1.1×10^3g ÷( 27×10^-3 g/kg )=0.042×10^6 kg = 4.2×10^4kg
となるから、「1ガロンのメチルアルコールを得るためには、約42tの海水を処理し、そこに含有される全炭素を利用出来なければならない。」。全炭素を利用できず、炭素利用効率が落ちれば、さらに必要な海水処理量は増える。上記5〉で言う「触媒式排出ガス浄化装置」とやらが外部電力や熱源/冷熱源を殆ど必要としないような「魔法の機械」だとしても、戦車1両分に匹敵する海水を汲み上げ、供給してやらねばならない。その上で、発生した二酸化炭素を、アルコールなり軽油なりの炭化水素燃料に合成してやらないと、少なくとも従来の機関では燃料に適さない。その「少なくとも40t以上の海水処理と燃料合成」を上記2〉「3~6ドルほどのコスト」で実現する…法螺話でなかったら、吃驚仰天だ。
上記4〉で言う「海水から抽出した水素ガス」を燃料にする方が、未だしも容易だろう。その程度ならば、上記3〉「模型飛行機の飛翔」ぐらいは実験室レベルでどうにでもなる。コストやエネルギー効率を度外視(*4)すれば、「海水を電気分解しても水素は得られる」のだから。
但し、水素燃料で艦艇を動かすには、新たな機関と貯蔵システムが必要になる。特に、貯蔵システムは難題だろうな。
その「水素燃料貯蔵の大問題」を回避するために、「海水から二酸化炭素(と水素)を抽出するシステムを作り、さらには炭化水素燃料を合成することを目指す」と言う方針ならば、「あり得る話」かも知れない。だが、上掲NW誌記事は、後段の「炭化水素燃料合成」課程を極めて軽視ないし楽観視している様だ。
A.C.クラークのSF小説(*5)には、「海水から抽出した金の延べ棒」を見せる男の話がある。「海水のウラン含有量は、金よりも高い」と焚き付けておいて…まあ、オチは言わないのが作品と作者への敬意だが、米海軍やNW誌にも「同じようなオチ」が付いてしまうのではないか?
<注釈>
(*2) 記憶はあるが、タイトルからして忘れた(*4) 「海水を電気分解して得られた水素」を燃やしてエネルギーを得ても、そのエネルギー量は「海水を電気分解するのに必要なエネルギー量」より少ない。従って、「原子力機関で発電した電気で海水を電気分解して水素を作り、その水素で原子力機関では無い艦艇を動かす」と言う構想ならば、成り立ちそうだ。この場合は「海水から得られる水素」が重要であり、「海水から二酸化炭素と水素ガスを抽出する方法」は「水素ガスを取り出す効率が高い」事が主眼となる。(*5) 「海を耕した男」だったと思うが、確信が無い。