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 どうもAFP通信と言う通信社はミサイル防衛について批判的だ。無論、ミサイル防衛に批判的なのはAFP通信に限った事ではなく、その端緒となったSDI「戦略防衛構想」・通称「スターウォーズ計画」の頃には、偉大なる・故アイザック・アシモフ老(*1)も批判的意見を述べていた。

 30年ほど前とは言え、偉大なる故・アイザック・アシモフ老さえ懐疑的であったミサイル防衛だ。30年後のAFP通信が未だ懐疑的であっても、異とするには足るまい。が・・・



<注釈>

(*1) 古典的SF作家と言うばかりでなく、とんでもなく多作な作家と言うばかりでなく、その科学的批判精神と言う点に於いて、私は故・アイザック・アシモフ老を尊敬している。


米ミサイル防衛システム、技術上の疑念払拭できず
http://www.afpbb.com/article/politics/2945950/10796304
2013年05月24日 14:17 発信地:ワシントンD.C./米国

【5月24日 AFP】  ロナルド・レーガン(Ronald Reagan)米元大統領により「スター・ウォーズ(Star Wars)計画」の開発が開始されてから30年──その技術力をめぐっては常に懐疑的な見方が絶えないまま、高価な技術である「ミサイル防衛プログラム」は米戦略上の柱となっていった。

  かつては旧ソ連の核攻撃を念頭に開発が進められた迎撃ミサイルのネットワークだが、今日では北朝鮮やイランによる、いわば「限定的な攻撃」の阻止を目的としている。ただ多くの専門家らは、このシステムは機能しないのではと懐疑的だ。

  1980年代の発案時には激しい論争を巻き起こした同プログラムだが、今日の米政府内ではその地位は確固たるものとなった。しかし、大気圏外を飛ぶ弾道ミサイルを別のミサイルで打ち落とすためには高度な技術力が必要で、それは発案から30年が経過した今でも変わらない。

  軍艦26隻に搭載されている海上配備型の迎撃ミサイル「SM-3」および米アラスカ(Alaska)州とカリフォルニア(California)州の格納庫に置かれた地上配備型の迎撃ミサイルは、ともに高精度レーダーを用いて、宇宙空間を飛ぶ大陸間弾道ミサイル(ICBM)といった長距離ミサイルを撃ち落とすよう設計されている。

  米陸軍宇宙ミサイル防衛指令部(US Army space and missile defense command)司令官、リチャード・フォーマイカ(Richard Formica)中将は最近、議員らに対して「今日あるいは近い将来、北朝鮮やイランによる限定的な攻撃から、この弾道ミサイル防衛システムの能力が米国を守ることができると我々は確信している」と語った。

  米ミサイル防衛局(Missile Defense Agency、MDA)によると、北大西洋条約機構(NATO)の迎撃ミサイルシステムでも使われている「SM-3」は、迎撃実験30回中、成功は25回だった。一方、地上配備型の迎撃ミサイルは、最後の2回で失敗しているという。

  北朝鮮とイランの両国は、米国(本土)に到達可能なICBMの開発にまだ成功していないが、ミサイル防衛計画は「技術的な幻想」にすぎないと一蹴する科学者もいる。

  米コーネル大(Cornell University)の物理学者、ジョージ・ルイス(GeorgeLewis)教授とマサチューセッツ工科大(MIT)のセオドア・ポストル(TheodorePostol)教授は、2010年に共同でまとめた報告書の中で、「何十億ドルという予算を充てたにもかかわらず、高高度での弾道ミサイル迎撃については、根本的な問題がどれも未解決で、解決の兆しすら見られない」と述べている。

  「米国防省の迎撃実験は『見せかけの成功』をもたらしたにすぎない」と述べる両教授は、実験では、弾道、発射のタイミング、ミサイルの種類などすべてが事前にわかることを指摘しながら、「実験は、根本的な欠陥を隠す意図のもと、綿密に描かれたシナリオに沿って実行された」とした。

■デコイ(おとり)の検知

  米国防省は過去数年間に発表した実験報告書の中で、現時点での地上配備型迎撃ミサイルの技術は未完成であり、「単純な脅威に対しての限定的な能力しか証明できていない」と認めている。1基あたり7000万ドル(約71億5000万円)の費用がかかるという。

  米国では現在、1基あたり2000万ドル(約20億4000万円)の新型SM-3の開発が進められている。この新型ミサイルについて米議会の独立監査機関である米政府監査院(Government Accountability Office、GAO)は、採用される技術が最新のものでなかったり、場合によっては「不十分」なものになるのではと懸念している。

  この計画に懐疑的な人々は、複数のミサイル発射やレーダーへの攻撃、もしくはデコイ(おとり)の使用で、敵国はシステムを不能にすることができると指摘する。専門家によれば、アルミニウム製の気球や無数の小さなワイヤーなどでも、システムを混乱させることができるという。

  米カリフォルニア(California)州モンテレー国際研究所(Monterey Instituteof International Studies)の物理学者、ユサフ・バット(Yousaf Butt)氏はAFPに対し、「弾頭を搭載しても軽々と飛ぶことのできる、気球のような軽量のデコイは簡単に作ることができる。しかも本物と区別するのは非常に難しい」と語った。ミサイル防衛計画に携わる軍当局者など、計画の強力な擁護者でさえ、デコイは面倒な問題だと認めている。

  錯綜する実験結果や、軍縮努力を踏みにじるものとしたロシアからの批判にもかかわらず、迎撃ミサイルは同盟国に売られ、また軍事産業の活発なロビー活動の後押しもあって、議会でも強く支持されている。

  政府は、1980年代の計画開始以降、総額1580億ドル(約16兆1500億円)の予算が投じられたと発表しているが、実際はそれよりもさらに多いとの見方もある。

  米国は財政問題に直面しているが、この計画への影響は限定的なようだ。米国防省は2014年度の予算として92億ドル(約9380億円)を要求しており、また向こう5年間の予算として総額457億ドル(約4兆6400億円)が必要とした。

  しかし、懐疑派にとって、ミサイル防衛技術は確立したものではない。物理学者のバット氏は、「宇宙空間を飛ぶ弾頭(ミサイル)に命中させることは、成功を思い描くことさえできないほど非常に難しい。それは技術的な問題ではなく、物理的な問題だからだ」と述べた
。(c)AFP/Dan De Luce


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民主主義体制下の国民には、冷徹な判断と批評が要求される。国防もまた然り。


 さて、如何だろうか。

 3000字弱程の上掲AFP通信記事は、次の一文に要約されるのではなかろうか。

1〉 ミサイル防衛計画は「技術的な幻想」にすぎないと一蹴する科学者もいる。

 その後、御大層な肩書の先生方があれこれ述べているが、煎じ詰めれば上記1〉に尽きそうである。アメリカは民主主義国家で、学問の自由も言論の自由もあるし、大凡この世のありとあらゆる事象について賛否両論があるから、「ミサイル防衛計画に反対する学科学者が居る」のは当たり前だ。だが、上記1〉「一蹴する学者もいる」と言う事は、「ミサイル防衛計画の成否は、議論の対象である」とは言い得よう。

 だが、チョイと視点を変えて、逆の事を考えて見るが良い。ミサイル防衛なんぞに大金を投じないならば、アメリカ合衆国は如何なる防衛計画を立てるだろうか?

 単純に言って、タイトルにもした通り、大量報復戦略だろう。一発でも核ミサイルを喰らったら、核ミサイル・核爆弾の一斉射撃・絨毯爆撃で報復攻撃する、冷戦はなやかなりし頃の防衛計画。これに必要な技術は、冷戦時代に殆ど確立していた。大陸間弾道弾をはじめとする地上発射の核ミサイルと、ミサイル原潜搭載のSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)。それに(*1)長距離有人爆撃機搭載の核爆弾。何れも確立した技術であり、未だ相応の勢力を保った兵力もあり、アメリカには「専守防衛」だの「憲法9条」だのの手枷足枷も無いから、大量報復戦略に立ち戻るのは大した手間ではない。上掲記事が指摘する「ミサイル防衛計画の高い費用」も払わずに済む。それどころか、「弾道ミサイルと核弾頭による核恫喝と言うのは、世界でも屈指の貧乏国である北朝鮮さえ連綿と続けられるぐらい「安価な戦略」だ。防衛費削減への圧力が凄まじい昨今であれば、なおのこと大量報復戦略は魅力的だし、イランだろうが、北朝鮮だろうが、その主要都市に大打撃を与えるだけの核兵器は冷戦終結後のアメリカ軍でも未だに在る。

 だが、大量報復戦略は、最初の一発、最初の一撃を、防げない。大量報復による抑止効果は期待できるし、それは冷戦時代を通じて有効ではあったが、一度攻撃を決意した敵国からの一撃は「受けて立つ」、言わば横綱相撲が大量報復戦略だ。その報復攻撃で、敵国が地上から消滅しようとも、敵国からの最初の一撃によって被る被害は、免れない。

 その「敵国からの最初の一撃」による被害を、無くすないし軽減・極限しうる可能性が、ミサイル防衛計画にはある。

 アメリカに続いてイスラエルが、主として短距離中距離の弾道ミサイルや砲撃に対する小規模なミサイル防衛を計画し、Iron Dome(鉄のドーム)だのDavid's Sling(ダビデ王の投石器)だのArrowシリーズだのの、「山椒は小粒でもピリリと辛い」と評したくなる独自のミサイル防衛兵器を開発・配備しているのも、そのためだ。

 翻って、我が国はと言うと、「専守防衛」だの「憲法9条」だのの手枷足枷を別にしても、細長い国土に密集した人口と高度に発達した市街地に、全く普及していない核シェルターと、「敵国からの核第一撃」を「受けて立つ」のは困難な条件が揃って居る。たとえ既に二発核攻撃を喰らった「人類史上唯一の核兵器被爆国」であろうとも、だ。

 アメリカは、大量報復戦略に立ち返り、ミサイル防衛を「不要」とする事も、可能かもしれない。

 だが、我が国にとっては、ミサイル防衛は有用である。

 アメリカの学者先生が、何と言おうとも、有用なのであるから、追求すべきであう。



<注釈>

*1) 今ではまあ、おまけと言うか、端役になってしまったが