応援いただけるならば、クリックを⇒ https://www.blogmura.com/

 再三繰り返す通り、当ブログでは、東京新聞を「脱原発原理主義」と断定し、幾つもの記事をアップしている。また、再三繰り返す通り私(Zero)は「福島原発事故を経てなお原発推進論者」であるから、「脱原発原理主義」・東京新聞との意見の隔たりは、海よりも深く山よりも高い。とは言え、それは我が国の取るべきエネルギー政策を巡っての対立にしか過ぎないから、他の方面では意見の一致を見る事だって、無いではない(※1)。確か、猫ひろしとか言う芸人がカンボジア国籍を取ってオリンピックマラソン選手になろうとした件では、東京新聞のまともな議論と、毎日か何かのトンデモ論とを対比させて記事にし、東京新聞の正論を支持した事もある。

 今回東京新聞がその社説に取り上げたのは、インドへの原発輸出につながる日印原子力協定。方面としては「脱原発対原発推進」=「日本のエネルギー政策」に近いから、東京新聞の主張に私(Zero)が賛同できないのは予想された通りなのであるが、それにしても・・・

<注釈>




【東京社説】日印原子力協定 経済優先がすぎないか
http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013053002000125.html
2013年5月30日

 安倍晋三首相は来日中のインドのシン首相と原子力協定をめぐり交渉の再開で合意した。原発技術の輸出は福島第一原発事故の教訓より経済を優先している。しかも核不拡散の原則に反している。

「暑い時期は気温が四〇度を超えるがエアコンが使えない。寒い時期は二~三度まで下がるが暖房が使えない。多くのインド人はとにかく電力がほしい。それが原子力かどうかなんて気にしない」

ニューデリーに住むインド人男性は、電力不足への市民の不満をこう話す。停電は日常茶飯事だ。

インド政府は電力供給の“切り札”に原発の増設を進める。現在、稼働中の原発は二十基あり、今後十年間で二十五基を新設する。発電量に占める原子力の割合を今の約2%から二〇三〇年までに十三倍に増やす目標だ。

そのため日本の原発技術はのどから手が出るほどほしいだろう。既に欧米からは技術協力を得ているが、原発政策を担う政府機関・インド原子力公社の幹部は以前、「日本との協力が最優先だ」と語った。日本にとっても大きな市場になることは間違いない。

だが、インドは必ずしも福島の教訓まで求めていないように見える。膨大な除染や賠償費用について、この幹部は「それは津波のコストであって原発技術が起こしたわけではない(*1)」と語った。

 原発事故は多くの人の命や生活を脅かす。その教訓が共有されていないのではないか(*2)。

安倍首相は「事故の経験と教訓を世界と共有することによって、世界の原子力安全の向上に貢献していく」と言うが、原発政策はあまりに経済優先ではないか。国内では新増設に慎重なのに海外へは積極的に輸出するのでは、国際社会の信頼を得られない(*3)。

核の拡散も懸念される。インドは核保有国だが、核拡散防止条約(NPT)に加盟せず、包括的核実験禁止条約(CTBT)にも署名しておらず国際社会の監視が届きにくい(*4)。

米国がインドの経済成長に目を付け既に原子力協定を結んだ。日本も参加する原子力供給国グループもインドを例外にして核技術輸出を解禁した。これではNPT体制が揺らぎかねない(*5)。

日本が語るべきはNPT加盟を促し核兵器削減と開発中止を訴えることである。協定交渉では核実験すれば原発の技術協力を停止するとの条件を求めるべきだ。それが唯一の被爆国の責務である。


<注釈>


(*1) 此のインド幹部が言っている事は正しい。インドは「亜大陸」とも呼ばれるほど広大な陸地がある。津波のリスクが無い原発だって、十分可能だろう。

(*2) なんだ、この極端な一般論化による暴論は。

(*3) ならば、国内でも新増設に積極的であるべきだな。
 処で、我が国は「国内では原発新増設に慎重」なだけなのかね。それは一寸前の東京新聞自身の社説「原発政策 国の内外で使い分けるな」と齟齬があるのではないか。(首尾一貫脱原発原理主義-【東京社説】「原発政策 国内外で使い分けるな」のタイトルにだけ同意  http://www.blogs.yahoo.co.jp/tiger1tiger2stiger/38189837.html? )

(*4) 言っている事がサッパリ判らん。東京新聞も認める通り、インドは核兵器保有国であるから、第一義的に「核拡散の懸念」の対象外である。NPT加盟もCTBTも、インドがすでに核兵器保有国である事と、直接の関係は無い。
 第一、インドは原発を日本から輸入しなければならない訳ではない。日本が原発輸出しなければ、他の国から買うだけの話だろう。

(*5) 一体NPTに何を期待しているんだ?と言うか、この事実は、「日本がインドに対し原発禁輸したところで、核不拡散の意味は殆ど無い」と言っているだろう。

東京新聞の奇妙な「原発輸出推進論」


 さて、如何だろうか。

 煎じつめれば本記事タイトルの通り原発を輸出して核不拡散を推進しよう!と言う事になろう。一般論から言えばこんな主張は「トンデモ論」であろう。フランスがイラクに原発を輸出したからこそ、そのオシラック原子炉完成前にイスラエルは空爆を掛けて此れを破壊し、「核拡散を阻止」=「核不拡散を実施」している。「原発を輸出しても、核兵器保有/核拡散につながらないようにする」事はまだ可能かも知れない(※1)。だが、「原発を輸出して、核不拡散を推進する」なんて事は、普通の発想では出来ない。

 それを知ってか知らずか(※2)、東京新聞がひねり出したのは、実に奇妙な「核不拡散推進策」で・・・

1〉  日本が語るべきはNPT加盟を促し核兵器削減と開発中止を訴えることである。
2〉 協定交渉では核実験すれば原発の技術協力を停止するとの条件を求めるべきだ。それが唯一の被爆国の責務である。

 箇条書きにすれば、以下の三項目となる。

 ①NPT(核拡散防止条約)加盟の促進

 ②核兵器削減/開発中止の訴え

 ③核実験実施の際は技術協力停止を原子力協定に明記

 上記①「NPT加盟」は、象徴的な意味合いならば在りそうだ。また、インドがNPT非加盟国だからこそ、採りえる手段の一つではあろう。だが、イランも北朝鮮もNPT加盟下で核兵器開発に勤しんでいる(※3)から、「核拡散防止条約」と銘打たれてはいるモノの、実効/実害はかなり怪しい。またそれ故にかNPT非加盟国と言うのは相当な少数派。従って「NPT加盟を促進」出来る相手は、殆どインド限定でもある。端的に言って、あまり意味のない項目だ。

 上記②は…原子力協定と直接の関係が無い。「日本は唯一の核兵器被爆国である」と言うのも「核兵器廃絶/削減」と言うのも、折に触れて日本政府や(一部)日本人が訴える処であるが、社交辞令と言うか、枕詞と言うか、定冠詞と言うか、「実際上の意味を持つ事」は殆ど無い。原子力協定交渉の場に於いては、一座の座興・浪花節にはなりそうであるが、それだけであろう。

 上記③で、ようやく具体的かつ原子力協定の直接関わる「核不拡散推進策」が出てくる。「核実験すれば技術協力停止」と言う厳しい条項は、相手国の核兵器開発を相当程度阻害出来よう(※4)。未だ核兵器を保有して居らず、核兵器保有の意思を公言していない国に対しては、真っ向から反対しかねる条項でもあるかも知れない。
 だが、インドはすでに核兵器保有国で、公言も公然も無く、実際に核兵器を保有している。「核実験すれば技術協力停止」と言う条項に対しては、「現有の核兵器の信頼性安全性を高めるため、核実験は必須」などの正面切っての反対が可能な立場だ。
 ああ、上記2〉は、「条件を求めるべきだ。」になって居るな。「求める」だけならば実害は無い。「求めたが、却下された」でも「唯一の被爆国の責務」は「一応」果たせる。だが、それは、斯様な条項が実効性乏しい事を意味している。

 無論、原発は我が国の専売特許ではない。上掲社説でも米印原子力協定締結に触れている通り(※5)上記③「核実験したら技術協力停止」条項を嫌うならば、インドとしては、米国かどこか日本以外から原発を買うばかりだ。そうなれば日本は、原発輸出に失敗し、核不拡散には全く関与しない事になる。
 流石にこの点に気が付いた、と言う事だろうか。先行する東京新聞社説「「原発政策 国内外で使い分けるな  http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2013051102000144.html」とは異なり今回の社説では東京新聞が我が国の原発輸出を、容認どころか推進しているのは。

 「誤りを改めるに、憚る事なかれ」と言う。東京新聞だって、私と同様、神ならぬ身の人なのだから、「誤る」事は、当然あろう。だが、社会の公器たる新聞が、その主張として社説を明らかにしているのだから、社説に誤りがあったなら「誤りがあった」と、公式に認めるべきではないか。

 それにしても、「核不拡散のための日本製原発輸出推進」と、「脱原発原理主義」が同居できてしまうのだから、人間とは不思議なものだな。

 それとも、東京新聞は、「脱原発原理主義と言う誤り」も、改めたのだろうか。

<注釈>

(※1) そうは言っても、イラクがNPT加盟国で、その原発保有はイスラエルの空爆でしか阻止できなかったのだから、少なくとも「容易な事」ではない。 

(※2) 「知らない」と言うならば大間抜けであるが。

(※3) 北朝鮮は、今はNPT脱退している。が、NPT加盟下で核兵器開発に勤しんでいた事は、疑問の余地が無い。 

(※4) 核実験を伴わない核兵器開発手法はあるから、「完全に阻止」ではない。 

(※5) 而して、賭けても良いが米印原子力協定に「核実験したら技術協力停止」なんて条項は、無い。