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ラジオとかテレビと言った主として地上波による報道は、どうも「垂れ流し」「報道しっ放し」と言う疑義ないしイメージが払拭できない。
実際、録音機器や録画機器が普及するまで「地上波による報道」はモニター・監視が困難であり、専門職ぐらいしか実施しえなかった。ならば、誤報虚報不適切表現等に対するネガティブフィードバック=抑止は効果が限定的となる。モニターしていない事象は、フィードバックしようがない。媒体特性としての即時性・リアルタイム性と相まって、報道は一過性なものになりやすく、勢い「垂れ流し」「報道しっ放し」となりやすい。
逆に言えば新聞はじめとする紙媒体活字メディアの利点は、「モニター・監視の容易さ」に基づくネガティブフィードバック=抑止の有効性と、それに応じた「深い」報道である(と、私(Zero)は考える)。
とは言え、そんな「地上波による報道の”我が世の春”」も、録音機器・録画機器の普及やネット報道などによる反復(可能)性によりモニター・監視が容易になり、ネガティブフィードバック・抑止も効く様になって、改善がみられる・…かどうか、正直良くわからない。ラジオは未だ聞くが、テレビなんてものは殆ど見ないから。だが、タイトルにもしたNHK AMラジオの「ニュース解説」じみた報道を聞くと、やっぱり「垂れ流し」「報道しっ放し」と言う感を、再認識してしまう。
4/8朝のNHK AMラジオ「ビジネス展望」で、例によって専門家だが学識者だかが登場し、「アベノミクス、二つの格差と一つの危機」と題して5分ほど「御高説」をのたもうていた。まあ例によって例のごとく「アベノミクス批判」による「安倍政権批判」なのであるが、「アベノミクスによる円安株高の実現」を受けて、この先生の言う事には・・・
(1) 円安で海外からの輸入品が高騰している。このため輸出主体の大企業は円安で利益を上げているが、中小企業は原材料のコスト高を価格に転嫁できず、苦しんでいる。【格差1】
(2) 株高で、株による利益を享受できる世帯は潤って、そうでない世帯との格差が広がっている【格差2】
(3) 円安で貿易黒字が拡大するとは限らない。貿易赤字に転落すれば、「黒字大国日本」のブランドが崩れる。【危機】
…何というか、「君主は、何をやっても悪く言われる。」とは古代ギリシャの雄弁家キケロの言葉だが、21世紀の日本でも立派に通用するんだから、時代の流れに洗われ抽出された古典ってのは、やはり一目置かざるを得ないんだなと感心する。
何しろ、デフレを言われて以来「円安株高」ってのは殆ど悲願のように言われていた。「言われていた」だけで、それが「誤りであった」と言う可能性は十分あるのだが、実際に「円安株高」になったら上記(1)~(3)の様にしたり顔で批難するとは、いくら学者やら有識者やらが為政者ではなく、実施者・実行者ではないからと言って、無責任にもほどがあろうに。
第一上記(2)なんてのは、殆ど「株高になれば必然的にそうなる」状態であり、「実際に株高にならないとわからない」モノでもなんでもない。それを何を今更「解説」しているのかわからないし、その「論理」に従うならば、「世帯間の格差を小さくするためには、株安が望ましい」と言う事になる。それはそれで、「嘘」ではないだろうが、一体、何をしたいんだ?株価が景気の指標であり、「景気を良くする」事がここ20年ほどの政府経済政策だったではないか。「こんな株高ではなく、別の株高を求めていたのだ」と言うならばまだしも、「株高に伴う必然の現象を非難する」と言う事は、「株価は上げるな」と言っているとしか思えないんだが、で、「格差を小さく」して、何が面白いんだぁ?
上記(1)も相当怪しい。当該大先生は「中小企業からの悲鳴が続々と私の所に届いている」と、ぬけぬけとほざいていたが、その「悲鳴を上げている中小企業」は、長い事続いた「円高のメリットを享受してきた」と言う事ではないのか。
悲鳴を挙げたり、円高メリットを享受したりの境目を決めるのが「価格への転嫁」である事は確かだ。最大限好意的に解釈すれば、大先生の説は「円高であった従来はその分価格を切り下げられ、円安に転じても据え置かれているから中小企業は苦しんでいる」と言う主張となろうが、そうであるならば問題は、「円安によるコスト高を価格に転嫁できない事」であって、「円安」そのものではないし、「円高」に再び戻しても解決にはならない上、直接政府が関与する経済政策ではあるまい。それとも、政府は価格統制を敷いて「適正な価格」を強制しろ、とでも言うのだろうか。否、共生の程度こそあれ、それ以外の経済政策は主張のしようが無い筈だ。
上記(3)で言う【危機】も、幾つもの点で不可解だ。真っ先に浮かんだのは「”黒字大国のブランド”がそんなに大事か?」である。実際に「黒字大国である事」は大事だろう。それは国富の増加傾向を示しているのだから。だが、”黒字大国のブランド”なんてのは、要は「日本のイメージアップ」でしか無かろう。キャッチフレーズや宣伝文句にするには大事だろうが、貿易収支の赤黒なんかよりも売り込めるモノが、我が国にはたんとあろうが。
次に「円安が貿易黒字につながるとは限らない。実際あまり黒字は増えていない」と言うロジックに、相当な飛躍がある。我が国の貿易収支の相当部分は、今大半の原発を止めている事による、火力発電の燃料代が占めている。「原発が止まっている」と言う緊急事態に急いで買い込んでいる燃料だから、足元見られて値もはっている。「黒字大国のブランドを守る」ためならば、否、「貿易赤字に実際に転落しない為」にも、当然「原発再稼働して赤字幅の圧縮を実施する」のが筋だ。
だが、NHK AM放送登場の大先生は、そんな事には隻言半句も触れはしない。「円安による貿易黒字拡大の妨げ」になっているのが「大半の原発稼働停止」と言う我が国の異常事態であることにも触れない。「一般論として、円安が貿易黒字拡大には直結しない」と言うだけである。
ならば、「円高を放置しておけば、貿易収支は赤字に転じる事は無い」のだろうか。左様に断言も大先生はしないし、そんな断言が出来ようとも思われない。それどころか、大先生の言う上記(3)「貿易赤字国へ転落の危機」と「アベノミクスによる円安株高と言う現状」の因果関係が、極めて不鮮明だ。放送では何やら数字を挙げていたようだが、それは「貿易収支の現状と傾向」でしかない。その傾向の原因を、少なくとも原因の大半を「アベノミクスによる円安株高」に帰するには、少なくとも説明・論理が必要だろう(※1)。
以上からすると、NHK AM放送に登場した大先生は、上記(1)~(3)の通り「アベノミクスによる円安株高実現」を非難しているが、その代替策については直接言及すらせず、上記の通りの考察から推察される経済政策「大先生ミクス」は・・・
① 円高放置。若しくは国内販売価格の統制
② 株安誘導(具体策は不明)
③ 上記①、②によって格差の拡大を防止すると共に、貿易黒字を増大させる(筈。 根拠不明)
と言う事になる。
推論を重ねた結果で断言するのは憚られるが、端的に言って経済政策の体を為していない。
評論家とはそういうモノ、経済学者とはそういうモノで、ラジオ番組「ビジネス展望」は、予想・予言さえすれば良い、と解釈できなくもないが・・・
「君主は、何をやっても悪く言われる。」キケロの言葉が想起される所以だ。
それでも「何かをやらねばならない」のが君主=為政者である事も、万古不易だ。だから安倍自民党政権は、アベノミクスを選択し、ある程度目論んだ「円安株高」を実現した。「何も決定しない」よりは積極的だし、目論んだことが実現した事は、評価すべきだろう。
「円安株高とて、良い事ばかりではない。」と言うのはその通りだろう。だがそれは、少なくともここの所ずっと続いた「円高株安」との相対比較でなければ、意味を持たない。「中小企業の悲鳴」も「大企業の高笑い」と併せて評価すべきだし、「富裕層の富裕化による格差拡大」とて「株安による”格差”縮小」との相対比較だ。欠点だけ論えば、大抵の政策は批難の対象たり得る。
正にそれこそ、キケロが太古の昔に指摘したところ、であるが。
古典の御名を誉む可きかな
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<注釈>
(※1) ソリャ世の中には数多の学説があり、経済学の学説は特に数が多そうだから、「円安下部だが貿易収支を悪化させる」と言う学説ぐらいは、あるだろうけれども。
追記
立教大学経済学部教授
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山口義行さん放送の
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