応援いただけるならば、クリックを⇒ https://www.blogmura.com/

.

半島丸ごと割譲論

 さて、如何だろうか。

 論旨は明白だろう。半島は中国に渡せ。だ。

 正直なところ、当該コラムには例によって「注釈による突込み」を入れようかと考えたのだが、余りに注釈だらけになりそうなので、止めた。たとえば、簡潔に「半島統治は中国に肩代わりさせろ」と述べた最初のパラグラフに続く第2のパラグラフを取り上げただけでも、以下の様になる。

4〉  実際のところ、世界市民として中国ほど安定した歴史を持つ国家は他にない。
5〉 過去2000年以上にわたって中国は、隣国を武力で征服しようとしたり、
6〉 古代ローマやモンゴル、英国、ドイツ、フランス、スペイン、ロシア、日本、米国などに匹敵するような規模では、自国の統治システムを広めたりはしてこなかった。
7〉 自国の一部とみなすチベットの分離独立には容赦ない対応を取っているが、これまで歴史的国境を越えて土地を奪ったことはない。

…いくら「米サンディエゴ州立大学の歴史学教授」様で、「情報の精度は距離の二乗に反比例する」と言われるとは言え、「米国務省歴史諮問委員会の元メンバー」ともあろう者が、この凄まじいばかりの事実誤認はどうであろうか。
 上記4「世界市民として」の「中国」と言うのが如何なるシロモノかが先ず不明であるが、最近百年ばかりの間に辛亥革命と国共内戦と、少なくとも2度の革命のために、清帝国から国民党政府、共産党政権へと3代にわたって王朝が交替していると言うのに、一体何が「安定した歴史を持つ国家」と言うのだろうか。
 さらに言えば、「安定した歴史を持つ国家」と言うならば、我が日本の右に出る国は、殆ど無い。大化の改新から数えても1300年以上、アメリカ合衆国独立以来の期間の6倍以上も一つの王朝が続いている。「万世一系」は未だ比喩的表現であるが、我が国ならばそれを実現する可能性すら、想像し得る。
 そこは上記5〉にある通り、日本は「自国の統治システムを広めた」から「半島統治の資格は無い」と仮にしたとしても、だ。今度は大陸は支那、現在中国共産党政権支配する国、通称「中国」が上記5〉過去2000年以上隣国を武力征服していないと言うのが大問題だ。これは、上記7〉これまで歴史的国境を越えて土地を奪ったことはない」という認識とも強い相関がある。要は歴史的国境」ってのは何処か、と言う事だ。上記6〉「モンゴル」を中国とは区別しているから、流石に元帝国の「東は半島から西はウイーンまで」を「歴史的国境」とは認めていないようだが、ダマンスキー島/珍宝島を巡る中ソ国境紛争も、中越戦争も、さらには北朝鮮軍に加担した朝鮮戦争も上記7〉「歴史的国境を越えて土地を奪ったことはないと評するならば、上記で言う「歴史的国境」には、朝鮮半島全域からベトナムまで含まれて居る筈だ。

 だが、上掲コラムの後半で

8〉 中国は急速に世界の工場となったが、そうした半導体は大規模には生産されていない。
9〉 (中略)中国は、韓国や台湾から輸入された半導体に大いに依存しているのが現状だ。

と、中国の製造業が韓国・台湾の半導体輸入に依存している事を挙げて、

10〉  半導体の製造施設には巨額の投資が必要であり、工場1カ所に60億ドル(約5661億円)以上かかる。
11〉 これらは金の卵を産むニワトリであり、こうした産業基盤を破壊しかねない近隣国との核戦争、もしくは通常戦争を中国は絶対に望まないはずだ。

と論じているのだから、始末に悪いと言うかなんと言うか・・・

 (1) 朝鮮戦争における中国の北朝鮮軍への介入を「歴史的国境を越えて土地を奪ったことはない」と評するならば、上記で言う「歴史的国境」には、朝鮮半島全域まで含まれて居る筈だ。

 (2) その「歴史的国境範囲内」である少なくとも韓国からの半導体輸入に中国製造業が依存するのだから、中国が韓国併呑を望み、武力侵攻もありうる筈で、武力侵攻しても「隣国を武力で征服した」事にはならない。

 (3) 同様の理屈は、先ず間違いなく台湾に対しても成立する。清帝国は台湾も満州も「化外の地」として統治を諦めていたにも拘らず、満州は一寸前まで中国の重要工業地帯であったのだから。

 (4) 言い換えれば、「中国の韓国・台湾製半導体依存」は、上記11〉戦争による韓国・台湾の半導体工場破壊を”中国が絶対に望まない”」としても、無血占領や併呑は抑止せず、むしろ促進する。さらにそれは、上掲コラム記者の認識に従えば、「歴史的国境範囲内」であり、「隣国を武力で征服した」事にはならない。

 即ち、上掲ロイターコラムの主張は、「米軍の朝鮮半島撤退論」には止まらず、章題にした通り「全朝鮮半島割譲論」である。それも、美事なまでに”中国共産党政権の歴史認識=プロパガンダ”に基づいた。

 だが、元帝国を「中国」と「分離」した「歴史的国境」に基づいたとしても、20世紀も後半以降になってから尖閣諸島の領有権を言い出し、さらには「核心的利益」とまで言い始めた現・中国共産党王朝の侵略行動まで正当化する事は出来ない。

 それを上掲コラムの通り、正当化できてしまうからこそ、曲学阿世の徒、なんだが。