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WSJ紙ことWall Street Journal紙と言えば、発行部数米国一を誇るアメリカの日刊紙。とは言えその記事には疑義どころか大いに異議あるモノもある事は「WSJ+日本人女性記者」シリーズ(*1)等にも縷々述べている処だが、一方で評価できる/同意できる記事が掲載される(*2)、事もある。
今回は、後者の方だ。どうも此処の処、エネルギー問題/原発問題でのWSJ紙のヒット率」が高い様だな。
<注釈>
(*1) くどい様だが、ハナはシリーズ化する心算なんか全く無かったんだが。(*2) やるじゃないか、WSJ など【WSJ社説】新たな暗黒大陸─再生可能エネルギー政策で失敗する欧州
http://jp.wsj.com/article/SB10001424052702304134704579138693534116718.html
オバマ政権が米国を再生可能エネルギーの夢の境地へと向かわせる前に、欧州ではどんな様子になっているのか調査したほうがいいかもしれない。二酸化炭素の排出を伴うエネルギー源を風力や太陽光などと置き換えるという夢の実現に、欧州大陸は米国よりはるかに近づいている。そして、その夢は悪夢の様相を呈し始めている。
. 欧州の電力会社大手10社の最高経営責任者(CEO)は先週、ついに白旗を掲げ、(商売敵の)風力・太陽光発電への助成金の中止を訴えた。これは問題外としても、彼らは自らの助成金がほしいのだ。彼らは本質的に、電力を作ることなく、収入がほしいのだ。
すべての根っこにあるのは、欧州大陸のいわゆる再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)だ。これは1990年にドイツで始まった。固定価格買い取り制度は太陽光や風力による発電設備で作られた電気を一定価格で買い取ることを電力会社に義務づける制度で、買い取り価格は通常、市場価格を上回る。また他の方法で作り出された電力より優先され、風力や太陽光で発電された電気は真っ先に買い取らなければならない。
電力会社にこうした電気を買い取らせる──消費者には自腹を切らせる──ことによって、ドイツは総容量に対する再生可能エネルギーの比率を25%まで引き上げた。ドイツはこの割合を2020年までに35%、50年までには80%にしたい意向だ。ドイツほど野心的な国は欧州には他にない。しかし、欧州連合(EU)が大陸全体で目標とする再生可能エネルギーの割合もまた、20年までに20%にすることだ。
これらの風力・太陽光発電への助成金はこの4年間で欧州のエネルギーコストを消費者に対しては17%、電力産業には21%それぞれ上昇させた。しかし、これよりもっと脅威なのは、こういった指令が電力企業にもたらしている大混乱だ。特に石炭による火力発電や原子力発電といった旧式の発電所は伝統的に「ベースロード基底負荷)」と呼ばれる電力を供給してきた。冷蔵庫や信号機など、現代の経済活動に年中必要な電力のことだ。これは消費者がまず使う電気だった。欧州が再生可能エネルギーに熱狂するまでは。
問題は、ある特定の瞬間に再生可能エネルギーがどれだけ生産可能なのか誰にもわからないことだ。太陽電池パネルを屋根に搭載したガソリン車を持っていると想像してほしい。必要なときに太陽エネルギーを使えるのではなく、それが供給可能なときにはいつでもエンジン出力に追加できるようになっている。
つまり、高速道路を時速60マイル(約97キロ)で走行している際に太陽が顔を出すと、アクセルから足を離さない限り、突然、車が80マイルで走りだすことになる。では、こういったエネルギーで経済全体の運営を試みていると想像してほし い。ただし、天候が変わる度にエンジンのスロットルを調整するのに何時間も何日もかかることを除いてだが。
電力会社は、かつては予測可能だった電力需要が、天候と全く同様に予測不可能な需要に取って代わられたことを経験してきた。天候が悪ければ、照明を維持するために発電量を増やす必要がある。しかし、再生可能エネルギーの優先順位が高いため、先を越される可能性に留意しなければならない。電力会社は依然として、高い固定費と資本ニーズを抱えている。だが、再生可能エネルギーの特権的な立場のせいで、電力需要は風とともに増えたり減ったりするのだ。
英エコノミスト誌によると、これらすべてが成長の足かせとなっており、この5年間で欧州の電力会社の時価総額を55%縮小させた。方針の変更を先週発表した電力 会社のトップは、国が後見人になっているため、事業を続けることに満足している かもしれない。風力や太陽光発電が不足したときに、その不足を補うために──納税 者の負担で──待機するという立場だ。
しかし、これでは消費者と納税者は割に合わない。FITと再生可能エネルギーの強 制的な買い取りを止めれば、エネルギー価格は下がり、欧州の産業が立ち直る一助にさえなるかもしれない。それが国家財政に1セントの負担もかけない成長志向の改 革になろう。
ある意味「予想通り」
さて、如何だろうか。
上掲記事見出しにもある通り「再生可能エネルギーで失敗する欧州」のレポート。太陽光や風力などの再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)や助成金により、ドイツで全発電量の25%を再生可能エネルギーが占め、このために「電力料金2割アップ」と言う「予想された通りの結果」が出て、その電力料金値上げにもかかわらず既存の「再生可能エネルギーでは無い」発電法を擁する電力会社が経営 悪化していると言う惨状を記事にし、「新たな暗黒大陸」と銘打っている。
一寸冷静に考えれば、十分予想出来たことだ。太陽光も風力も、火力・原子力の数倍の発電コストがかかる。斯様な状態で太陽光や風力の発電量を「再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)」で全量強制買い上げすれば、電力料金値上げは当たり前だ。
無論、発電コストの高さ以上に問題なのは、太陽光や風力の発電量が制御出来ない事。「わざと発電しない/送電しない」事が出来る程度で、「必要に応じて発電」なんて逆立ちしても出来ない。これは原理的に出来ないのだから、幾ら技術が発達しようが普及して数が増え様が(*1)、出来ようがない。くどい様だが「私の自然エネルギー推進論 」で論じた通り、発電量を制御可能な「再生可能な自然エネルギー」は水力とバイオマス燃料火力だけであり、それ以外の「再生可能な自然エネルギー」は大容量高効率畜放電技術(*2)と組み合わせない限り、発電の主力を担えない。
1〉問題は、ある特定の瞬間に再生可能エネルギーがどれだけ生産可能なのか誰にもわからないことだ。
と言う、上掲記事WSJ紙の指摘は正しい。現状に於ける太陽光、風力などの「再生可能な自然エネルギー」発電は、発電コスト高騰要因であるばかりでなく、供給電力 不安定化要因でもある。これに続く「太陽電池パネルを屋根に搭載したガソリン車」の喩も秀逸だ。
2〉 天候が変わる度にエンジンのスロットルを調整するのに何時間も何日もかかることを除いてだが。
と言う部分も含めて。斯様なわかり易い喩こそが、「記者の腕の見せ所」であ り、「流石は文章のプロ」と思わせる。ツイッターやHPやブログなどが普及して「誰でも世界向け発信」があるレベルで実現している昨今なればこそ、斯様な「プロの技」・職人芸が求められよう。「社説に掲げるだけはある」と評するべきか。
3〉 FITと再生可能エネルギーの強制的な買い取りを止めれば、
4〉エネルギー価格は下がり、欧州の産業が立ち直る一助にさえなるかもしれない。
5〉それが国家財政に1セントの負担もかけない成長志向の改革になろう。
4〉エネルギー価格は下がり、欧州の産業が立ち直る一助にさえなるかもしれない。
5〉それが国家財政に1セントの負担もかけない成長志向の改革になろう。
と言うのが、上掲WSJ社説の〆なのだから、東京新聞はじめとする脱原発原理主義者どもとは真っ向から対立する結論だ。ま、それ故に、福島原発事故を経てなお原発 推進論者たる私(ZERO)が賛同できる主張なのだが。
さて、翻って我が国を考えてみよう。我が国も「菅直人の首相退陣条件」として「再生可能エネルギー固定価格買い取り制度(FIT)」を導入し、実施している。そ の割には欧州程の惨状を呈していないのは理の当然で、太陽光や風力など「水力を除く再生可能エネルギー」の発電シェアは、福島原発事故以前の1%から大幅に増加して1.6%に増えただけ、だから。2%にも満たない再生可能エネルギーが、如何に火力・原子力の数倍にもなる高コスト発電であろうとも、大した高コスト要因には ならない。電力供給不安定要因にはもっとならない(*3)。昨今の日本の電力料金値 上げの主要因は、まだまだ使える原発を稼働停止して、その分火力発電ぶん回して いるための燃料代だ。火力発電は、水力に次いでレスポンスが速い制御可能な発電 力だから、電力需要の変動にも対応出来ている。いや、それだけの火力発電余力を擁していた(*4)、各電力会社に感謝すべきだろうな。
であるならば、欧州の惨状は以って他山の石とすべきであり、「再生可能な自然エネルギー」こそ「過度に依存すべきではない」という事であり…「私の自然エネル ギー推進論」で論じた通りだ。
「我が意を得たり」とも言い得るが、つまらんと言えばつまらんな。
<注釈>
(*1) 発電コストの方は、技術発達や普及で下がる可能性がある。(*2) 近年発達著しいとは言え、蓄電池なんかじゃ全然足りない。電車を動かし、電気炉を稼働させる大容量が必要なのである。現有技術としては、揚水式水力発電所の「上の方のダムの水量」としてしか蓄電できない。(*3) 再生可能エネルギーが全く発電しなくても、発電量が1.6%減るだけで済む。(*4) 一部は急遽増設したり、老朽施設を再稼働させたりもしているが。