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取材目的には適っていようが、非論理的だ

 さて、如何だろうか。
 
 上掲記事は、先行WSJ紙記事「国連科学委議長に聞く」に対する「リターンマッチ」の格好となっている。何しろ先行WSJ紙記事では「福島原発事故による低レベル放射線の影響は、あるだろうが、検出できないだろう。それぐらい微小な影響だ。」と明言する国連科学委議長に対し、「何とか悪影響は問題だと言わせたい」と言う意図に基づいて(*1)インタビューしたが、全く歯が立たずに意図する様な回答を得られずに記事の見出しを扇動的にする事でお茶を濁した(*2)のだから、リターンマッチもしたくなろうと言うモノだ。つまりは少なくとも先行WSJ紙記事が「不本意な記事であった」と言う自覚は肥田美佐子記者にはあるらしい。
 
 そのためもあろうか「国連科学委員会(UNSCEAR)のFukushima Report(福島報告書)」の特に先行する中間報告に対する非難批判疑義で埋まっているその非難理由を抽出すれば、以下の様になろう。  【】はパラグラフ番号 ()は情報源
 
① 子供のガン・白血病・先天性異常は、単なる統計学的な数字ではない【2】【3】(ラコー氏 PSR元代表)
 
② 真の放射線被ばく量を正確に示しておらず、現在も続いている放射線の放出を無視し、がん以外の影響を考慮していない【7】(PSR IPPNW)
 
③ 東電による原発作業員の線量評価や報告書の情報源の中立性に疑問【8】(PSR IPPNW)
 
④ がん以外の病気や放射線の遺伝的影響もモニタリングする必要がある【8】(PSR IPPNW)
 
⑤ 放射性ヨウ素133(半減期約20時間)が作業員の線量推計に反映されていないなどとして、作業員の内部被ばく線量が2割ほど過小評価されている可能性  【11】(UNSCEAR)
 
⑥ 『放射線によって引き起こされるがんと他のがんは見分けがつかないため、福島の場合も、被ばくに起因しうると認められるがん発症の増加は予想されない』などというのは、典型的なトートロジーだ【14】(ラコー氏)
 
⑦ 文部科学省のダストサンプリングの測定結果では、ヨウ素132を高レベルで検出しながら、通常は一緒に検出されるテルル132が検出されていないから、信用できない 【21】(ラコー氏)
 
  PSR:「社会的責任を果たすための医師団」 IPPNW:「核戦争防止を目指す国際医師団」
 
 以上の通り、「国連科学委員 福島報告書 中間報告」に対する批判理由の大半は、PSR元代表ラコー氏とPSR&IPPNW(*3)による「報告書に対する論評」に依っている。つまりは先行記事の国連科学委議長インタビューや、さらに先行する科学者によるインタビューでは果たせなかった「国連科学委員福島報告書 中間報告 に対する批判」が漸く本記事で実現した訳であり、タイトルにもした通り「取材目的にかなった取材対象を"発見"」した訳である。但し、上記⑤国連科学委員UNSCEARが自ら認めたミスであり、今後発行される最終報告には当然盛り込まれる「正当な批判」と言えよう。
 
 だが、それ以外の批判理由はと言うと…例えば上記⑥は、先行WSJ紙記事なり当ブログ記事なりを読まれれば直ちに判明するだろうが「トートロジーと言う非難」は「濡れ衣」だ。『放射線によって引き起こされるがんと他のがんは見分けがつかないため、福島の場合も、被ばくに起因しうると認められるがん発症の増加は予想されないなどと国連科学委議長は主張していない。先行WSJ紙記事で国連科学委議長が、さらに先行記事で別の科学者が「福島原発事故後の被ばくによるがん発症リスクの増加は証明できない」としたのは、「その影響が極めて小さく、原発事故による放射線の影響が無い状態でのがん発生率等に対し有意な差を生じないだろう」から。原発事故なんかなくてもがんや白血病で死ぬ人はいるし、先天性異常で生まれる赤ん坊も居る。原発なんぞ無かった頃から白血病もガンも先天性異常もあるのだから、考えるまでも無く当たり前の話だ。
 
 ④は今後のモニタリングの提言でしかない。「批判理由」としたのは私(ZERO)の「勇み足」と言えよう。
 
 ③「データの中立性」は先行WSJ紙記事で直接肥田美佐子記者も問い質した処。問い質した結果は日本からのデータのみに頼らず、他のデータも活用している」で一蹴された。贔屓目に見た処で、「データの一部に疑義がある」と言うだけだ。
 
 、③や⑤の事を含んではいるのだろうが、「現在も続いている放射線の放出を無視」と言うのが、何を言っているのかサッパリ判らない仮に福島原発から盛大に放射性物質が現在も撒き散らされていると考えたとしても、それは「福島原発周辺への帰還が困難になる」だけであって、がんや白血病や先天性異常の発生に関係するのは、その対象たる住民の周囲の放射線環境である。その今後は予想値ではあろうが、現状は実測値であろう。「現在も続いている放射線の放出を無視」なんて、出来そうにない。
 
 ⑦は、③と同様であろう。「テルル132を検出しながら隠蔽した」と言う可能性を示唆するモノの、テルルとヨウ素の物性の差等から極端な分布の偏りが生じる可能性は在りそうだし、「テルル132の検出だけ隠蔽する」目的が日本政府なり東電なりにあるとも考えにくい。やはり、贔屓目に見た処で、「データの一部に疑義がある」と言うだけだ。
 
 で、一番とんでもないのが①ケネディ大統領演説の引用である。

 ガンも白血病も先天性異常も、そりゃ当人や家族、周囲の者にとっては大問題だ。それは古今東西変わる処は無いし、「単なる統計上の数字でもない」と言う点には私(ZERO)も同意する。

 だが、先述の通りガンも白血病も先天性異常も、福島原発事故があろうがなかろうが、原発なんてこの世に無かった頃から厳然としてこの世にあり、賭けても良いがこの世からすべての原発が無くなったとしても存在し続けるものだろう。従って「ガン・白血病・先天性異常」にせよ、他のいかなる事象にせよ、「福島原発事故による影響」を受けたか否かは、「統計上の数字」でしか出て来ない例えば、「福島原発周辺住民の原発事故後のがん発生率が、原発事故以前の百倍になった」としたら、これは「福島原発事故の影響」と考えるのが至当であろう。それでも発生した百例のガンの内一例は「福島原発事故が無くても発生したであろうガン」であり、「その一例が誰か」なんて統計からは出て来ない。逆に「どの九十九例が福島原発事故の影響で増えたガン」かも特定は出来ない。冷たく聞こえるかもしれないが、それが正しい学者の態度と言うモノだ。
 
 逆に上掲記事にあるようにラコー氏の主張は俗耳に入り易かろう。「統計よりも人権重視する」なんて殺し文句まで上掲記事にはある。
 
 だが、福島原発事故にせよ、他のいかなる事象にせよ、「放射線による人体への影響」を計測し、評価するのは、科学であって政治では無い。従って重視すべきなのは統計であるし、統計を重視したとて「人権を無視した」事にはならない。
 
 さはさりながら・・・
 
 3本目の「国連科学委員 福島報告書 中間報告」関連記事にして、漸く御眼鏡に適う=取材目的に適う 取材対象に巡り合えたらしいな、肥田美佐子記者。書きたい記事がかけて、当人はさぞやご満悦であろう。
 
 だが、それは、本当に、真に、ジャーナリストのあるべき姿なのか?
 
 取材対象の現実が、当初定めた取材目的と乖離して居たら、取材目的を見直すべきでは無いのかね。
 科学者ならば、真の科学者ならば、事象に合わせて論理を変更するのだが、ね。まあジャーナリストは、科学者ではないがな。
 
 如何に、肥田美佐子記者。

 

<注釈>

 
(*1) と、私(ZERO)には思われる。先行記事参照 http://blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/38377002.html   
(*2) と、私(ZERO)には思われる。 
 
(*3) どうでも良いけど「核戦争防止を目指す国際医師団」ってのは思いきり胡散臭い団体名だな。「核戦争を阻止する」ったって、どことどこの核戦争をどう阻止するのか判らないし、福島原発事故との関係は更に不明だ。
 ああ、福島原発事故を契機に日本を「脱原発」にさせられれば、「日本の核武装阻止」には大いに役立とうな。つまりは「日本発の核戦争を阻止する」ための活動を、今回行っていると考えれば、筋は通る。
 だが、そうすると、「福島原発事故の影響評価に対する中立性」は、非常に怪しくなるな。
 ああ、だから肥田美佐子は取材対象に選んだのか。納得。